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オリジナルオンライン−唯一無二のその力で−  作者: 井上狼牙
第一章 焼き尽くす炎の拳
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第10話 赤い玉

「食った食った。ご馳走様!」


「とてもおいしかったです。無茶を言って押しかけたのに本当にありがとうございました」


 バナミルの肉料理に舌鼓を打ち感謝の旨を告げると、こちらの食べっぷりを眺めていたバナミルはいやいやと首を振った。


「こっちこそ、スキル上げ手伝ってくれてありがとな。またよろしく頼むよ」


「スキルはおまけで上がっただけだけどな。こっちこそこれからもよろしく頼む。アドリアは最前線突っ走るわけだしいい食材とか持ってきてくれそうだしな」


「リュウはゲーム攻略には参加しないんですか?」


 適当にそう言っただけなのだが、アドリアは首を傾げてこちらに疑問の視線を向けて来る。


「いや、そういう訳じゃないけどな。ただ、アドリアの方が唾付けとく価値はあるって思っただけだ」


「何を言ってるんですか。あれだけの能力を持っている人にそんなことを言われてもうれしくありませんよ」


 そう言ってお茶を飲むアドリア。

 お前はあの戦闘だけで俺の何を見たんだ。


「何、別に誰が攻略をしようと構わんけどな。俺たち生産組はお前たちのサポートをするためにこうやって店開いてんだ。力ある奴が引っ込んじまうのは、俺からして見りゃ惜しいことだよ」


「む……」


 バナミルにもそう言われてしまっては黙ることしかできない。

 彼ら生産組は、己が攻略することを捨てて、未来を他のプレイヤーに託している。

 その託されている側の俺が消極的になることは彼らの未来を潰すことにもなりかねない……と言うのは分かっているのだが。


「まぁそう気負うなよ。人生ってのは自由であるべきだ。お前さんらが攻略を投げだすのも自由。俺たちがお前らに責任を押し付けるのも自由。そうじゃなきゃ、やっていけねぇよ」


「自由……か」


「そうだ。このゲームは一朝一夕で終わるもんじゃねぇんだから、休息も撤退も必要だ。そんな時に俺たちの存在が枷になって無理をさせるのはこっちとしても嬉しくねぇんだよ。ゲームをクリアするのも大事だが、そのためにもっと大事な物を捨てんのは間違ってる。そのことを頭に入れとけよ、餓鬼共」


 そう言って、バナミルがニヤッと笑う。

 店主からの思わぬ言葉に呆気にとられ、苦笑いしながらアドリア共々頷く。


「――ありがとう」


「何、良いってこった。けっ、俺としたことが妙に感傷的になっちまったな。」


 感慨を胸に仕舞って礼を告げると、バナミルは照れ臭そうに笑う。

 見た目は厳ついが、中身は良い店主だ。


 心の中で再び感謝して立ち上がろうとしたところで、[聴覚異常]によって強化された俺の聴覚が、『ばななみるく』に近づいてくる足音を捉えた。


「誰か来るな」


 人気のない裏通りにわざわざ来る理由などそうそうない。

 予想通り足音は真っ直ぐこの店へと向かってきて、店の前で止まると同時に扉が勢いよく開いた。

 『閉店中』と書いてあるにも関わらず店に入って来たその人物は一瞬動きを止めると店内を見回し、俺の隣のアドリアを見つけると片手を上げて言い放った。


「やっほーアドちゃん!」






 アドちゃん。

 そう呼ばれたアドリアは苦笑混じりに、突然現れた女性へ言葉を返す。


「こんにちは、ラナ。依頼をしたのは確かですけど、閉店中の店にまで押し入ってこなくてもよかったんですよ?」


 ラナと呼ばれたその女性はバナミルにペコリとおじぎをするとアドリアの隣に座った。

 身長は150cmちょい。

 小柄な体に簡素な服。髪は短め。腰に短剣を刺しているが戦闘には向いてなさそうな格好だ。

 俺は人のこと言えないけど。


「お邪魔しますバナミルさん。やっぱ食材足りなくなっちゃったんですね」


「おうよ。客が来るのが悪いとは言わねぇが閉店せざるを得なくなるのは困るよなぁ。リュウ、俺はちょっと奥で作業してるから出るときは声かけろよ」


 そう言ってバナミルは店の奥へと入っていく。

 ラナはどうやらバナミルとも知り合いらしい。

 俺だけどうも気まずいな

 そう思っていると、ラナはくるりと横を向いてアドリア越しに俺に話しかけてくる。


「えーと、初めまして? アドちゃん……アドリアの友達で、生産者のラナと言います」


「こりゃご丁寧にどうも。リュウです。生産者って言ったらつまり……」


 言いながらアドリアを見る。

 アドリアはコクリと頷くと俺を指し示しながらラナに言う。


「ラナ、さっき言ったのがこの人ですよ」


「防具を作ってほしい人ね。まだゲーム開始二日目だけど初期装備以外に着こなせるのあるかなぁ」


「レベルなら足りてると思うぞ。今11レベだからさ」


 言った瞬間、アドリアがため息を吐く。


「注目されたくないなら黙っていればいいのに……」


 見ると、ラナが目をキラリと輝かせて笑みを浮かべていた。


「なるほどなるほど、攻略組の方ですか。でしたら是非私を専属にしてくれませんか? これから作るリュウさんの防具のケアも、これからの装備も全部私が請け負います。だからその分リュウさんに素材を融通してもらいたいですね。そうすれば私のスキルレベルも上がって……うへへ。」


「わ、分かった。その話は後でしよう。とりあえず、レベルは足りてるだろうし昨日今日で素材はあるから何か防具作ってくれないかな」


「あ、はい。じゃあ素材見せてもらいますね」


 ケロッと仕事モードに戻ったラナがトレードウィンドウを表示して来るので、持っている防具製造に使えそうな素材を片っ端から送る。イモムシからとれた糸やヘビ皮。相手方の生産レベルもわからないので今度は橙大蛇の素材も全部だ。


「ふむふむ、クモにイモムシの糸。ヘビ皮ですか。裁縫して作るのが良さそうですね」


 俺が渡した素材リストをスクロールさせていきそんな感想を漏らす。

 が、更に下にスクロールさせていくうちにどんどん顔色が悪くなってきた。


「えーっと…。シーフカメレオンの皮膚レア度3…えぇ!? 橙大蛇の皮レア度6!?」


「できればそれで防具を作ってもらいたいんだが……」


「無理です無理です! レア度3がせいぜいなのに6ってのは……こんなのまだ誰も扱えませんよきっと…」


 叫び声が尻すぼみに小さくなる。

 無駄にいい聴覚のせいで耳をふさいでいた俺は何事かとラナを見てみたところ、リストの一番下の素材を見て固まっているようだった。

 一番下と言えば……。


「橙大蛇の紅玉ってこれまさか……」


「知ってるのか?」


「紅玉系アイテムは生産のレベルを大幅に上げるアイテムなんです……恐らく新しく生産スキルを育てようとする人が低スキル帯をショートカットするためにあるアイテムなんでしょうけど。これがあれば一気に生産レベルが上がってこの橙大蛇の素材も使えるでしょうね」


 目をキラキラさせてそう言うラナを見てアドリアは何かを思いついたようにウィンドウを開くと必死にスクロールを始めた。


「どうかしたのか?」


「……予想通りですね。私がさっき掲示板に載せた情報に橙大蛇のドロップ素材も載せたんですが、紅玉が出たことでちょっと騒ぎになっているようです」


「なるほどね。生産者がそれを手に入れようと躍起になってるわけか」


「いくつものパーティがゴルゴ山に行っているそうですがフィールドの難度と珍しさの問題で橙大蛇はまだ見つかってないようですね。止めた方がいいでしょうか?」


「いやー、さすがにプレイヤーがこぞって討伐に行ってるんだったら簡単に狩れると思うぞ。それで生産者のレベルが上がって市場が活発になるんだったらむしろ歓迎だな?」


「さすがにそこまで簡単にはいかないと思いますが……」


「とりあえずラナさん。その紅玉を渡したら橙大蛇の防具も作ってくれるか?」


「いいんですか!? 喜んで作りますよ! 何なら武器も作りましょうか?」


 すごい勢いで食いついてくるラナに若干引きつつ説明する。


「俺は素手で戦ってるから武器は要らないんだよな。防具に関してはこれからも世話になると思うし、紅玉代とかは払わなくていいよ」


「重ね重ねありがとうございます! では早速!」


 ラナはそういうと俺のシャツの裾を引っ張って店の外に連れて行こうとする。


「ちょ、ちょっと待った! バナミル! 帰るから勘定を!」


 のそのそと店の奥から現れたバナミルに金を払おうとしたところでふと思い立つ。


「そういえば、バナミルも金の代わりに素材を渡した方が嬉しかったりする?」


「そりゃあそっちの方が嬉しいが……いいのか?」


「当然。俺が持ってても意味ないしな」


 そう言って持っている食材を片っ端からバナミルに送る。

 もちろん橙大蛇の素材も。


「おいおい、こんなにもらうわけにはいかねぇだろ」


「だから俺が持っててもしょうがないんだってば。他の見習い料理人に渡すなり明日のメニューにするなり好きにしてくれ。これからもよろしくということでサービスだ。……それと、世話になった礼もな」


「……おう。そうか。ならありがたくもらうよ。次来たらしっかりもてなすからな」


「ああ、楽しみにしてるよ」


 顔を見合わせて笑みを交換し、店の外へと出る。

 

 そして素材で勘定を済ませようとしたアドリアとバナミルの間にも同じやり取りがあったことは、言うまでもないだろう。



 

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