47話 「祈ってますよ」
「ここが偽りの世界だからって、幸せな偽りを捨ててまで、あそこに戻りたくはない」
そうだった。
「もう、あんな思いはしたくない」
僕みたいに、うっかりで【うずまき】に来たわけじゃないだろう。
「あんな思いをするくらいなら、私はずっとこの世界に居る」
荒谷みたいに、今は生きることを望んでいると言うわけでもないだろう。
当然、死にたくないのにここに来た人もいるだろう。
なのに、僕は無理矢理、連れていこうと――
「なら、そろそろお昼ご飯にでもしませんか?」
「え?」
呆気に取られたように――実際に取られたんだろうけど――、猿渡さんは腕時計を確認して、
「……私には、雨宮君の思考回路がどう繋がっているのかが分からないんだけど」
頭の心配をするかのような視線を僕に向けてきた。
そう言う視線も興奮す、っていやいやいやいやいやいやいやいやいやいや。
「猿渡さんがまだここにいるなら、【うずまき】支店計画は延期にしますよ」
計画、なんて大層なものじゃないけど。
「嫌がる猿渡さんを無理矢理、とかは嫌なので」
無理矢理帰還させる、なんてどうやるのかは知らないけれど。
「猿渡さんが乗り気になるまで、または死ぬまで、僕は待ち続けますよ」
安楽死、とか家族が実行したりしないと良いなぁ。
あれ、今の日本に安楽死制度ってあるんだっけ? 無いんだっけ?
「だから、まずは腹を膨らませないといけないかなぁ、って思ったんです」
腹が減っては戦はできぬ。
戦をするつもりは毛頭無いんだけどね。
「いつか、猿渡さんの気が変わることを祈ってますよ」
そんなことは、ありえないのかもしれない。
こんなことは、僕の幻想なのかもしれない。
だとしても、諦めない。
だとしても、挫けない。
「……いつか、変わるのかなぁ」
「僕が先に戻って、甲斐性を身に付けておく手もありますよ?」
「生死の境に現地妻、なんて珍しいわね」
「そんなつもりはありませんよ!? 僕は猿渡さん一筋ですよ!?」
いつかの、その日のために。




