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オリジナルオンライン−唯一無二のその力で−  作者: 井上狼牙
第二章 交錯する各々の意志
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第45話 迷子迷子

「なぁ、お前。ここどの辺だか分かるか?」


「バカ言え。僕が一々方向を把握しながら歩いていると思うか?」


 トカゲ竜の猛攻をしのぎ、山岳地帯へと突入した俺とキシン。


 俺たちはあっさりと迷っていた。


「君が出て来る敵に一々突っ込んでいくから悪いんだ。戦闘が終わってどこに居たか分からなくなるのは分かり切ってるだろ!」


「俺の武器からしてそれしか方法がないんだよ!というか矢持ってない役立たずに言われたかないな。お前が場所覚えてりゃいいのに、聞いてみりゃ覚えてないしか言わないもんなぁ?」


「何だと?元はと言えば僕を滝に突き落とした君が悪いんじゃないか!」


「いきなり射掛けてきたお前が悪いんだろうが!」


 数秒睨み合い、やがて揃ってため息をつく。


「このまま帰れなかったらどうなるのかな…。」


「それこそバカ言え、だ。ゲームのマップなんて有限なんだから迷い続けてりゃいつか帰れるだろ。」


 自信を持ってそう言い切るが、ふとOOの広さを思い出して不安になる。

 ジュラス広原一つであれだけの広さだったのだ。

 まだ序盤であることを踏まえても、ラスボスの居所まで一体どれほどの距離があるのか想像もつかない。


「とは言え、出てくるモンスターの強さからして、それほど遠くまで来た感じもしないよな。」


 出てくるモンスターはサソリや、木の姿をしたトレント、安定の蛇など。

 やはり初期エリアから離れただけあってモンスターの強さはかなり変わっているが、それでも俺一人でどうにか対応できている。

 おかげで経験値もかなりの量がもらえて、トカゲ竜との戦いで失った経験値を少しずつ取り戻している。

 ドロップする素材のレア度も高めなのだが、まぁそれとカルカまで帰れるかは別の話だ。


「どうにかしてカルカの方角くらい分かればいいが、こう見通しが悪いとな。」


 改めて辺りを見回してみても、岩肌ばかりでカルカ城のカの字も見かけられない。

 今いるのはこの山岳エリアに生えている岩の一つの下腹あたりで、あっちを見てもこっちを見ても同じように岩が生えているだけ。

 植物はほとんどなく、あるのは背が低く葉が生えていない木か、岩の隙間の地面から顔を出す小さな茂み程度。

 岩がつながっていたり、大きな台地ができていたり、ちょっとした洞穴があってモンスターが溢れていたり、一つとして同じような岩はないのだが、結局は全て茶色の塊だ。

 同じ景色の中で歩いていては、迷うのも必然というものだろう。


「おまけにあちこちに崖があって落ちればトカゲ竜の巣に逆戻り、と。全くひどい状況だよなぁ。」


 時折見かけられる崖からはかすかに水の音がするので落ちても死なないのだろうが、それで落ちて再びトカゲ竜と邂逅するのは御免だ。

 死に戻り地点も未だあの滝の場所であるはずなので、どこかで死んでもトカゲ竜とミーティングアゲインするはずだが。


「今はとにかくこの岩の上までたどり着くって目標を決めただろ。文句を言ってないで早く動けよ。」


「分かってるよ。お前はいい加減戦う方法を考えろ。」


 何もしていない為元気なキシンに急かされて歩みを再会する。

 今まではとにかくこのエリアの外に出ようと地面を歩いていたのだが、一向に終わりが見えないため適当に近くの岩に登って上から見渡してみよう、ということになっている。

 登ると言ってもところどころに道はあるので苦労はしないのだが、やはりそれなりの強さのモンスターが徘徊しているとなると話は別だ。

 ちなみにキシンには、矢がなくても戦える方法を考えておけと言っているのだが、まぁ期待はしていない。


「もうじき夜が来る。それまでにとにかくこの上まで行ってみよう。」


 今晩も野営か…、とため息を吐き、岩と岩の間にある小道を登っていく。

 一応キシンにも覇気感知による索敵を求めてはいるのだが、こういう場合は俺の聴覚の方が役立ってくれる。


「おっと。」


 小道を抜けた先、二手に分かれた道の、向かって左の道に2匹のサソリが陣取っていた。

 大きさは50㎝程と、なかなか気持ち悪いサイズだ。

 無視して右に行くこともできるが、経験値稼ぎとしても有用なこのエリアで、わざわざ餌を取り逃がすこともないだろう。


 後ろのキシンに合図して、二匹に向かって飛び出す。


「あ、おいリュウ!」


 こちらに気付いたのか、キチキチと奇怪な音を立てて威嚇して来る2匹。

 無論それで怯むわけもなく、勢いのまま右に居た方に[毒付与(ポイズンエンチャント)]を施した拳を叩き込む。


「ギシャ!」


 甲殻を突き破って吹き飛ばし、飛び散る紫の液体に当たらないようにバックステップ。

 こいつらの体液にはかなり強い毒性がある。

 [毒付与(ポイズンエンチャント)]があるからこそ殴れるが、そうでなければ一目散に逃走するしかないだろう。


「よっと。」


 だがそれも今は関係ない。

 左側に居た奴が突き出してくる大きな鋏を躱し、涎を零す気色悪い口に拳を叩き込む。

 仰け反ったところでがら空きの鋏を引っ掴み、頭を足蹴にしてちぎり取る。


「ギュギュ…。」


 息絶えた片方を視界から外し、手の中の巨大な鋏を、背後の一匹に投げつける。

 怯んだところに接近し、[威圧(オーラ)]を浴びせつつ殴りまくれば、それでもう片方の息の根も止まった。


「ふぅ、終わっ――。」


「横!」


「うおっ!」


 潰れたサソリを見下ろし手をはたこうとしたところで、突如キシンに襟を引かれる。

 驚くよりも先に元居た場所から炸裂音が響き、キシンと共に倒れ込む。


「何やってんだ君は!ほいほいほいほい油断してんなよ!」


「悪かった悪かった。助かったよ。そんであれは…。」


「トレント種だ。木に擬態してて気づくのが遅れた。枝が伸びるから気を付けるんだぞ。」


 立ち上がり、キシンに手を貸しながら攻撃が飛んできた方へ視線を向ける。


 トレントとは、簡単に言えば木の姿をしたモンスターだ。

 種類によって様々だが、顔があり、歩行が可能という点では共通している。

 この山岳エリアにもトレントは生息しているのだが、今目の前にいるトレントは、明らかにそれとは違う見た目をしていた。


「…細いな。」


「ああ、それに君が気付かなかったってことは擬態中は音を出さないほど隠密能力が高いんだろう。さっきの攻撃を見る限り速度もなかなか。レアモンスターだぞ。」


「だからお前は戦わないんだろ…。」


 レアモンスター=いい素材を落とす、の法則の前に腕をワキワキさせるキシン。

 そんな相棒に突っ込みを入れてから、改めてトレントを見る。


 細い。

 普通のトレントが俺とキシンが二人で手を伸ばしても抱えきれないほどなのに対して、こいつは片手で抱え込める程度しかない。

 だがその分背が高く、2mは超えているだろう。

 同じく細長い2本の枝を振り回し、小刻みにサイドステップを繰り返しながら枝を振りかぶり…。


「あぶねぇ!」


「わっ!」


 今度は俺がキシンを抱えてしゃがみ込むと同時に、今まで1m程しかなかった枝が伸びてムチのようにしなり、俺たちの頭のすぐ上の岩壁にぶち当たる。

 当たったらどれくらいダメージを受けるかは当たってみなければ分からないが…まぁかなり効きそうだ。


「離れてろキシン。巻き込まれても知らねぇぞ!」


 叫ぶと同時に走り出す。

 伸びた時と同様凄まじい速さで縮んでいく枝を追い掛けるようにして飛び出し、追撃で放たれた枝の一閃を掻い潜る。


「だらっせい!」


 一気に距離を詰めトレントに肉薄し、固く握った右拳を叩き込む…のだが。


「お?」

 

 幹がぐにょりと曲がり、直撃するはずだった拳は呆気なく空を切る。

 直後、二発の衝撃に襲われ、地面に叩きつけられた。


「ちっ!随分アクロバティックな回避方法だな。」


 俺の拳を、自らの幹を変形させることで躱したのだ。

 反撃のムチは近距離であったため最小限のダメージで済んだが、それでもHPの2割を持ってかれている。

 すぐさま起き上がり追撃に備えると、ずんちゃかずんちゃか跳びはねながら後退するトレントの姿が。


「…何踊り?」


「ヒャオ!」


 思ったよりも甲高い声で鳴きながら、再び枝をぶん回すトレント。

 どうやらフットワークの軽さを利用して後退し、俺を近づけないつもりらしい。


「上等!」


 この程度の攻撃は石柱を幾つも繰り出し、自らも即死の雨を降らせてきたトロールには遠く及ばない。

 [激昂状態(フューリーモード)]を発動していない今では状況も違うのだろうが、それでもトレントの攻撃が取るに足らない物であることに変わりはない。

 2本のムチによる乱舞を捌き切り、少しだけ[身体異常]の力も発揮して壁を走り、トレントに肉薄する。

 だがここで攻撃しても躱されるのは目に見えている。

 いくら速く動こうとも俺の腕は短い。

 2mある幹がグネグネ曲がってしまっては太刀打ちできないのが現状だ。

 だから――。


「でい!」


 正面から拳を放ち、トレントはそれをバックステップで簡単に回避する。

 否、回避するように(・・・・・・・)誘導させられる(・・・・・・・)


「1名様いらっしゃーい!」


 俺の視線の先でずっとごそごそやっていたキシンが、バックステップしてきたトレントを両手を上げて迎え入れる。

 その下には大きな赤い魔法陣があり――。


属性魔法陣(マギステルサークル)(フレア)!」


 目の前の魔法陣に向けてキシンが手をかざすと同時に、グネグネトレントは業火に包まれることとなった。





「見ろ、リュウ!これで僕は矢がなくても戦えることが証明されたな!」


 キシンが喜々として指差す先には、炎を撒き散らした魔法陣はなく、黒焦げになったトレントだったものだけが転がっていた。


「…いや、流石にもうちょい考えようぜ。」


 威力が高いことは認めるが、如何せん準備に時間が掛かり過ぎている。

 トラップ一本でエリアを駆け抜けていくのは無理があるだろう。

 戦う手段を探せとは言ったが、戦えれば何でもいいとは言ってないだろうに。


「確かにお前のスキルは役に立った、それは認めよう。だがな、一つ言いたいことがある。」


「なんだ?負け押しみか?いいぞ、言ってみろ!」


 黒焦げたトレントを足で突いていたキシンがドヤ顔と共にこちらを向く。

 それに意味もなくイラつきながら言葉を口にする。

 そう、


「元居た道、覚えてるか?」


「あ…。」


 トカゲ竜の猛攻をしのぎ、山岳地帯へと突入した俺とキシン。


 俺たちはあっさりと迷っていた。


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