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オリジナルオンライン−唯一無二のその力で−  作者: 井上狼牙
第二章 交錯する各々の意志
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第65話 黒い波の中で

「戦わない人は、中庭に戻って! やる気がある人はこの場所の死守! それとアリをできる限り排除! 急ぐ!」


 走りながら、そこらで呆然としているプレイヤー達に声を掛けていく。

 本当は状況を説明して片っ端からアリ退治に連れていきたいのだが、今はそんな時間もない。

 戦う判断は各々に任せて、とにかく移動を優先する。


「お、おお、分かった!」


「よっし、この場は任せろ!」


 それでも、それなりの数のプレイヤーが快い反応を見せたり、私達についてきてくれるのだから不思議だ。

 アリに埋め尽くされていく城下町を眺めながらも自分の無力を痛感し、そこに飛ばされる指示に奮起して任務を成し遂げようとする。

 もしそんな風に考える人がこれだけ居るのなら、やはり皆を助けたいと言う私の考えは間違っていなかったなと思う。

 そこに、目の前で殺されたアルフレイドの影響があったのだとしても。


「こ、これだけ人が居て大丈夫ですかね……?」


 アドリアさんが顔を引き攣らせながら言う。

 確かに、そこらに屯していた人達に片っ端から呼びかけていった結果、私達と共に城下町を目指す人数はかなりの数に上っている。

 集団を指揮していた身でもあるアドリアさんからしてみれば、百人を超えるだろう大行軍には不安が付きまとうのだろう。


「大丈夫。これからは統率も何も必要ない、単純な集団戦。アリを片っ端から駆除していくんだから、人はいくら居たって足りない」


 勿論、人が多ければアリに殺されて死ぬ人が出る危険性も高まる。

 だからデロスに関しては、事情を知っている私達の仕事だ。


「レ、レイナさん! あれ!」


 ティアが走りながら、前方を指差す。

 私にも、その状況は目に入っていた。


 迫り来るアリと戦う、十数人のプレイヤー達。


「う、らああああっ!」


 アリの群れに飛び込んで、手に持った片手剣を振り回す者。

 驚いたことに、アリは触れた端から花火の様に鮮やかな火花を散らして爆発していく。

 巨大な斧を薙ぎ払い、一振りで二桁に上る数のアリを砕き散らす者。

 少し離れた場所で弓を引き絞り、的確に空飛ぶアリを打ち落としているのは海獅子戦の前に私達に絡んできた忌々しい弓使いに間違いない。


 自らを最強と豪語するI.W.のメンバー達が、目の前で激戦を繰り広げていた。


「あっ……!」


 いかに彼らが強いと言えど、流石にこれだけの量のアリを防ぎきることはできないか。

 思わず立ち止まってしまった私達に向けて、数匹のアリがI.W.の防衛戦を抜けてやってくる。

 それを迎え撃つために、私は腰から剣を引きぬいた。

 右手のひらを前方に向け、魔法を放とうとしたその瞬間――こちらに向かうアリの首が全て同時に落下した。


「おおっ!? ――っと」


 勢い余って、と言ったように私の目の前につんのめって姿を現したのは、抜身の短剣を逆手に持った男性プレイヤー。

 まず間違いなく、この人が凄まじい速度でアリの首を叩き落としたのだろう。

 というより、このプレイヤーには見覚えがある。


「あなたは……」


「おおっ! あんた、さっき演説してた嬢ちゃんじゃねーか! 援護に来てくれたのかよ、助かるぜ! おら! あんたらもよろしく頼むよ!」


「おおおっ!」


 私と、その後ろのプレイヤー達に向かって朗らかに叫ぶ青年。

 その声に応えるように、私達について城下町に降りて来たプレイヤー達は皆、雄叫びを上げながらアリに突進していく。


「ほら、あんたらも。さっき白い大剣持った兄ちゃんがトカゲと絡み合いながら降りてったゼ。その前にゃ、無手の怖いカオした兄ちゃんもな」


 I.W.のサブマスターであるこの人は、名前をセンクと言ったか。

 さっきのギルド集会では、私の意見を支持してくれたたった一人の人物でもある。


 センクは静かに私達を促しながら、状況を教えてくれた。

 ゴルムは何かと戦っているようだが、リュウとデロスが城下町へと降りて行ったのは間違いない。

 私達も、成すべきことをしなければいけない。

 

「わりぃな。俺らにできるのはこれくらいだわ。城は俺達が責任もって守り切るからよ。――あいつのこと、任したぜ」


 センクはもちろん、ここにいるプレイヤー全員が、デロスの凶行を目撃している。

 そしてセンクにしてみれば、アルフレイドとその他の仲間数人が、デロスに殺されていることになる。

 彼の身に走る衝撃も、少なくないはずだ。


「……分かった、ありがとう」


 短く答えて、アドリアさんとティアを連れて戦場を駆ける。

 最前線で戦うI.W.の脇もすり抜けてアリの群れる城下の街並みへと身を躍らせ――。


「――[氷結領域(アイシクルノヴァ)]!」


 [獅子水爆]による恩恵を注ぎ込んだ渾身の一撃。

 白の波動はアリを飲み込みながら拡散を続け、広範囲を一度に氷漬けにした。


「すっげぇ……」


 呆然と呟かれた誰かの声を聞きながら、最後に剣を振って氷にヒビを入れ、歩きやすいように砕く。

 私の置き土産はどうやら、皆の指揮を上げるのに十分な効果があったらしい。

 背後で上がる雄叫びに苦笑しながら、私達は未だ数千のアリが蠢くだろう城下町へと足を踏み入れた。

 

 






 群れるアリ、一匹一匹はそれ程脅威ではない。


 私のカマならば当たる場所を問わず一振りで倒すことができるし、ティアの[貫抜き]もアリの甲殻を貫いてダメージを与えられる。

 レイナさんは剣では節目を狙って首を落とすしかないが、広範囲を一瞬で氷漬けにする氷魔法には私とティアの攻撃を鼻で笑える程の火力がある。

 所詮は初期エリアのモンスターと言う事だろう、私達はほとんど立ち止まることなく城下町を駆けることができていた。


「っ! 来ます!」


 短く叫んでその場から飛び退る。

 他の二人も同じように回避行動を取ったところで、寸前まで私達が居た場所に炎弾が突き刺さる。

 フォレストアントの上位種、フォレストアントメイジによる攻撃だ。


「はぁっ!」


 空を飛びながら杖を構えていたそいつは、瞬時に氷の槍を生成して投擲したレイナさんによって砕け散り、他の有象無象の中に落下して見えなくなる。


 何も持たない最下位種であるフォレストアントの中に、ああやって一定数の上位種が紛れ込んでいることがある。

 武器を持っていたり、空を飛んだり、酸を吐きかけてきたり、魔法を放ってきたり。

 そういった上位種をいち早く見つけるのに役立ったのは、私の[強弱探知]だ。

 単純な索敵スキルとしても優秀なこのスキルは、モンスターの強さを比較するのにも役に立つ。

 弱弱しい気配しかないこの戦場の中で、特異な存在は一層際立って感じ取れるのだ。

 これはリュウやゴルムのスキルでは成せなかったことだろう。


 そうしてスキルに意識を割いていた私は、向かう先にある、強大な気配の存在に気付いた。

 それの周囲に点在する、様々な強さを持った何かの存在にも。

 一瞬デロスのことを疑ったが、すぐにその考えを捨てる。

 周囲のアリが、私達をターゲットすることなくその気配の方へ向かって行くからだ。

 それはつまり、向かう先に居るのはアリにターゲットされ得る『プレイヤー』であるということで――。


「ルーク!」


 アリの群がる先。

 夜ながら明るいその場所では、多くのプレイヤーが戦っていた。

 そこで大盾を構え、片手剣でアリの首を落としていく存在を見て、思わず声を上げる。

 それでこちらに気付いたルークは、しかし一瞬視線を向けただけで戦闘に戻る。

 無表情のまま畳みかけて来るアリを一瞥し、大盾を構えて膝を深く沈めると――。


[盾打突進(シールドチャージ)]」


 瞬間、無数のアリがトラックに撥ねられたかのように弾き飛ばされた。

 その勢いは直撃していないはずの周囲のアリすらも吹き飛ばし、ルークの前方扇状に間隙が生まれる。


「流石だぜ兄ちゃん!」


「うおらあああっ!」


 その機を逃さず、ルークの周囲で戦っていた人達が隙間へと飛び込み、戦線を押し上げる。

 そのタイミングでようやく、私達もルークの下へと到達した。


「はああああっ!」


 間髪入れずに振り返ったレイナさんが剣を大きく薙ぎ、その軌道をなぞる様に飛翔した氷の刃が居並ぶアリを切断していく。

 歓声が上がり、それで私達は状況を把握することができた。


 ここは城下町の、やや南に位置するプライベートエリアだ。

 ギルド集会があったのが22時なので、参加していないプレイヤーでプライベートエリアに居た者はそれなりに居ただろう。

 見ると、この場でアリと戦っているプレイヤーはかなりの人数に上る。

 戦わずに壁際で戦闘を見ているプレイヤーも含めれば、数百人は居るだろう。

 それだけのプレイヤーがなぜ、わざわざアリと戦っているのか。

 プライベートエリアに籠っていた方が安全なのではないか。

 

「建物がな、破壊されっちまったんだよ。それでワープゾーンが使えなくなって、中に居た奴らもみーんな強制排出だ。そこにこんだけ気持ち悪い奴らが押し寄せるもんだからホントに焦っちまったよ」


 私の疑問を見通したように声を掛けて来るのは、見知らぬ男性プレイヤーだ。

 戦闘に戻るレイナさんに目配せをして、私は状況を認識しようと背後の建物を振り仰ぐ。


「なるほど……これは確かに……」


 プライベートエリアの建物は、ボロボロと言ってもいい程無残に破壊されていた。

 建物の下部は食いちぎられてところどころに穴が空き、上部は爆散したように崩れている。

 入口にあるはずのワープゾーンは消えていて、確かにこれではどうやっても中に入ることはできないだろう。


「だろ? あの黒い兄ちゃんが取り成してくれたからまだ保ててるがな。なーんでこんなことになったんだか」


 呑気なその言葉に思わず奥歯を噛みしめて、喉から出かかった言葉を押し止める。


 これをやったのはアリだが、先導したのは恐らくデロスだろう。

 建物を破壊すると機能が失われるという事は知らなかったが、確かにそれをされてしまえばプライベートエリアに籠城することもできない。

 プレイヤーの殲滅を目的としているデロスならば、ここを破壊することは理に適っている。


 だがそれを今、この人に伝えることは無意味だ。

 理解してもらえるとは思えないし、その時間もない。

 状況を知っている私達が、デロスを止めるしか方法はないのだ。


 考えろ。


 このアリを止めるにはどうしたらいい。

 操っているのはデロスだ、ならばデロスを倒せばいいのか。

 だがこれだけアリの溢れている城下町で、一人だけアリに襲われないデロスを止めることは難しいだろう。

 逃げに徹したデロスならば、恐らくリュウからも逃げおおせる。

 気配を消して一撃で殺しに来るデロスを、アリの群れるこの場所で見つけ出すことなど不可能だ。

 アリの排除は必須。

 ならばどうすればいいのか。


「――数が多すぎる」


「え?」


 思い悩む私に、唐突に掛けられる言葉。

 声の方へ振り向くと、その場にいるのは少し疲れた表情のルークだ。

 らしくない弱音に首を傾げるが、ルークは無表情のまま再び言う。


「このアリの数は異常だ。どれだけあのエリアに貯め込んでいたのかは知らんが、西エリア全てのアリが襲撃に来ていると言っても良いはずだ」


「……ふむ?」


 最もな意見。

 だがルークの言いたいことが分からず、返答は曖昧なものになってしまう。

 それに対してルークは、呆れを滲ませながら目を瞑った。


「それだけの数のアリを、一度に操れると思うか?」


「――あ」


 ようやくルークの言いたいことが分かり、思わず声が漏れる。


 確かにその通りだ。

 デロスのスキルがモンスターを操ることができるものだとしても、この場に居るアリ一匹一匹を洗脳して回ったとはとても思えない。

 デロスには一度に、数千匹のアリを操る手段があったのだ。


「集団洗脳、という可能性は?」


「あのエリアに居るモンスターはアリだけじゃない。無差別に操るとしたら、他のモンスターが紛れ込んでいてもいいはずだ。今この場にいるのはアリだけ。そのことが示す可能性は一つだ」


 西エリアはI.W.が攻略の途中だったため、ボスの正体は分かっていない。

 だが現状と照らし合わせて考えれば、その正体には自然と想像がつく。


「女王アリ。その一匹のモンスターを操ることで、配下のアリ達も同時に手中に収めた……」


「その線が濃厚だ。俺は今からそいつを倒しに行く。お前も来い」


 ルークが簡潔に言う。


 ボス戦が、唐突に始まろうとしていた。


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