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寒い国から来た鬼類  作者: 弐乃
第9章 鬼類、他校生と交流す
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組手練習

 僕は恐らく今日数百回目のため息をついた。ミムラが彼女にはあまり似合わない苦笑を浮かべる。

「シュンカがとんでもなく萎萎(しおしお)のパァになってるよ。ま、分かるんだけどさ」

 ユウトが僕の背を軽く叩く。普段あまりこういうことをしないユウトにここまでさせるのは僕の落ち込みが相当激しいから。自分で言うのもなんだけど、この数日でひどくやつれてしまった。恋の魔力恐るべし。

「別れたわけじゃないでしょうに。向陽台ならバイクで一時間だよ。今度の休みに行っといでよ」

 僕と違い、ツバメさんは明るい。凄く明るい。何でも坂田之山君といい感じになりそうだとか。つい先日までの孤独な嫉妬星人の仮面は微塵もなく砕かれ、青春期の溌剌少女のツバメさんがいる。なんか、理由はないけど腹立つー あ、ツバメさんが僕に八つ当たりしてたのはこういう気分の時か。

「でも良かったよ、直生ちゃんはお咎めなしで。坂田之山君も部活停止程度で済んだらしいし」

 やはり停学になるならないで後々だいぶ違うらしい。坂田之山君は結果的に向陽台側の決闘見届人扱いとなった。美濃城さんと屋嘉町君が一番重い処分で停学一ヶ月だからバランスを取る意味でも軽めの処分になったんだろう。

「とにかくよくやってくれたわ。これ、今回のバイト代よ」

 田中先生が僕らの名前が書かれた茶封筒を配ってくれる。今回はツバメさんにもバイト代が出たのでツバメさん大喜びだ。

「でもツバメちゃん、甘味研究会のバイトは時には危険なこともあるわ。こういうのは今回きりになさい」

 ツバメさん、僕らから聞いたわけではなく、独自の調査で決闘場所を突き止め、単身玉香苑に乗り込んだんだ。多分坂田之山君のことも気になってたんじゃないかな。やっぱり恋の魔力恐るべしーだ。


 翌日。僕は胸のうちに虚ろなものを抱えながら授業を受けていた。

 武道の授業。型を一通りやってから自由組手が始まる。館の武道授業は男女混合。力量が同程度だったり、気の合う者同士が組んで組手をする。中には男女で組む生徒もいる。入館から半年以上経ち、夏以降は型の稽古や鬼力抜きの和風組手だけでなく、鬼力ありの鬼門組手も行われるようになった。

 あちこちで鬼力の火花が飛び散る授業風景はとても綺麗で、まだまだ鬼門の水に慣れない僕はついつい見惚れてしまう。

 白金の中でも僕ら甘味研究会の三人は別枠扱い。ミムラ、ユウトの鬼類二人に僕という鬼類もどき、それに孫崎先生が入って四人で組手練習をする。入学最初の授業でミムラが虹ヶ原さんを負かして以来ずっとだ。だから僕はミムラ、ユウト、孫崎先生の三人以外と組手をしたことがない。

「はい、そうそう、いいよ!そこでパンッ!」

 孫崎先生に効果的に鬼力を放つタイミングを教えてもらいながら僕は体を動かす。

「はいはいシュンカ、あんまり落ち込んだ顔しない。別にふられたわけじゃあるまいし」

 孫崎先生が控えめな声で僕を慰める。結構いろんな人からこれを言われる。僕そんなに落ち込んで見えるのか。それなりにシャンとしてるつもりだったのに。鬼人は外見だけでなく、身体から発する鬼力や鬼風も含めて見るから気落ちしてるとそれが目につくのかも。

 空元気でも絞り出してみようかと考えていると背後から声が。

「ミムラ」

 虹ヶ原さんだ。

「相手をしてもらえる?」

 武道場内がシンと静まる。ミムラは戸惑ったように孫崎先生をチラ見した。

「にっ、虹ヶ原さん、相手なら私がー」

 虹ヶ原さんは礼儀正しく孫崎先生に微笑んで会釈すると、

「いい?ミムラ」

 と気負ったところもなく尋ねた。ミムラも何か感じるものがあったのだろう。

「もちろん」

 と答える。孫崎先生が泡食った表情で二人の間に入ろうとするが、虹ヶ原さんは

「大丈夫です。ただの練習ですから」

 と、両手を上げで構える。

「ちょちょ、ちょっと、シュンカっ、止めなさい!」

 孫崎先生が目を白黒させながら僕の背を引っぱたいた。



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