エピローグ「永遠の春を約束して」
帝国の宮殿にロマンが迎えられてから、二度目の春が訪れていた。
厳しい冬を越えた広大な庭園には雪解け水が小川を作り、無数の花々が一斉に甘い香りを放って咲き乱れている。
ロマンは柔らかな若草の上に座り込み、小さな獣人の子供たちや、宮殿に住み着いた動物たちに囲まれていた。
「そんなに急がなくても、お菓子は逃げないぞ。ほら、順番を守って」
用意された焼き菓子を配りながら、ロマンは優しく顔をほころばせる。
公爵家が犯した大罪は帝国法によって適正に裁かれ、彼を縛り付けていた悪役令息としての運命は跡形もなく消え去った。
今では彼に憎悪を向ける者は、この広大な帝国の中に一人も存在しない。
それどころか、孤高の皇帝の心を溶かし、種族を問わず誰に対しても分け隔てなく接するロマンは、多くの獣人たちから深く敬愛されていた。
「また彼らを甘やかしているのか。私よりも随分と楽しそうだな」
背後から響いた低い声に振り返ると、政務の合間を縫って訪れたカルステンが立っていた。
彼は動物たちを威圧しないよう速度を落として歩み寄り、ロマンの隣に腰を下ろす。
大きな手がロマンの腰に回り、誰にも渡さないと主張するように強い力で抱き寄せた。
周囲にいた子供たちは皇帝の登場に少しだけ身を縮めたが、ロマンが楽しそうに笑うのを見てすぐに遊びへと戻っていく。
「あんたが公務ばかりで構ってくれないから、寂しさを紛らわせているんだ」
わざと不満げに告げると、カルステンの黄金色の瞳に隠しきれない愛情の色がにじむ。
彼はロマンの耳元に顔を寄せ、吐息が触れるほどの距離で低い声をささやいた。
「ならば、今夜は朝が来るまで寂しさを埋めてやろう。……逃がすつもりはないぞ」
顔に熱を集めながら、ロマンはカルステンの広い肩に静かに額を押し付けた。
断頭台の露と消えるはずだった暗い未来は、もう影も形もない。
前世で夢見ていた、動物たちに囲まれて穏やかに暮らす日々。
そして何よりも、自分のすべてを懸けて愛してくれる唯一無二の伴侶がすぐそばにいる。
温かな春の陽だまりの中で、ロマンは自らが手にした最高の結末を噛み締めるように、静かに目を閉じた。




