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終末戦争  作者: Terra
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第9話 力と信頼

 あれから一週間、毎日修行終わりには吐いてしまうほど、全力で打ち込んでいた。今日もまた、修練場にてひとしきり修行をし、滝のような汗を手で払いながら休憩を取る。

「ふぅ…」

 一息ついて、修練場の椅子に腰を掛けた。タオルで汗を拭きながら、あまりの疲労に項垂れたまま固まってしまう。

「どうだ?少しは魔眼にも慣れてきたんじゃないか」

 そういいながら、どこから取り出したのか、ガイアは水筒をこちらに手渡しながら、隣に座ってきた。こちらと違って、ガイアの額には汗一つ浮かんでいない。あれから試行錯誤を重ね、様々な動きを織り交ぜながら一本でも取ろうかと思ったが、どれほど振ってもまともに当たる気配すらない。

「”魔眼には”、少しは慣れてきましたよ」

 嫌味ったらしく語気を強めながら言いつつ、水筒に口を付ける。氷も入っていないのに随分と冷たくて、驚きのあまり少しこぼしてしまう。格好をつけたセリフを言った直後のせいか、不意の笑いを誘ってしまった。

「ぷっ…ハハハハハ!!だろうな。まぁ、まだ大して時間もかけていないんだ。当然っちゃ当然だがな」

「ハァ…でも、俺は強くなりたいんだ。少しでも強くなれる方法があるっていうんなら、なんだってやるさ」

 つい、張り詰めたような声になってしまった。意外な反応だったのか、笑みも消えて空気が静まり返る。話す言葉も浮かんでいないと、優しい声音になったガイアが、先に口を開いた。

「なぁ、なんで月島はそこまで強くなりたいんだ?」

「え…?」

「お前がどんな選択をしようとも強さが必要になるってのは、俺の意見であり、方針だ。だが、それを受けてお前は進んで力を得ようとしていただろ?それが気になってな」

 そう言われて、返答に困ってしまう。自分のうちで燻るこの感覚は、自分でもまだよくわかっていない。なにより、一番信頼できていた親友にこそ、そう言った感情を抱いていたから、誰かに話したことなどなかった。

「…言葉にできないか」

「…はい」

 本当は、はっきり言えるべきことなのかもしれない。それでも、言葉にしようと考えるほど、この感情を言い表す言葉が思いつかなくなってしまった。

「…そうか。まぁ、案外自分のことこそ一番わからないもんだったりするからな。今はただ、強くなることだけを考えておけばいい」


 深く詮索してこないガイアに、どこか申し訳なさを感じながら、ふと疑問に思っていたことを口にしてみる。

「逆に質問するみたいで悪いんですけど…魔王序列ってなんなんですか?」

「ん?言ったことなかったか」

「えぇ、この前に少し話していたくらいで…序列一位だとかなんだとか…」

「あぁ…」

 話す準備の為か、水筒を手渡すようにジェスチャーをされるので、応えるように手渡すと、喉を潤すように水を一口飲んだ。一呼吸おいて、話す順序を探るように、どこか遠くを見つめながら話し始めた。

「随分と昔に制定された法案…というより、儀式みたいなものがあってな。そいつに従って、五年に一回、この魔界を統べる魔界、統魔界の王座に就く魔王を決めるんだ」

「現統魔王はガイアさん…なんですよね」

「あぁ、その儀式の内容によって、魔王序列も同時に決められる。具体的には、魔界中の生ける者達による戦いと、それに勝ち残った七十二人による選挙だな」

「戦いと…選挙?」

 戦いは魔界らしいというか、本来イメージしていた異世界像にかなり近い。だが、その上での選挙というのは、どうにも想像つかなかった。

「いろんな奴らによる殺し合いだ。単に国を背負う王として参加する奴、統魔王になろう本気で思っている奴、ただ戦いたいだけの奴とかな。そこで生き残った七十二人には、魔王を名乗る権利が与えられると同時に、統魔王を決める選挙への参加が義務付けられている。」

「魔界中…」

 どれだけの参加者がいるのだろうか。ただ、七十二人も残れるということは、相応の規模の人数が参加しているのだろう。考えたくはないが、ガイアと同等の実力者もいるのだろうか。だとしたら、俺はとんだ魔境に来てしまったのではないか。

「選挙もまた魔界全土が対象だ。残った七十二人の中から、最も統魔王に相応しいと思える人物に投票する。そうして最も票を集めた人物が魔王序列第一位、統魔王の座に就くってルールだ。簡単だろ?」

 納得のいく説明ができたのか、自慢するようにドヤ顔で言われてしまう。しかし、まだ選挙にも行ったこともない自分には、とてもイメージできるものではなかった。

「はぁ…魔界全土なんて、想像もつかないですね…でも、なんていうか、こんな重要な立場の人物にしては、かなりシンプルなルールで決められるんですね」

「初代魔王さんが、何考えてこんなものを制定したのかは、俺達にはわからない。だが、俺は案外気に入ってるんだぜ。力と信頼、その両方が求められる立場だからな」

「なるほど…」

 こうして、個人的な事情にも関わらず、毎日時間を作って鍛錬を助けてくれるのは、本当にありがたい話だ。だが、やはりこれだけ高い立場にいる者に、自分の為だけに時間を割かせるのは些か気が引ける。それに、他人の厚意に甘えているようで、情けない自分にも嫌気がしてくる。


「…もう一つ、聞いてもいいですか?」

「なんだ?」

「なんで…俺を助けてくれるんですか?」

「何故、か」

「…はい。大して知りもしない俺のことを、ここまで面倒見てくれるなんて、ちょっと怖いくらいですよ」

 そう言うと、真剣な眼差しのまま、視線を落としてなにやら考え始めてしまった。あまり聞いてはいけないことだったかと、後悔し始めていると、漏れ出すような声音で話し始めた。

「…似ていたから…かもな」

「似ていた…?」

「なんとなく、似ていたから…そんな気がしてな」

「…どこが?」

 ここまで似通っていない俺と比べられて、ついシンプルな疑問をぶつけてしまった。せっかく哀愁漂っていた雰囲気を壊されたせいか、見た目でわかるほど引いた後、呆れたようなジェスチャーを交えて、軽く流されてしまう。

「お前なぁ…そんな気がしただけだ。元々、困っているやつ見つけると、放っておけない性分でな。今回も似たようなもんだ」

「そう、ですか…」

 絶対にはぐらかされた。そう感じつつも、せっかくの善意を無碍にする気にもなれず、今は甘えておくことにした。

「…(だが、魔眼だけはいつか絶対使わせて見せるからな…!!)」

 対抗心にも似た向上心を燃え上がらせながら―――

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