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オリジナルオンライン−唯一無二のその力で−  作者: 井上狼牙
第二章 交錯する各々の意志
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第64話 俺が必ず

[突進(チャージ)]!」


 一瞬で距離を詰めデロスに肉薄し、先制の一撃を突き込む。


「ハッ! 気がはえェこった!」


 だがデロスは、それに見向きもせずに城門から身を投げ出した。


「くっそ! またかよ!」


 黒い死神が、重力に従って落下していく。

 戦いの準備が整ったとか言い出した瞬間にこれだ。

 全く予測できないデロスの行動に、俺も止む無く追従する。


 着地の勢いを殺す時間すら惜しんで、地を蹴って前へ。

 デロスは狂ったように笑いながらプレイヤーを飛び越え、ずんずんと城下町へ向けて駆けて行く。


「うわっ! 何!?」


「おい! あぶねぇぞ!」


「何がしたいんだあいつは……!」


 途中立ち尽くしているプレイヤーには見向きもしないデロス。

 横をすり抜け、飛び越え、舞う様に駆ける。

 あいつの狙いはプレイヤーの殲滅ではなかったのか。


「とにかく、追わねぇと!」


 後ろから突進してくる俺に目を剥いて道を空けるプレイヤー達。

 お前達もとっとと戦えよオラと言いたくなる気持ちをぐっと堪えて、デロスの追跡を続ける。

 デロスはやはり、城下町へと向かっているのか。

 向かう先では黒い波がどんどんと広がり、城下町を埋め尽くそうとしている。

 あの黒い粒一つ一つがモンスターなのだとしたら、一体どれ程の数のモンスターがカルカへと攻め込んできているのか。

 あの進路上にいるプレイヤーは一体、どうなってしまうのか。


「いや、落ち着け……あれはただのモンスター。やられたって何の問題もないはずだ」


 アリはもともとゲーム内のモンスター。

 それを操って城下町を襲わせることができたとしても、プレイヤーを殺すことまではできないはずだ。


 それが成せるのがトロールとデロスだけという確証はない。

 だが、バジリスクの攻撃で痛みや死がなかったことから考えても、あのアリの群れが死の属性を持っている可能性は低いはずだ。


 そう思わなくては、とてもやっていられない。


「とにかく、今はデロスだ。あいつさえ倒せれば、あとはどうにでも――!」


 尚も走り続けるデロスの背中を追っての言葉。

 それを遮ったのは、真横から襲い来る脅威だった。


「ギャアアアアアッ!」


「なっ――!」


 視界の外から振るわれる何か。

 それを防ぐことができたのは、もはや奇跡と言ってもいい。


「ぐっ!」


 咄嗟に発動した[放撃]がダメージを軽減するが、その攻撃で発生した衝撃は尋常ではなかった。

 堪らず横へ吹き飛ばされ、何とか空中で体勢を立て直して着地する。

 奇襲に気付けなかったのは、やはり焦っていたからか。

 すぐにデロスを追わなければいけない。

 それでも俺はその場から、動くことができなかった。


「こいつは……!」


 寸前まで俺が立っていた場所。

 そこに鎮座しているのは、たった今俺を吹き飛ばした暴虐の存在だ。


 血走った赤い目をギョロギョロと動かし、鋭い牙が並ぶ顎を忙しなく打ち鳴らす。

 爬虫類特有のツルツルした鱗が、月明かりに照らされてぬらりと光る。

 異様に発達した前足の先には、触れる物を容易く切り裂く鋭利な爪。

 そいつは目前の俺をターゲットすると、口の端からよだれを垂らしながら異様な声を上げる。


 紛れもなく、俺とキシンの前に立ち塞がり、俺を幾度となく死に戻りさせたトカゲ竜の姿がそこにあった。


「こんな奴まで操れるってのか……!」


 一瞬だけ視線を送ると、振り返ったデロスがにやりと口を歪めたのが目に入る。


 このトカゲ竜は俺とキシンが協力して谷底に叩き落としたはずだ。

 それがこうしてこの場に現れると言う事は、執念深いこいつを見つけたデロスがスキルの餌食にしたのか、はたまた自力でここまでやってきたのか。

 どちらにせよ、限りなく厄介な存在であることは想像に難くない。


「ギィ、イェアアアアアッ!」


「く、そ!」


 停止状態から唐突に動き出したトカゲ竜に、俺も回避行動を余儀なくされる。

 遠ざかって既に見えなくなってしまったデロスに思わず歯噛みするが、それで逃してくれるほどトカゲ竜が甘い存在でないのは身を持って知っている。


 こうなってしまっては、できる限り早くこいつを仕留めるしかないのか。


 そう考えて、大口を開けて噛みつこうとするトカゲ竜を迎え撃とうとした俺を止めたのは、横からトカゲ竜の胴体にめり込んだ巨大な刃。

 同時に発生した猛烈な爆風でトカゲ竜を吹き飛ばした、更なる乱入者の存在だった。


「――状況は何となくわかってる。こいつは俺に任せて、リュウはあいつを追ってくれ」


 今の一撃が怒りに触れたのか、赤いオーラを撒き散らしながら吼えるトカゲ竜。

 それに一歩も引かずに向かい合った乱入者は、俺を見て事もなげに言った。


「ゴル……ム……」


「状況は悪いよ。最悪だ。その上であいつを野放しにしたら、それこそ終わる。こいつは、俺に任せてくれ」


 真っ白い大剣を担いだゴルムは、トカゲ竜から目を離さずに言った。

 その顔からは、普段の軽薄さが完全に失われている。

 ゴルムは正しく、現状を理解できているという事だろう。


 ならば尚更、分かるはずだ。


「……待てよ、無理だ。お前をここに一人で置いていける訳がない。その意味をお前は分かってるだろうが!」


「ああ、分かってるよ! 俺じゃあいつを倒せない! だから、これが最善なんだよ! 良いから行けって!」


 思わず怒鳴ってしまう俺だが、ゴルムは俺の言葉を聞き入れようとしない。


 ゴルムなら分かるはずだ。

 トカゲ竜は強い。

 ゴルムなら倒せるかもしれないが、それは何の障害もなければの話だ。

 城下町を埋め尽くし始めたアリは、そう時間を掛けずにこの場所まで到達するだろう。

 そうなってしまえば、如何にゴルムと言えども死ぬ可能性は出て来る。

 そして、全てを終わらせることができる存在が、今このカルカに居るのだ。


「もうデロスは見失っちまってる。あいつは誰にも気付かれずに行動する術を持ってるんだよ。俺とお前で協力して、こいつを倒す。その後に二人でデロスを追う。それが最善で、最速だろうが」


 城下町に向かったデロスだが、奴の行動は依然として予測できない。

 ここでゴルムを一人にすることは、どう考えても危険だ。

 二人で行動し、トカゲ竜とデロスを順に攻略する。

 それが安全で、堅実な方法なはずだ。


 昂る気持ちを抑えて、俺はそう口にする。


 その結果生じるはずの犠牲には、目を瞑って。


「――それじゃあ、死ぬ人がいっぱい出るじゃんか」


 ゴルムは静かにそう言うと、トカゲ竜の放った飛翔する斬撃を叩き落とした。


「リュウが何を優先にしてるのかは知ってるよ。でも俺は、そんな犠牲は許容できない。そんな生き方してたら、帰った時美桜に怒られる」


 呆然とする俺の目の前で、トカゲ竜の突進をゴルムが受け止める。

 その瞳には、迷いなど欠片もなかった。


「周りを気にしてる余裕はないって……そう言ってたじゃねぇかよ……」


「そうだよ。俺は他の人がどこで死のうが気にしない。でもその犠牲が、俺のために使われるんじゃ駄目だ。リュウが俺のために留まるんだとしたら、俺はそれを許さない。リュウが行けば、助かるかもしれないんだよ。ーーだから、早く、行けって!」


 叫びと共に、双方が大きく弾き飛ばされる。

 しゃがみ込んで転倒を防いだゴルムが、初めて俺の目を見た。

 どこか懇願するようなその目を見て、俺は――。


「……死んだら殺すからな……要!」


「りゅうがあいつをとっちめてくれれば心配ないよ。任せたかんね」


 こっちを見て少しだけ笑ったゴルムから視線を外して、最早ゴルムしか見えていない様子のトカゲ竜の脇をすり抜ける。

 そのまま、黒く染まりつつある城下町へと向けて、全力で走った。


「何としてでも、てめぇを倒すぞ、デロォオオスッ!」


 あれがゴルムの決断だ。

 なら俺がそれを邪魔することはできない。

 

 そしてゴルムを援護するための条件もまた明快だ。

 既に裏をかかれて犠牲を払い、見失ってしまった。

 これ以上好き放題やられて、どこに俺の立つ瀬があると言うのか。


 何としてでも倒さなければいけない。

 俺が、この手で、必ず。


 


 





「何……あれ……」


 何故か唐突に踵を返して逃げ出したデロスと、それを追ったリュウ。

 アドリアを任せたというリュウの言葉に従って、復帰したアドリアさんに手を貸し、怯えた様子のティアを伴って中庭から外に出て、城下町を俯瞰する。

 そんな私の目の前に広がる光景は、到底容易には受け入れられないものだった。


「アリです……西エリアから現れた大量のアリが、城下町を侵食し始めているんです。なんで……どうしてこんなことに!」


 悲痛なティアの叫び声だが、どうしてか、そんなことは分かり切っている。


「デロスが、何かしたんだわ。あいつは、私達の予想の何もかもを裏切ってる。これくらいのこと、普通にやりかねない」


 一瞬前まで相対していた狂人の行動を思い返す。


 唐突に出現してアルフレイドを屠ったことに始まり、デロスの行動は全く予測できないものだった。

 歯向かうアルフレイドを一瞬で殺したかと思えば、その後にはのんびりとプレイヤーの動向を眺め。

 アドリアさんとI.W.のプレイヤーを容易くあしらう力を持っていながら、止めを刺そうとはしなかった。

 プレイヤーを皆殺しにすると嘯いては居たものの、それを成せるだけの時間がありながら行動には移さない。

 私との戦闘は本気だったように見えたが、今となってはそれすら怪しい。

 そしてこれだけ予測できない行動を取っているあの男ならば、他のエリアからモンスターの大群を引っ張ってくるくらい平然とやってのけるだろう。


「私達の考えが甘かった。デロス準備が必要って言う言葉の意味は、ここにあったんだわ。早く、何とかしなきゃ……!」


 どんどん広がっていく黒い靄に、焦燥感だけが募る。

 地だけでなく空にも広がっているあれが全てモンスターなのだとしたら、あの場に居るプレイヤーなど一たまりもなく――。


「――ひとつ、良いですか?」


 私の思考を遮ったのは、隣で同じように城下町の景色を眺めていたアドリアさんだ。

 その落ち着いた言葉は、今すぐにでも動かなければと焦りを募らせていた私の頭を少しなりとも冷やす。


「デロスはなぜ、あのアリを城下町に呼び込んだんでしょうか」


「なぜって――」


 なぜ――そう言われて真っ先に頭に浮かんでくるのは『あの狂人の行動が理解できるはずがない』という取り留めのない答えだったが、今必要なのはそんな無為なものではない。

 言われるがままに考えるが、そもそもアドリアさんが何が言いたいのか、良く分からなかった。


「あのアリはただのモンスター。トロールやデロスのように死の属性を持っているとは考えにくい。それは、バジリスクの件から考えても確かなことだと思います」


 その言葉に、静かに頷く。


 ゴルゴ山のボスモンスターは、バジリスクではなく橙大蛇。

 だから、バジリスクがあの場に居たのは魔神側の何らかの影響があったものだと考えている。

 敵がバジリスクを呼び込み、そしてそのバジリスクには痛みや死を与える能力はなかった。

 そのことから考えても、あのアリに死の属性があるとは考えにくい。

 無論、そうであると断定することはまだできないが。


「私も断定することの危うさは分かっていますけど、今は割り切って考えましょう。デロスは、ただのモンスターであるアリを大量に呼び込んだ。その目的は、何なのでしょうか」


 どことなく、こちらを促すようなその質問。

 それに躍起になりそうな自分を制して、再び首を捻る。


 大量のモンスターを城下町に呼び込めばどうなるか――もちろん、大量のプレイヤーが死んで神殿に送られるだろう。

 だが現状、その大半のプレイヤーが死に戻りするカルカの神殿もアリが溢れているのだから、その死は延々と連鎖する。

 死に戻ってはアリに殺され、アリを数匹殺したところでそれは終わらない。

 死んで死んで、死に続けたその末に――。


「――そっか、その場所にデロスが来たら、死に戻りし続けた大量のプレイヤーを一度に殺せる。祭り好きのあいつからしてみたら派手で効率的な最良の手段」


「その通りです。デロスは強いですが、プレイヤーが数で攻めれば倒せない相手ではない。それも、これだけ場を掻き乱されてしまえば難しい話です。これこそが、デロスの狙いなのではないかと」


 合理的な、アドリアさんの仮説。

 デロスが集会の場で暴れなかったのは謎だが、それこそ狂人の思考など分かる訳がない。


「そう考えると、やっぱりデロスの狙いはプレイヤーの殲滅。となると私達のすべきことは――」


「デロスの討伐が最優先です。でも、その為には邪魔が多すぎる。あのアリを、排除しなければいけません」

 

 その言葉に、再び視線をアリの溢れる城下町に戻す。

 デロスが逃げ出していったのも、あの城下町。

 戦場は既に、城下町へと移っているのだろうか。


「デロスのことは、リュウに任せる。私達はできるだけ早くアリを排除して、デロスとの戦いに加勢する。これしかないわね」


「分かり……ました」


 リュウのことが心配なのか、悩みながらも、賛成の意を示すアドリアさん。

 私もリュウのことは心配だが、それでもリュウがデロスに負けるとは思っていない。

 あんな奴が、リュウに敵うはずがない。


「でも、デロスには身を隠す能力もある。モンスターを操れるかもしれないんだったら、あの戦場は不利。だから、私達がその状況を変えなくちゃいけない」


「僕はお姉ちゃんに状況を伝えてきます。空を飛ぶ敵がいても、お姉ちゃんなら対処できるはずですから」


 ティアの言葉に、頷く。

 状況確認は終わりだ。

 すぐさま動き出して、デロスの目論見を挫かなければならない。

 

「さぁ、反撃と行きましょうか」


 城下町を見据えながら言うアドリアさんの言葉に、力強く頷いて見せる。

 ここからは、総力戦だ。

 私達の底力を、あの狂人へと見せつけてやろう。

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