第11話 面倒ごとの予感
レストラン『ばななみるく』から外に出るとラナが眼を輝かせて待っていた。
もしラナが犬だとしたら、尻尾を千切れんばかりに振っているんじゃなかろうか。
「あーなんだ。アドリアはどうする?」
「リュウの新しい防具にも興味がありますしついていきますよ。ラナ、余裕があれば私のカマも作ってくれませんか? 橙大蛇の素材は私も持っているのできっといい武器ができると思います」
「ラナは色々できるんだな。生産スキルは何を上げてるんだ?」
「一応武器防具をあらかた作れるように鍛冶、裁縫、木工は上げてますね。ついでに装飾スキルも上げるつもりです」
ラナにシャツを引っ張られつつ歩き出す。なぜ掴むし。
「生産も色々あるんだな。ん? だとしたら紅玉を使ってもレベルが上がるスキルは一つだけなのか?」
意外と深刻な質問にラナは振り返って答える。服掴んだまま。
「どうやら作るのに使ったスキル+3つのスキルまで上げられるらしいです。紅玉という分類からしてアクセサリーにするのがいいと思ったので、装飾を使ってアクセサリーを作って鍛冶、裁縫、木工を上げることにしようと思ってます」
「そうか……計画早いな」
「リュウさんが店から出てくるまでにバッチリシュミレーションしました!」
ドヤ顔で胸を叩くラナ。バナミルといいラナといいレア素材が手に入るとテンション上がるのはなんでなんだろうな……いや、ラナは元からこういう性格なのか?
後ろでアドリアが苦笑しつつこちらを見ているのを見るとその可能性が高いか。
どうやらラナが向かっているのはカルカの中央、噴水近くの生産広場のようだ。
生産広場は、その名の通り色んな種類の生産設備が置いてある場所の事だ。もっとも、プレイヤーがつけた名前ではなくもともとついていた名前だそうだが。
生産広場では多く……はないがそこそこの人数のプレイヤーが生産活動に勤しんでいた。
まだゲーム2日目であり、ログアウト不可になってから1日しか経っていないこの状況で、前線組をサポートしようとするプレイヤーがこれだけいるだけでも凄いことなのだろう。
「バナミルさんとはここで会ったんです。昨日、明日には店を出してやるぞ、って息巻いてたんですけどね。昼に見にいきましたが、行列が絶えなくて可哀想でした……」
喋りながらラナは俺たちを生産広場の一角に連れていく。
「まだ装飾加工はやったことないですけど、紅玉を加工するだけなのでスキルなしでもできるはずです」
俺が大蛇の紅玉含め橙大蛇の素材を渡すと、ラナは作業台に火を入れた。
「金属は昨日今日で作っておいたのがあるのでそれを使いますね。見ていて面白い物でもないですけど……」
「いんや、生産にも興味あるし見てることにするよ」
「私も、少し興味がありますね」
「分かりました。じゃあ始めますよ」
言うとラナは顔を引き締めて作業台に向き直る。
ウィンドウを操作するとそれが大蛇の紅玉なのだろう赤い珠と金属を一つ実体化すると、インゴットをトングで火に入れて熱し始めた。
「よっと」
頃合いを見て取り出すと柔らかくなったインゴットを作業台の上に置く。ハンマーでカン、カン、とリズムよく叩き始めると、10回ほど叩いたところでインゴットの形が変形し始めた。そこに紅玉を置くと、インゴット全体が眩く発光する。
「できたのか?」
光った後の作業台を覗くと、赤い珠を真ん中に据えた首飾りが出来上がっていた。
シンプルだが、紅玉の存在感でただの首飾りではないことが分かる。
「はい、これで終わりですね」
「意外とあっけないもんなんだな」
「ゲームで言う生産はスキルレベルが全てですからね。現実みたいに複雑な作業は一切要らないです。その分多くの製品を造れるので私たち生産者からしたら嬉しいことですが」
「なるほどね」
「とりあえず、これをどうぞ」
ラナはそう言うとトレードウィンドウを開いて首飾りを送ってくる。
装備名:大蛇の首飾り
部位:首(装)
効果:素早さ+1.HP+3%.スキル[毒付与]
説明:大蛇の紅玉を埋め込んだシンプルな首飾り。素早さとHPが上がり、毒を使うことができるようになる。
「これは……強いな」
アイテムのウィンドウを開いて思わず呟く。
こちらとしては驚きの感想だったのだがラナは左右に首を振る。
「そりゃあ当然ですよ。今現在発見されている中で最強と言っていいモンスターのレア素材ですからね」
試しに首飾りを装備してみる。
最大HPが上がったせいでHPが少し減ったのが分かる。
さっそくウィンドウを開き、スキル欄を見ると確かに[毒付与]が追加されている。
「装備品でスキルが付与されることもあるんだな」
「そうですね、主にアクセサリーがそれに当てはまるようです。後は武器によってもスキルが得られますが……これはリュウには関係なさそうですね」
そう答えたのはアドリアだった。さすが情報屋、と思いつつふと思ったことを口に出す。
「つまり装備で発動するスキルはオリジナルじゃないと?」
「そうみたいですね。その分汎用性の高いものが多いそうなので、装飾職人は出番が多いかと」
そう言いつつラナを見る。対してラナは視線に怯みつつ胸を叩いて答える。
「リュウさんのおかげで装飾の他に鍛冶、木工、裁縫はガッツリ上がりましたよ。これで橙大蛇の素材も扱えるはずです」
「高スキル生産者は引く手数多だろうからな。これから頑張れよ」
「当然です。それで、リュウさんの装備はどんな物にしますか?」
どんな物……と言われてアドリアの装備を見る。彼女の装備は隠密主体故か黒が基調とされている。つまり自分のスキルに合うものを作ってもらえればいいのか。
「とりあえず、回避主体だから金属装備は除外かな。今あるのがヘビの皮だし布系装備でいいんじゃないか?」
「了解です。好みの色とかありますか?」
「色? 橙大蛇の素材だからオレンジの派手な奴になることを覚悟してたんだが色も選べるのか?」
「はい、これは裁縫のスキルにある染色というものを使えばできますね」
「んー、じゃああんまり目立たないやつ……茶色的な感じで」
「分かりました。アドちゃんと被るのは嫌なんですね。」
ラナが言った瞬間アドリアの視線が冷たくなったのを感じる。
まぁおそらく冗談だろうが。
冗談……だよな?
「じゃあ基本は私が決めちゃいますね」
「それで頼む。結構良い装備が作れると思っていいんだよな? 楽しみだ」
「装備造りは多少時間かかりますがどうしますか? 1時間はほしいですが」
「そんなにかかるのか」
「参りましたね。1時間と言ったらフィールドに出るわけにもいきませんし」
「そもそもアドリアは俺に付き合う必要があるのか?」
「武器なら素材を預けてくれれば作るよ? 後で取りに来てくれれば」
そう言われたアドリアは少し悩んでいた様子だったが、意を決したようで答える。
「そうですね、午後は行きたい場所もあったのでそっちに行ってみようと思います。ラナ、材料を渡しておきますね」
そう言うとラナに素材をトレードする。
「では夜には取りに来ますね。リュウ、またどこかで会いましょう」
「どっちにしろ俺は掲示板でアドリアにお世話になるんだけどな。まぁ攻略してたらまたすぐ会うことになりそうだ」
手短かに挨拶を済ませると、アドリアは東エリアに行くと言って去って行った。
東エリアは今攻略組が力を入れている最前線のはずだ。
初期エリアということもあってそこまで強いモンスターがいるわけでもないし俺が行く理由もないだろう。
「俺は少しカルカを見て回ることにするよ。1時間後に来ればいいんだよな?」
「そうですね。すごい防具を作るんで期待しててくださいね」
「おう、よろしくな」
そう言葉を交わして生産広場から離れる。
特にアテがあるわけでもない、ただの散歩だ。
まだ昼前だからか、大通りにも人は少ない。
が、昨日に比べて道行く人々の顔は明るくなっている気がする。
それが必ずしも良い物であるのかは分からないが。
「ふわぁー、ねむいな」
昨日は夜遅くまで情報収集を行い、今日は朝からゴルゴ山に行っていたため睡眠時間がかなり短かった。
今更のように襲ってきた睡魔と格闘しながら歩いていくと前方に何やら人だかりが。
「なぁあんた、これ何の祭りだ?」
適当に人だかりのうちの一人に話しかける。
「これが祭りに見えんのかよ。あいつらがな、俺らがゲームを攻略してやるんだから装備でもなんでも譲れってよ」
おっさんが指し示した先には露店の前にずらりと並んでいる6人の男たちが。
全員が金属鎧を身に着けていて、6人も並ぶとそれなりに威圧感がある。
とは言ってもよくよく見ると見かけだましの安物であることが分かるのだが。
露店をやっているのは青年……というか少年の部類に入るであろう小柄なプレイヤーだった。
OOは現実とそこまで体格に相違が出ないため彼は現実でも15,6歳程度だろう。
確かOOの年齢制限が15歳以上だったか。
少なくとも俺よりは年下に見える。
ビクビクしながら相手を見上げているところを見ると見事に見かけだましに嵌ってしまったようだ。
「だーかーらー。お前みたいなお子様のためにこっちは戦ってやってんだろうがよ。そういう相手には感謝を込めてアイテムの10や20は譲るのが普通なんじゃねえの?」
言ってることに筋が通っていない、というか昼間にこんなとこで遊んでる時点で『お前みたいなお子様のために戦ってやってる』ことにはならないだろうに。
取り巻きの連中もげらげら笑っている。
言ってることがおかしいのは分かっているんだろうが数の優位のせいか余裕の表情だ。
「で、ですから、これは僕の物ではないのでお渡しできな――」
「ごちゃごちゃ言ってんじゃねえよ!だったらお前のアイテムでもいいからよこせって言ってんだろうが!」
無茶苦茶なやり取りだがギャラリーも止めるようなやつはいない。
自分が巻き込まれるのを恐れているのもあるんだろうが、この状況を楽しんでいるであろう奴らもいる。
現実に戻れなくなってストレスが溜まっているのもあるんだろう。
俺も普段は見て見ぬフリをしてとっとと立ち去る場面なんだがこの状況は大変よろしくない。
ゲームを攻略してるんだからアイテムを無償で提供しろなんて風潮が広がってしまったらすぐにプレイヤー間に溝ができる。
ゲーム攻略というのは攻略組だけが居れば行えるようなものでは決してない。たくさんのプレイヤーが協力して初めてゲーム攻略をすることができる。
「その支援をなくすようなマネしやがって……」
気づけば6人のリーダー格の男の肩に手を置いていた。
ギャラリーと相手方チンピラ共の凄まじい視線。
どうしてこうなった……と内心ため息をつきながら口を開く。
「そこまでにしとけよ。攻略組の癖にアイテム買う金も稼げねえのか?」
思わぬ乱入者に動揺していたようだがリーダー格の男が一番早く動揺から回復する。
「なんだよてめぇ。正義のヒーロー気取りでいい気になってんじゃねえぞ。」
見事にテンプレ通りで笑えてくる、が、こういう手合いが面倒なのも事実だ。
一度首を突っ込んだ以上始末付けるしかないだろう。
「自称攻略組さん達、お前らがやってるのは攻略の邪魔だ。欲しいものがあるんだったら金貯めて買ったらどうだ」
「分かんねえ奴だな。なんで俺達が無償で働いてやんなきゃいけねえんだよ。お前らのために戦ってやるんだからその程度の支援はするべきだろうが」
無限に続きそうな問答に嫌気がさしてくる。
「お前らがやってる行為は前線で頑張ってる奴らへの侮辱だ。他の奴らは見返りなんて求めてないんだよ。んなこと言ってんだったら攻略なんてしなくていいぞ、どうせお前らが居なくたって大して変わんねぇだろ」
そう言われた瞬間相手方全員の顔が不快気に歪む。
今のはマズかったか? と思っていたらリーダー格の男が芝居かかった口調で話始める。
「おーおーてめぇ。そこまで言うんだったらてめぇも大層強いんだよな? そうじゃなきゃ俺らに攻略すんなとか言えねぇもんなぁ」
急に変わった口調に眉を潜める。
「何が言いたい?」
「ゲームでもイザコザの解決方法は昔っから決まってんだろぉ?」
ああ、そういうことか。つまりこいつは――
「決闘しようぜ」
こう言いたいわけか。




