9話 か弱い
「?」
僕の態度を不思議がるような顔でこちらを見ている猿渡さんに僕はどう返せば良いのか分からないけどとりあえず頭を上下に振らなきゃいけないような気がしてくるいや待て雨宮練ここで欲望に身を任せて良いのか良いんじゃね良いんじゃないかなだって反対意見の出しようがな――
「あ、そっか」
と、句読点が一切ない大変読みにくい文字の羅列を脳内で始めてしばらくした頃、猿渡さんが何かを閃いたように口を開く。
ここが漫画の中だったら、きっと頭上には電球が浮かんでいる事だろう。
「雨宮君、私がひ弱だと思ってない?」
「え?」
「男子高校生一人くらい膝枕したって、私の骨は折れないわよー?」
「いや、そんな、猿渡さんをひ弱だなんて、思うわけないじゃないですか!」
だから、その拗ねたような表情はやめて! 男子高校生が獣になっちゃうから!
「……ゴリラみたいな屈強女、だとでも?」
「そんな事も言ってませんし思ってませんよ!」
ただ、か弱い女性だとは思っていますがね!
……お? 今のこの一文、ちょっとイケテるんじゃないの雨宮練君?
そうと決まったら、レッツゴーだ!
「ただ、可愛い女性だとは思っていますがね!」
「えっ」
「えっ」
……。
「あっ」
噛んだ。
……馬鹿か僕はッ!
なんでそこを噛むの!
「いやっ、今のは、そのっ、『か弱い』を噛んだだけですからしてっ、その!」
大体『か弱い』って誉め言葉なの!?
なんでさっきからミスをミスでコーティングしてるの僕は!
その場の勢いに乗って行動した結果は必ずバッドな展開、って事を身を持って味わったね僕は今!
「……」
「……」
「「……」」
痛い。沈黙が痛い。
なんでこんな時に限って起きないんだよ荒谷は。カモン、ムードメーカー!
「……あの、なんか、すんません」
終わった。
ジエンド。
ピリオド。
フィナーレ。
後、どんな言葉があったっけ。
まぁ良いか。
「……いや、大丈夫大丈夫。お姉さんは言い間違いくらいじゃ動揺しないからね」
思いきり動揺してましたよね、とは言わないでおく。
「でも、ありがとうね?」
「え?」
ありがとう?
何で? あ、今日はもしかして4月1日だったりするのか? いや、始めて【うずまき】に来たのは3月じゃないから全然違うか。
「か弱い、とは思ってくれてるんでしょえ」
「あ、はい」
「いや、アイツがあんなんだから、そう言って貰えると嬉しくてね」
ぴしっ、と指が向く先は爆睡男。
「だから、お世辞でもありがとうね」
「いえっ、お世辞じゃな「っあー! よっく寝たー!」」
永遠に眠ってろ!
と思わず怒鳴りたくなるタイミングで、荒谷が目を覚ました。