表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/22

電車


 帰宅ラッシュはまだなのか、電車は比較的空いていた。少ないながらも乗客はいるが、迷惑は承知の上で橋本先輩は友達に電話を掛けた。

 

 橋本先輩は友達に、弟はいつも何処でボコボコにされているのかと聞いた。

 学校の近くに人目の付かない空き地があり、そこが不良の溜まり場になっているらしい。橋本先輩の弟はそこにいつも連れていかれているそうだ。


 次いで、今日も弟は連れていかれたのかと聞いた。

 たった今、橋本先輩の弟は連れていかれたそうだ。


 その二つを訊き、橋本先輩はありがとうと言い通話を切った。


 通話が終わるのを待って宮下先輩は口を開く。

 「何故、弟君は助けを求めたりしないんだ? 教師に相談するとか、警察に相談するとかあるだろう。普通、そうするし、学校にも行かなくなりそうなものだが」


 「弟は、学校で言った通りの性格なので、誰かに相談するとか、学校に行かないというのは負けだと思ってるんだと思います。逃げるぐらいなら、負けるぐらいなら、ボコボコにされるのを選ぶ、そんな性格なんです」


 「でもですよ、そんなに毎日やられているなら、周りの人間が気づいてもいいと思うんですけれど」

 僕は不思議に思い、口を開く。


 「周囲の人間は、生徒や教師は気づいていると思います。あんな痣だらけの顔や体を見たら嫌でも気づくと思います。生徒はともかく、教師ですらも触らぬ神に祟りなし、と気づかないふりをしているんだと思うんです。あの学校は、不良が多いことでも有名ですし……」

 

 と、そこで僕たちが下りる駅にもうすぐ着く、とアナウンスが鳴る。

 

 宮下先輩は鞄から、使い捨てマスクを三つ取り出す。

 「二人共、これを着けるんだ」


 「え? 何故です?」

 僕は受け取りながら声を出す。


 「顔を覚えられて、後から復讐に来られても面白くないだろう?」

 宮下先輩はマスクを着けながら答える。


 「ちょうどよかったよ、私が花粉症で」


 電車はゆっくりと減速し、止まった。



 




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ