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[Mission-008]

前回までのMission!


 訓練シミュレーターから降りた昴流を出迎えたのは、仲間からのやや厳しい洗礼であった。

 仲間と交流を深めていると、会場に鋭い声が響き渡った。

[Mission-008]



 声の響いた方向に目線を向けると、そこには上官、それも訓練生を直接指導する教官を示す黒い制服、それにミニスカートとタイツと言う妙に心をくすぐる格好。黒髪を編み込んで留めた髪型に眼鏡と言う、憧れを抱いて差し支えない理想の女性上司を体現してしかるべき人物が建っていた。彼女は尾乃(おの)教官である。

「教官、あンな敵聞いてないぜ!」

「そうですわ、ネビュラのセキュリティはどうなっていますの!」

「これはやっぱり失敗って事に成るんですか?」

 教官に対して皆が口々に文句を言う。

「例のアンノウンね、報道科の間じゃ[おりはるこん]って綽名がついているようよ」

 尾乃教官は語りながら、教官用の席で端末を操作し、先ほどのミッションデータを自身の携帯端末に転送する。

「セキュリティ会社には問い合わせているけど、不正なアクセスは検出されないそうよ。相手がよほどの手誰か、それとも契約会社を変えるべきか」

「何かしら対策とかは無いんですか?」

「対策ねぇ、システムを荒らしているわけでもないし、データを抜かれた形跡も無い、完全に愉快犯って所が厄介よね、そうなると本腰を入れて対策するほど予算が下りないのよ、あとこうも負けが続いていると上も変に意地張っちゃって、誰かが勝ち取らない限りは外部に公開もされないんじゃないかしら?」

 ウチのCクラスの敗北で、戦闘訓練を行っているクラスは軒並み全敗となった。これは確かに外部には発表出来ない。世間ではただでさえKRを用いた戦闘訓練なんて不要だの野蛮だのと叩かれているのに、さらに無能のレッテルを張られては廃校の危機だ。

「実技担当の松田教官は何て言ってるんですか?」

「[俺が訓練生の頃だったらあのくらい一人で撃退できてたぜ、お前ら案外期待外れだな]との事よ」

 この場に居ない小憎たらしい男性教官の口調をわざわざ真似て伝えてくる。尾乃教官の可愛らしい一面である。何処までもついて行きたくなる上官だなこの人は。

「それで今回は相手クラスの勝ちなんですか?」

「そこは平等にBクラスも失敗って事で今回は引き分けにしておくわ」

 教官の言葉に全員が胸をなでおろした。

ミッションの結果としてはこちらの全滅による失敗となった。しかしこちらも一応全滅前に相手のチームを全滅させて、クリア条件は満たしているのだ。そのくらいは恩赦を貰わないとやってられない。

「だから皆平等に追試と反省文ね」

「「「ええー!?」」」

 生徒達の悲鳴が上がった。

「一応敵部隊は倒したじゃないですか!」

「イレギュラーがあったのに結果だけを汲むなんて横暴!」

 収まらない生徒達に、教官は言い含めるように言葉を紡ぐ。

「先程連絡があってね、ここの上空付近でいくつかの隕石の接近を感知したそうよ、幸い大気圏で反応が消失したので燃え尽きたと考えられるけど、もし実際に超高高度降下ミッションをこの時行っていたら確実にイレギュラー状態になっていたでしょうね、何時いかなる時も[警戒を怠るな(ドゥノットネグレクケーション)]でしょ」

 教官の言葉に、何人かの良識ある生徒は口を噤んだ。しかし我らがCクラスはそのような優等生ばかりでは無い。噤まない我の強い生徒達は文句を止めなかった。

「ってかシミュレートじゃなくてさ、実機訓練ならハッカーとか乱入されねぇじゃン!」

「私一回軌道エレベータ登ってみたい」

「追試は実際に超高高度降下ミッションやりましょうよ!」

 そんなもはや論点のずれた生徒達の戯言を、教官はさらりと流す。

「はいはい、じゃ修学旅行の時にでも好きなだけ登らせてあげるから」

 そんな修学旅行は嫌だ。

「それもう旅行じゃない!」

「行事の尽くに訓練絡ませるのやめませんか!」

「せめて修学旅行は南の島とかが良い!」

 所々で生徒達の悲鳴が上がる。

「君達ねぇ、ここ殆ど赤道近いんだけどまだ南下が足りないの? はい、じゃパイロット達はこっちに集合、他は後でミーティング行うからその準備ね」

 教官に呼ばれて、俺は教卓の前へと移動する。他の3人のパイロット達と並んで、俺は気を付けの姿勢で待機する。

「はい、じゃ今日の模擬訓練の個別評価だけど」

 尾乃教官は勿体つけるように言葉を溜めた。

「じゃまずは1番機パイロット、空鷹(あきたか)

「はい!」

 一番右端に立つ、一際背の高い男子生徒、委員長が緊張した声を上げた。

「こんな協調性の無いチームのリーダーを任されて大変なのは判るけれど、立てた作戦に固執するのは良くないわね」

「はぁ……」

「チームの性格を考えればもっと素早く作戦の変更を指示するべき、もっと柔軟に作戦を変更出来る余裕が欲しいわね。貴方は自分を基準に考え過ぎているわ、もっとこのチームならではの戦略を組める様に成りなさい」

「は、はい……」

 なんと、この中では一番真面目に頑張った委員長がここまで辛口評価とは。

「続いて2番機パイロット、(メイ)

「はい」

 呼ばれて、右から二番目に立つ、褐色色の肌が健康的なスタイルの良い少女が声を発する。彼女こそうちのパイロット勢の紅一点、メイである。背の高い委員長に迫るモデルのような長身でそのうえ顔立ちも整っている。今は何やら不服そうな表情を浮かべてはいるが、教官に手厳しく言われるのが判っていたら誰だってこんな表情をするだろう。

「貴方の操縦技術や戦績、特に狙撃に関しては文句のつけようも無いわ、ただ味方の誤射はよろしくないわね」

「邪魔な障害があったから気にせず撃っただけだ、こんなの別に味方では無い」

 おおう、誤射しておいてなんたる物言い。

「良い? もしこれが本当の戦場なら、貴女の誤射で貴重な弾と、まだ十分に稼働出来た機体を失う事になるのよ、これが戦場に置いてどれほどの損失か分かるかしら?」

 いや教官、資源の大切さを問う前に味方を誤射しちゃダメって事を言及するべきでは?

「ハッ!? ……そうか、私とした事が、例え邪魔で目障りで、どうせそのうち墜落する役立たずのクズでも、いざという時には盾になり、予備武装代わりになり利用する手もあるという事ですか……教官、私が間違っていました」

 心入れ代えているように見えるけど、これ絶対反省はしていないよね。

「その通りよ、分かってくれて嬉しいわ」

 いや教官! 確かに線上に置いて物資は貴重だし、使える物は何でも使う精神は大切だけどさ。もっと他に、味方を誤射したらそのパイロット死ぬかもしれない的な説得はないのかい。

「さて、次は3番機パイロット、フレックス」

「おう!」

 呼ばれて俺の隣の、金髪の学生が威勢よく声を上げる。

「貴方は……そうね、とりあえず反省文ね、提出期限は今日中」

「うおおおお何で!?」

 隣の金髪、フレックスが悲痛な叫び声を上げる。いや、説明も何も理由なんか聞かなくても分かるだろ。

「とりあえずアンノウン戦に関しては撃墜はノーカウントにしてあげるけど、君はその前に落ちちゃってるから。後は作戦無視かしら、あれ一機で国家予算レベルの機材なんだから壊した反省文くらい書かせないと、ね?」

「いやでもシミュレーションじゃン!」

「そうね、アレが実践だったら下手したら死んでいたわね、そのことを考慮して戦死に関しての反省文は免除してあげる」

 妥当と言うか、むしろかなり温情を与えられた結果だと思うがな。なのに不満気なフレックスの態度の方がどうかしている。

「そして、4番機パイロット、はぁ……昴流」

 何ゆえ俺の名前で溜息を吐くのか。



[アルカの手記-008]


「おおスミスよ! 本編の隕石とやらだが我々の事を言っているのではないか!?」

〈さようですな、フン所詮は野蛮な地球の技術、我らの完璧な偽装に成す術も無くだまされたようですな〉

「しかし隕石に偽装するくらいならば、いっそまったく知覚させずに降下した方が良かったのではないか?」

〈むぅ、いやしかしですな。あれほどの数の機星をまったく知覚させずに地上に降ろすのは困難でございまして、さらに言えば計器類は誤魔化せても、地球人の肉眼まではごまかしようが無いのでして……ここはいっそ隕石と偽装した方が色々と便利なのであります〉

「まぁよい、つまりは無事我らの作戦が秘密裏に進んでいるという事だな」

〈さようでございますな、これは幸先がよろしいかと〉

「しかしこうして秘密裏に事を運んでいる以上、地球人である主人公と我の接点が実質皆無ではないか? このままでは我の出番が全くないぞ!」

〈ふむその心配はございませぬ、何せ姫様ですから恐らく何処かでボロを出して地球人に捕捉されると思っております、何より私姫様には隠密行動など到底不可能ですからな〉

「そう褒めんでも良いだろうに」

〈……褒めてはおりません〉


[続く]

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