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オリジナルオンライン−唯一無二のその力で−  作者: 井上狼牙
第二章 交錯する各々の意志
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第62話 第二の襲撃

「アルフレイド!」


 唐突に目の前で起きた出来事に呆然とし、何とか絞り出した自分の声。

 こんなに掠れた自分の声を聴くのは、いつぶりだろう。


 そんなことを考えてしまうほど、思考は事態に追い付いていなかった。

 リュウに連絡を! などと叫んでいるアドリアさんの言葉が、どこか遠くから聞こえている。


 今はただ、目の前の存在から目を離すことができない。


「さァ、始めようぜェ? お前ら全員、俺がぶっ殺してやるよ」


 どこから現れたのか、まるで分からない。

 唐突に、幽鬼の様に姿を現し、手に持つ巨大な鎌でアルフレイドを貫いた男。

 黒い双眸、黒い髪、狂気に歪められた口。

 その身に纏う濃密なまでの殺気。

 誰に言われるまでもなく、分かった。


 この男こそが、デロス・レメディオス。

 リュウが遭遇し、カルカを襲うと宣言した第二の襲撃者だ。


「なん……で……!」


 ここは城下町カルカの中心地、カルカ城。

 この場所に来るのに、城下町を通ることは避けられないはずだ。

 それが何故、デロスは突然この場に現れることができたのか。


 まさか既に城下町の皆は――。


「ぐっ……! おおっ……!」


 そんな最悪の想像を途切れさせたのは、すぐ近くから聞こえた呻き声。

 デロスに貫かれ、倒れ伏した筈のアルフレイドのものだった。


「まさか本当に……貴様が……!」


「へェ、立つのかよ。お前らは痛みに慣れてねェって聞いてたんだがなァ。意外と根性あるもんだ」


 大剣を支えに立ち上がったアルフレイドに、動き出していなかったデロスが面白がるように言葉を向ける。

 実際、アルフレイドの負傷はかなりのものだ。

 胸を鎌の巨大な刃で抉られて、鎧など最早砕けてしまっている。

 全身を襲う痛みは凄まじいはずだ。


「なめるな、なめるなよ! 私は最強のギルドのマスターだ! 貴様ごときに膝を屈する訳にはいかんのだッ!」


 ドン! とアルフレイドが強く踏み込む。

 それに呼応するかのように首元の獅子の飾りが青く輝き、周囲に拳大の水の塊が生成される。


「私も、やるしか!」


 左手で剣を抜き、右掌をデロスへと向ける。

 アルフレイドはデロスの向こう側。

 このままいけば両側からの同時攻撃で仕留められるかもしれない。


「沈め! それで終いだ!」


 言葉と共に、どこからともなく噴き出した水流がアルフレイドを、彼の持つ大剣を包み込む。

 甲高い音が、その水がとてつもない圧力を持っていることを知らしめていた。

 海獅子の時のように、浮かび上がった水球が鋭く尖り、その先端をデロスへと向ける。


「ぬうああああああッ!!」


 誰もが圧倒される光景の中、アルフレイドがデロスに向けてその奔流を解き放った。


 それは絶大な力の込められた、渾身の一撃。

 デロスはその一撃に細身の鎌一本で耐えられるはずもなく、呆気なく消滅する――はずだった。


 ――その一撃が、当たりさえすれば。


「がっ――!」


 それはまるで、先ほどの出来事の再現。

 大剣を振り切ったアルフレイドが、その体をぐらりと揺らす。


「トロいんだよなァ、おっさん。おとなしく死んどけ」


 その場に居る誰もが、反応できなかった。

 デロスは今や、アルフレイドの更に向こう側に居る。

 アルフレイドの渾身の一撃をすり抜け、斬ったのだ、彼を。


 そう気付いたのは、完全に力を失ったアルフレイドが、ステージ下に転がり落ちてからのことだった。


「アルフレイド!」


 もはや、何も考えることができなかった。

 ただ呆然とステージの下に飛び降り、戸惑ったように距離を置くI.W.のメンバーを押し退けて、アルフレイドの下に駆け寄る。


「アル、フレイ……ド……?」


 ボロボロの彼を見れば、もう先がないことは明白だった。

 右腕は千切れかけていて、鎧はもはや形を成していない。

 そして右肩から左腰までを横切る大きな傷が、先ほどの攻防の結果を如実に示していた。


「私は負けたか……」


 既に周囲は、混乱の渦に陥っている。

 誰かの叫びが響き渡る中で、アルフレイドの囁きはなぜか一際大きく聞こえた。


「レイナの言ったことに、嘘偽りはなかったと言う事だ……。こうなってしまえば後の祭りだが……もっと早く、決断するべきだった……」


「ち、違う! あなたは悪くない! あなたは常に皆のことを考えてて! それで――」


 自分の声が、小さく聞こえる。

 こんなんじゃ、アルフレイドには何も届かない。

 悪いのは、いつまでも弱くて、思ったことも満足に伝えられない私なのに――。


 そんな悔恨の言葉を遮ったのは、左手に握ったものをこちらに掲げて見せるアルフレイドだった。

 それは銀色の獅子が、蒼い玉を咥える首飾り。

 アルフレイドが身に着けていたそれは今デロスに斬られ、ほぼ真っ二つに割れていた。


「済まないが、後のことは君に任せる」


 これだけ深い斬裂傷がある以上、継続ダメージで残り少ないアルフレイドのHPは消え去る。

 だからこれが実質の、別れの言葉なのだと言えた。


「バカな決断をした私を許してくれ。そして……あいつらと共に、奴を倒してくれ」


 言い終えると同時に首飾りは砕け散り――。


 ――アルフレイドの体もまた、光に包まれて消え去った。




 ━ スキル取得条件を満たしました。スキル[獅子水爆]を習得しました。━ 




「――分かった」


 私のその言葉は、誰の耳にも入らないまま、喧騒に紛れて消えていった。











 アルフレイドが、敗北した。

 あの光景を見ていて、分かったことはそれだけだった。

 何も見えず、何も分からず、ただ勝敗だけは明確に感じ取れた。

 だからアルフレイドがステージの下へ崩れ落ち、それをレイナさんが呆然と追った時、私が飛び出すことができたのは奇跡だったと思う。

 恐怖は感じている。

 一歩間違えれば、私もアルフレイドと同じような結末を辿ることになる。

 それでも、不思議と震えはなかった。


「ちっ、今度は女が相手かよ。何だってこの世界は強気な女が多いんだかなァ」


 ステージへと上がり無言でカマを構えた私に、デロスはそんな言葉を投げかけて来る。

 ステージの下では、まだプレイヤー達が叫び合っている。

 冷静な者も居る筈だが、まだ状況を正確に判断できていないのだろう。

 援護は期待できない。

 それでも、私は時間稼ぎをすればいい。

 ティアがメッセージでリュウ達を呼んでくれているはずだ。

 それまで耐えることができれば、まだ勝機はある。


「あァ、良いや、めんどくせェ。死ねよ、お前」


「……っ!」


 強烈な踏み込み。

 ステージを踏み砕くほどの力で踏み込んだデロスが、鎌を右手一本で振りかぶる。


「っ!」


 袈裟懸けに振り下ろされる鎌。

 それを自分の武器をぶつけるのではなく、移動で回避。

 バックステップと同時に、すぐ目の前を漆黒の鎌が素通りする。


 見える、躱せる。

 相手は化け物じゃない、人間だ。

 相手の思考を読め、裏をかいてやり返せ。

 戦って、その先に行け!


「はぁっ!」


 再び振られる鎌を、今度は自分のカマで弾く。

 遠心力の乗る相手の鎌の方が威力は高いが、それでも軌道は逸らせた。

 弾かれた勢いを殺さずに距離を取り、様子を伺おうとしたところで――。


「気にいらねェな」


 デロスが攻撃を止めて、こちらを睨みつける。

 たった二振りの攻撃で、何が分かると言うのか。


「お前、時間稼ぎでもしてるつもりか? 下らねェ、勝つ気がねェなら俺の前に来るんじゃねェよ。お前がやる気がねェってんなら、分かった」


「何を……?」


 デロスがこちらから視線を外して、中庭へと向き直る。

 そこには未だ状況に追い付けていないプレイヤー達が居て――。


「まさか! 待ってください! 皆、逃げ――!」


「理解がおせェ! [エクセキューション]!」


 言葉と共にデロスがステージの下へと飛び降りる。

 スキルの名を叫ぶと同時にデロスの鎌が黒いオーラを纏って巨大化し、デロスはそれを、躊躇いなく横に薙いだ。


「え……?」


 最前列に居たのは、I.W.のプレイヤー達。

 彼らは突然矛先を自分達に向けたデロスに何も反応できずに――。


「ぎゃあああああっ!」


 人が、真っ二つに斬られる。

 漫画のようなその光景を、私はただ、ステージ上から見ているしかなかった。


 鎌の巨大化は、せいぜい二倍程度。

 それでも優に十人以上が、たった一振りでその凶刃に断ち切られることになった。


「きゃああああっ!」


「おい、アイツやべぇぞ!」


「なんだなんだ? うおっ! どうなってんの!?」


 叫びが、伝染していく。

 斬られたプレイヤーは、皆一様に叫び、そして消えていった。

 今のたった一振りでHPを0にして、死んだのだ。

 彼らを救うことは、もうできない。


「くっくっく、くははははあ! 皆殺しにしてやるよ!!」


「止めなきゃ……!」


 ステージから飛び降りる。

 デロスは自分の起こした現象に満足げに、その場から動いていなかった。

 無防備なその姿に、カマを振りかぶって全力で斬りつける。


「そうだよ、それで良い。全力で! 俺を止めにこい!」


 あっさりと私のカマを受け止めたデロスは、猛攻を開始する。

 構えた私のカマをあえて狙う様に、次から次へと鎌を叩きつけて来る。

 防御に徹するしかない私を他所に、デロスは大立ち回りを演じていた。


「てめぇ! くたばれ!」


 I.W.のメンバーが一人、加勢に来てくれたのだ。

 短剣を構え、猛烈な勢いで攻め立てるのを、デロスは左腕一本で応戦する。

 デロスの左腕には短剣が刺さらず、攻めあぐねている様子だった。


「こ、の!」


 執拗にこちらを狙う鎌を、踏ん張って押し返す。

 お返しに薙いだカマは今度は左腕に受け止められ。


「ぐっ!」


 短剣使いの方は鎌の攻撃を何とか躱し、背後へと回って短剣を突き立てようとしたところで――。


[死嵐(デスロール)]!」


「くそっ!」


「きゃあっ!」


 黒いオーラを纏った鎌が、二人を吹き飛ばした。


「駄目だなァ、弱い弱い。お前らはやっぱ前座程度だ。これから本番だからよォ、手っ取り早く終わりにしてやる」


 倒れた私に、デロスがゆっくりと歩み寄る。

 全身の痛みに起き上がることのできない私には、その姿はとても大きく見えて――。



「――[氷結領域(アイシクルノヴァ)]」



 唐突に、デロスが白い波に飲み込まれた。


「ごめん、アドリアさん。こんなところで、止まってたら駄目だよね。勝って、この先に行かなきゃ」


 穏やかなその言葉に、首を横に向ける。

 そこには薄青の髪を靡かせて儚げに立つ少女――レイナさんの姿があった。


「任せて。アルフレイド。――必ず勝つ」

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