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寒い国から来た鬼類  作者: 弐乃
第10章 鬼類、ダンスを踊る
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エピソード龍美・15

 日曜日の波止場公園。あたしはマウントクリークのメンバーに混ぜてもらって、穏やかな陽射しを楽しみながら過ごしている。

 ダンスはたまに手ほどきしてもらう程度。そもそもツイストやロカビリーダンスはそれほど型にこだわらないし、

「基本、龍美が楽しけりゃそれでいいのさ」

ということらしい。それよりあたしは今楽器を習っている。これまで学校の授業でリコーダーや鍵盤ハーモニカくらいしか弾いたことがないのだけど。

 あたしが習っているのはトランペット。マウントクリークのバンドトリオはギター、ベース、ドラムのスリーピース。管楽器は入っていないが、マウントクリークではパフォーマンス開始と終了の合図にメンバーがトランペットを吹く。何気なく、

「いい音だなぁ。あたしも吹いてみたいなぁ」

と呟いたら、元ブラスバンド部というトランペット担当メンバーが気前よく、

「俺が中学時代に使ってたやつで良かったら」

とトランペットをタダで譲ってくれたのだ。

 最初は音を出すのが難しかったけど、コツを掴むと何とかラッパらしい音を出すことができるようになった。フィンガリングは要は慣れだから、後は吹いた時間の勝負だ。

「へぇー 姉御、いい音出すじゃないすか」

 礼二が少しばかり意外そうな顔で言うので何だか癪に触る。

「なに?あたしが楽器音痴だと思ってたわけ?」

「いや、そういうわけじゃー ただ剣道とかバイクとか、そっちのほうが得意なのかなって」

 マウントクリークのラッパ担当、拓人くん(あたしよか二つばかし年上だけど拓人くん呼びを許してくれている)も、

「いや、マジで俺が始めた頃より上手いね」

とおだてるからあたしもまんざらでもない。

「いやホント、ラッパのサブ担当でチームに入りましょうよ、姉御。でもって踊らないときは俺らバンドメンバーと組んでジャズやりましょうよ」

「礼二、あんたジャズやってんの?」

「いやまぁ、やってるっつうかー ジャズギタリストとかで食えたらいいなぁって思ってて」

 あたしは思わず笑顔になる。バカにしてるわけじゃなく、若者の夢を聞くのって無条件に楽しいから。

「頑張んなよ」

「あざっす」

 あたしは毎週末のようにマウントクリークの活動に参加しながら、まだチームに正式に参加していない。海猫のこともあってライバルチームに参加することを躊躇しているのだ。

 特にミカのことは気になっている。ミカは学校にほとんど顔を見せなくなっている。あたしはこの波止場公園に来るとさりげなくミカを探して、海猫の様子を遠巻きに眺めてみるのだが、もう三四カ月前に一度姿を見かけたきりだ。

 その時のミカは少し老けたような気だるい顔つきで、踊らずに独りタバコを吸っていた。ここしばらくは波止場にも顔を出していないようだ。

 その日のダンスパフォーマンスが終わり、拓人くんが切なげなバラードを吹き、観客たちはまた来週ねと声を掛け合いながら、三三五五帰路についた。

「姉御、ちょっと相談があるんですけど」

 帰り際に礼二が言った。

「ん、相談?あたしに?」

「帰りにうちの店で飯食いませんが?食いながら話を聞いてもらえたらと思ったんですが」

「もちろんいーよ。食べる」

 あたしはニッコリ笑って即答。礼二にはいつも世話になっている。たまには相談ぐらい聞いてあげないと。

「アザッす。帰りは遅くならないうちにおふくろに送らせますから」

 というわけで、波止場公園の帰りに礼二の実家が営むカフェ、77(セブンセブン)カフェへ。

「あら、龍美ちゃんいらっしゃい」

 厨房から礼二のご両親が挨拶してくれる。時折波止場帰りに寄ることがあり、あたしの顔と名前も覚えてくれている。

 ご両親は鬼人ではない。お母さんの何代か前のご先祖に鬼人がおり、知らず知らずのうちに受け継がれた鬼人の血が礼二の中で顕在化したのだ。礼二は里で突然虫が憑いた「親不知」と呼ばれる鬼人なのだ。

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