第1話 はじまりの日
初めまして、Terraとして活動させていただきます。
今作品が初投稿となりますので生暖かい目で見てくださると幸いです。
投稿は不定期となります。ご容赦くださいませ。
才能なんて、努力なんて、くだらないものだ。俺はそこらの奴らの何倍も持っているし、何倍もやってきた。新聞やテレビでは、百年に一人の天才だとか、常勝無敗だとか。SNSなんかじゃ、俺を持て囃す話題ばかりで、ロクに試合内容も見てない奴らばっかりだ。だが、それでも、あいつにだけはただの一度も勝てはしなかった。
静まり返った空間、観客の吐息さえ聞こえてしまいそうなほどの静寂、それは審判の一声で切り裂かれた。
俺もあいつも、互いの目を見ていた。一歩踏み込めば終わらせる、そんな鋭さを持っていた。竹刀を握る両の手が強張るのを感じる。
互いによく知っているその剣は、安易な踏み込みを許さなかった。必殺の一撃のため、その一太刀のため互いに間合いを取る。
竹刀の先がほんの少し触れあった刹那ーーー
気が付いた時には、互いの竹刀はすでに振られていた。自分たちでもわからないほど同時の相面。
それでも、あの時上がった白色の旗は、俺の負けを示していた。
高2の夏、俺――月島塔夜はあいつに負けた。戦場暁、幼馴染だ。技量もセンスも、常に俺の一歩先を行っていた。だけどあいつはいつも謙虚だった。そんな実力をひけらかすこともなく、それどころか俺を尊敬でもしているかのようなあの目が、心底嫌いだった。
耳鳴りがしそうなほどうるさい目覚ましが鳴っている。悪夢を払いのけるようにそれを止め、重たい体を起こす。俺のことなんか知りもしない太陽は、今日も輝いていた。
半ばまだ眠ったままの自分を起こすため、顔を洗っていた。ふと顔を上げると、そこには、死んだ目をした俺がいた。髪もぼさぼさで、中身がどっか飛んで行ってしまったような、自分でもそう思える奴がそこにいた。自分の顔を見るたび、あの日を思い出す。脳裏にへばり付いたクソみたいな記憶だ。それを洗い流すかのように何度も水をかぶる。それでも、悪態は口からこぼれ出る。
「―――くだらねぇ」
起きた時には、すでに母は仕事に出ていた。妹も部活の朝練が早いとかでとっくにいなかった。台所には丁寧にラップがかけられた朝食と、弁当袋に入れられた昼食があった。そろそろ自炊でもしたほうが母の負担も減るかな、なんて、どうでもいいことを考えながら朝食を取る。携帯で今日の天気やニュースを見ていた。台風発生が近いかもとか、どこどこで殺害事件が起きただとか、今日も大して面白いものもないなと食器を片付けた。
今日の授業に必要なものをリュックに詰め、制服に着替えて外に出る。さっきも思ったが今日は一段と太陽が眩しい。予報によれば一日中快晴らしく、ただでさえ熱い夏が一段とうっとおしく感じた。
俺の通っている高校は徒歩で約20分。自転車を使ってもよかったが、最近はそれさえ面倒に感じてしまい、わざわざ時間のかかる徒歩で通学している。いつもと変わらない通学路だった、そのはずだった。
通学路の大半は住宅街で、鳥の囀りとたまに野良猫の鳴き声が聞こえる程度だったが、その日は違った。妙に重低音な、空気が震えているような音が聞こえた気がした。気が付けば、足がそちらへ向いていた。
そこは、小さな公園だった。まだ朝早いからか自分以外は誰もいなかった。その公園の中心に、手のひら程度のサイズしかない黒い塊のようなものがあった。近づいてよく見てみると、それは塊じゃなく、どちらかといえば穴のような、吸い込まれてしまいそうだと直感させるものだった。明らかに普通ではないそれに、空中に突然穴が開いたように忽然と表れているそれに、いつの間にか手が動いていた。くだらない日常に、つまらない日々に、ほんの少しでも変化があればと、そう思っていたのかもしれない。
それに手を伸ばそうとした瞬間、ガラスがひび割れたような音を発し、突如として裂け目へと拡大した。
「なっ…!?」
あまりに突然だったから、自分でも情けないと思える声がこぼれ出た。
自分でも余裕で通り抜けられそうなサイズになったそれに、急激に吸い込まれそうになる。
「ざっけんなッ…!!」
何とかこらえようとしたが、次第に足は地面から離れ、裂け目に吸い込まれていった。
「うおわああああああああ!?」
その裂け目は、最初から何もなかったかのように姿を消した―――




