49話 原点回帰
「洗い物が溜まっちゃっててね、人手が欲しかったんだよ」
そんな言葉を背景にして、僕はただひたすらに皿を洗う洗う洗う洗う洗う洗う。
花婿修業第一弾は、想像の斜め下を行くものだった。
いや、大事だってことは分かるんですよえぇ。でも、なんか意外だった。
「それが終わったら、野菜も洗ってもらえる?」
「やたら洗う日ですね今日は」
洗濯もお願い、とか、私から足を洗って、とか、アイツの過去を洗って、とかもそのうち言われちゃうんだろうか。いや無い。
「って言うか、ここの野菜って洗う必要あるんですか?」
願えば出てくる、なんて代物に、汚れや農薬の心配は果たして必要なんだろうか。
「うーん、気分?」
無かった。
……まぁ、猿渡さんの為なら例え火仕事水仕事。脳を洗うのもやってやんよ(比喩的な意味で)!
「それに、【うずまき】支店なんて作ったら、絶対に必要な作業でしょ?」
物理的な意味でも洗ってやんよ、今の俺……じゃなくて僕にならなんだってできる気がするんだぜ!
「はーい、お待たせー」
かたんっ、と皆々の目の前に置かれる、食事が置かれたお盆。
そのメニューは、と言えば、
「あら。唐揚げ定食ですか」
米、味噌汁、唐揚げ、キャベツ。
とても分かりやすい、唐揚げ定食の品々達。
新参者の僕ですら、見るのは二度目な唐揚げ定食。
そう。
僕が初めて【うずまき】に来たあの時が、一度目の邂逅だったんだ。
なぜだか、もうとても懐かしい。
「「「「いただきます」」」」
ぱんっ、と鳴らされる手。
そしてすぐさま口に運ばれる食事達。
「……」
歯を突き立てて衣を突き破れば、中から溢れ出すは熱々の肉汁。
うっかりしていれば火傷すらしそうな熱さだが、それも含めて、
「美味しい」
口の中に物がある、なんて状況で言葉を発するのはマナー的にはよからぬことだけど、思わず口をついて出た場合はきっとセーフだよね? ね?
僕は、いつかこうなれるのだろうか?
誰かを感動させられるような、美味しい定食を出す店の店員に。
「店主、じゃなくて、店員、なんだな」
現さんって、決して心を読めるわけじゃないんだよね? ね?
「? なに話してんだ。トロトロしてんなら唐揚げ貰っちまうぞ」
「渡すかぁ! 折角の唐揚げを荒谷なぞに渡すかぁ!」
なれるのだろうか。
こんな風に、客の舌を駆り立てるような定食を出す店の店員に。
いや、なる。
ならなくちゃいけないんだ。
じゃないと、養えない。
だから。
まずは。
「お前の唐揚げをも奪ってやる!」
マナー違反な客を、注意するところから始めよう。




