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オリジナルオンライン−唯一無二のその力で−  作者: 井上狼牙
第二章 交錯する各々の意志
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第43話 生産者二人

 「はぁー…。」


 「ったく、昼間っからため息ついてばっか居たら、碌でもない男に目ぇ付けられるぞ?」


 ここはレストラン『ばななみるく』。

 カウンター席に座り、店主の作業をぼんやりと眺めながら、何をするでもなく時を過ごす。


「そうやってぼーっとしてるのは構わねぇがな、もうじき掻き入れ時なんだからそろそろ退散してもらうぞ?うちは狭いからカウンター席だろうとフル回転なんだよ。」


 今は午後の6時。

 確かに、そろそろ狩りを終えたプレイヤーがカルカへと帰ってくる時間帯だ。

 それに連れて忙しくなるバナミルがこちらを疎ましく思うのは当然だろう。

 まぁ、機嫌が悪いように見えてこれが普通だという事は、ここ数日でしっかりと学んでいるのだが。


「もうちょっと。もうちょっとだけ居させて。そしたら帰るから。」


「…全く。少しだけだぞ。」


 呆れたようにため息を吐き、自分の作業に戻るバナミル。

 我儘を言っているのは分かっているつもりなのだが、今日はどうにもやる気が起きないのだ。

 いつまでも落ち込んでいるわけにもいかないし、それによってゴルムやアドリアさんに迷惑をかけていることは分かっているのだが、それでも中々立ち上がる気が起きない。

 そんな私を見かねたのか、バナミルが拭いていたコップを荒っぽく置くと、再びこちらに声を掛けて来る。


「おい、レイナよ。リュウの奴はどうしたんだ?あいつなら悩みの一つや二つ聞いてくれるだろうが。」


「リュウは今日は野宿らしいわ。なんか迷い込んで帰ってこれなくなったって。」


「…全く、肝心な時に使えない奴だな。」


 辛口なバナミルのコメントを聞き流し、テーブルに突っ伏す。


 迷子になって帰ってこれなくなるとは確かに間の抜けた話だが、そう毎度毎度リュウに頼ってばかりでは居られない。

 

「私、なんでこんなに迷ってるのかな…。」


 何も、リュウやゴルム、ルークと共にあの場でトロールと戦ったことを嘆いているわけではない。

 結果的にアルフレイド達がトロールの存在を認めなくなったとは言え、あそこでカルカまで壊滅させられていたら、多くの犠牲者が出ていただろう。

 そうではなく、迷っているのだ。

 I.W.の掲げる、少数精鋭の攻略が、正しいのか否か。


 水獅子との戦闘を見て、I.W.のメンバーが大きな力を持っていることは分かった。

 だからこそ、スキルを分散させて取得するのではなく、強いプレイヤーに集中させて少数精鋭でゲームクリアを目指すという考えが間違いだと言い切れなくなってしまった。

 それどころか、今自分がゲーム攻略をすることが逆に邪魔になってしまうのではないか、という不安を捨て去ることができない。

 他者と協力することで強さを得る。

 そんな考えは、この世界では通用しないのだろうか。

 力のない者は、力ある者に縋って生きていくしかないのだろうか。


「はぁー…。」


 どうしようもなくため息が零れる。


 またバナミルに何か言われる前にと、テーブルの上で腕を組み顔を埋めようとしたところで、ガラッ、と心地のいい音を立てて店の扉が開いた。


「いらっしゃー…おう、ラナか。」


「こんにちは、バナミルさん。…と、レイナさん。」


 入って来たのは小柄で短髪の、短剣を腰に下げたプレイヤー、ラナだ。


「今日の分の食材、持ってきましたよ。それと、用途が分からないアイテムをいくつかもらってきました。」


 カウンターに歩み寄りながらアイテムウィンドウを開き、バナミルへと告げる。

 どうやら生産関係の内容であるらしく、攻略をサボってここにいる自分が恥ずかしくなってくる。


「おう、ありがとよ。確認するからちょっと待っててくれ。ついでにそのアンポンタンをどうにかしてくれよ。」


 そう言って奥に引っ込んで行くバナミル。

 …なんだか予想以上に迷惑をかけていたようでいたたまれない。


「えーと…何かあったんですか?」


 恐る恐る、という様子でラナが問いを発する。


 元々彼女と私にはそう接点がない。

 アドリアさんやリュウなどは専属の生産者としてよく世話になっているようだが、私は一度武器の修理を頼んだだけである。

 その時もリュウと一緒であったから、あまり話す機会は得られなかった。

 生産者でありながらトロールの猛攻を生き延びてショックを受けたはずが、尚攻略のために邁進する彼女に、私の悩みを打ち明けてもいいものだろうか。


「ギルドの…ことですか?」


 そのようなことを考えて黙っていると、ラナから先に答えが告げられる。


「…分かる?」


「悩みの大小はあっても、皆同じことで悩んでいますよ。簡単な話じゃ、ないですもんね。」


 そう優しく言われてしまっては、見栄を張って店から出ていく気も失せてしまう。

 テーブルに突っ伏し、とっくに温くなった水を眺めることしかできない。


「私にできることは戦闘職の皆さんのサポートだけです。だから、もしアルフレイドさん達だけが攻略をすることになってもそれは変わりません。あの人たちは少し横暴な所はありますけど、目的は私たちと一緒です。」


 自分に言い聞かせるように言うラナ。


 そう、彼らには明確な悪意が存在しない。

 私達が言っていることに信憑性がないのは事実であるし、少数精鋭での攻略の方が効率がいいのかもしれない。それは実践してみなければ分からないことだが。

 彼らは本当に私達が虚言を言いふらしていると思っている。

 そしてその考えを覆す方法を、私は知らない。


「話し合ってみたらどうですか?彼らと。まだ私達はお互いのことを殆ど知らないじゃないですか。話せばきっと分かってくれますよ。」


「話し合い…か。」


 確かに、思えば私はアルフレイド達のことを何も知らない。

 水獅子戦の時は、向こう方のスキルも何も知らない状態で始まり、特に会話することもなく解散となった。

 向こうも伝聞や掲示板でしかこちらのことを知らないだろうし、その状態でいがみ合っていても分かり合えるはずがない。


「そっか。何で思いつかなかったんだろう。話し合い。そうすればきっとお互いの意図も掴める…よね。」


「そうですよ。言葉は大事です。戦いだけが全てじゃないんですから。」


 話し合えば全てが解決するとは思わない。

 でも、解決の方法を見出すことはできるだろう。


「…うだうだ悩んでた割にあっさり解決するじゃねぇか。終わったか?んじゃとっとと出てけ。俺はラナと話さなくちゃいけないことがあるんだよ。」


 見ると壁に寄りかかってこちらを見ているバナミルの姿があった。

 どうやら律儀に話が終わるのを待っていてくれたらしい。

 やはりツンデレ店主である。


「うん、分かった。悩んでも仕方ないんだから、とにかく動かないとね。ありがとう、ラナ、バナミル。」


「はい。頑張ってくださいね。私的には、たくさんのプレイヤーが戦ってくれた方が儲かりますし。」


 笑ってラナが言い、バナミルもさっさと行けと片手を振る。


 そして椅子から立ち上がり伸びをして店の入り口へ向かったところで。

 ガラリ、と不吉な音を立てて扉が開いた。


「失礼する。」


 そんな野太い声と共に一人の男が店に入ってくる。

 逆立った金髪。

 大柄な体。

 鋭い目つき。

 銀の鎧と大剣こそ身に着けていないが、その姿は紛れもない。


「む、君は…。」


 I.W.ギルドマスター、アルフレイドの姿がそこにあった。





 確かに、アルフレイド達と話し合う決心はした。

 だが、その機会がたった数十秒後に訪れようとは、どうして予想できようか。

 しかも、その話し合いの場が、向こうから持ち掛けられようとは。


「思い出した、貴女はレイナと言ったか。昨日は…まぁ色々あったが。我々にも思惑あってのことだ。理解してもらう他ない。」


 カウンターではなく、『ばななみるく』に新しく増設されたテーブル席に座るアルフレイド。

 鎧を外して普段着となった彼は、厳つい見た目だった普段とは違い、若いころやんちゃだったおじさん、と言った程度の風貌だ。

 しかしそれは見た目の話だけでなく、普段ギルドマスターとして発している強烈な威圧がないからかもしれない。

 どうやら公私は分けるタイプの人間であるようだ。


「どうした?座り給え。君は私に言いたいことがあるだろうし、私にも気になることはある。偶然出会ったついでだ。ここでお互いはっきりさせておこうじゃないか。」


 てっきり私やアドリアさんを敵視しているものだと思っていただけに、この対応には内心首を傾げざるを得ない。

 やはりラナの言う通り、お互い何も知らなかったと言う事だろう。


「分かったわ。バナミル、コーヒーを一つ頂戴。」


「私は肉野草炒め定食を頂こう。そろそろお腹も空いてくる頃なのでね。」


「へぇへぇ、分かったよ。席がいっぱいになったら出てけよ。」


 ぶつぶつ言いながら奥に引っ込むバナミルと、居心地が悪そうに水を啜るラナに心の中で謝りながら、正面に視線を向ける。

 微笑みの混じったアルフレイドのその顔には、僅かながらこちらを推し量ろうとする意志が感じられた。

 一抹の不安を感じつつ、向かいの椅子に腰掛ける。


 私は、自分が納得するに足る理由を得なければ、引き下がれない。

 ならば私も、アルフレイドを納得させられるように、話してみよう。

 


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