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寒い国から来た鬼類  作者: 弐乃
第10章 鬼類、ダンスを踊る
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エピソード龍美・16

 目の前に焼きたてのアメリカンピザの大皿が置かれる。新鮮なトマトから手作りしたピザソースの上に、チーズ、ハム、ソーセージ、玉ねぎ、パイナップルがどっさりと乗っている。

 酢豚に入ったパイナップルが、イメージを大きく裏切るほど美味しいのと同じで、チーズ、ハム、ソーセージという塩味系の中にあって、甘いフルーツのパイナップルが素晴らしい仕事をしている。

 甘じょっぱくもズシンと胃袋を刺激するパイナップルピザを口いっぱいに頬張ると、イタリア生まれのピザを魔改造してこの背徳の美味を生み出したアメリカ人の冒険心とチャレンジャースピリッツ、飽くなき高カロリーへの探究心に、思わず胸に手を当てアメリカ万歳と唱えたくなる。

「んで、相談て?」

 あたしは指についた油とチーズを舐めながら尋ねる。

「えぇ、実は俺兄貴がいるんですけど」

 だと思った。だって礼二だもん。お兄さんは敬一くんという名前だそうだ。

「うちの兄貴も山浦高校に通ってて。マウントクリークには入ってないんですが」

 あたしはストロベリーシェイクで口中を爽やかにする。

「ふぅん。お兄さんは勉強一筋とか?」

「はは、まさか。ちょっと、そのー 別のチームに入ってまして」

 あたしは垂れてくるチーズを口で受け止めながら、

「んぁ?別のチームぅ?ちょっと柄の悪いツーリングチームに入ってんの?」

 礼二はピザの上に付け合わせのフレンチフライを乗せてかぶりつく。口をモグモグやりながら手と顔を左右に振る。

「いえいえ、族じゃないです。うちの兄貴軟弱なんで。バイクもダンスもしてなくて、ただ駅前とかショッピングモールでつるんでだべったりナンパしたりするだけのチームでして」

 あたしは再びシェイクをゴクリ。77(セブンセブン)のシェイクって甘くて濃厚で絶品。

「そうなんだ。男前だったらあたしのことナンパしてくれていいけど?」

「んー、どうですかね。兄貴は親父似なんで。よく浮世絵の大泥棒みたいって言われてます」

 あたしはため息混じりにまたピザをガブリとやる。この美しくも気高く、おまけに腕も立つ乙女に告白しようという男がいないのは、世の中理不尽だとしか言いようがない。

「んで、その大泥棒顔の兄貴がどうしたの?」

 礼二の声のトーンが変わる。

「三日前なんすけど、こっぴどくやられて帰ってきて」

「よくあるチーム抗争ってやつ?」

「いや、兄貴のチームはホント軟弱者ばかりなんで。どっちかっていうとナンパメインのチームなんすよ。喧嘩やトラブルは極力避けて、みんなで仲良くナンパに精出す感じの、まぁ健全っちゃ健全なんですが」

 え、健全なのかな、それ。

「夜中に顔中に痣つけて帰ってきたんですよ。前歯をゴッソリと肋も二本やられてました。親父がそのまま病院に運んで、まぁ命に関わるケガじゃなかったんてすが」

 あたしは思わずゴクンと喉を鳴らしてしまう。

「前歯と肋って、それ相当なもんじゃない。警察には届けたの?」

「医者が連絡したみたいで警官が病院に来たらしいです。兄貴たちはまぁナンパだけだし、悪いことは何もしてないんで。正直に起こったことを話したらしいです」

「そもそも何があったの?ケンカ?」

「まぁケンカっちゃケンカです。兄貴たちは五人だったんですが、いきなり絡まれて、路地に連れ込まれてボコボコにやられたらしいです。兄貴たちもナンパチームといってもその気になりゃケンカのほうもそこそこやるんですけどね。相手も五六人だったみたいなんですが見事にボコられたらしいです。色々武器も持ってたみたいで」

「武器?穏やかじゃないなぁ」

「兄貴はメリケンサックで殴られたって言ってます。あと靴下に小銭詰め込んだのを持ってる奴もいたって」

 靴下に小銭。剣呑な武器だ。靴下に一銭玉を五六十枚も詰め込んでそれを振り回せば大変な凶器になる。頭に当たれば頭蓋骨が粉砕されかねない。

「ヤバいね。そんな連中警察に任せるしかないでしょ?」

「警察は若い奴らのケンカぐらいに思ってますから本腰を入れちゃくれないですよ」

 礼二はここであたしの顔を覗き込むように見つめた。

「実は他のチームとも組んで自警団を作ろうかって言ってるんです」

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