35話 「アリスです」
いや、一度落ち着こう。
猿渡さんのことも早く解決したいけれど、まずは目の前のことだ。
だから。
「へ? へ? へ?」
がっしり。
アリスの両肩に手を置いた状態のまま僕はアリスに語る。
「短い間だったけど、アリスと居れて楽しかった」
「あのっ、手っ、」
「ロリコンの気持ちが少しだけ理解できたような気もするよ!」
生死の境でなんちゅうものに理解を示しているんだ、って気もするけどそこは気にしないでおく。
「……行かないでくれ、とかは言わないんですね」
と、複雑そうな顔を浮かべるアリス。
まぁ、ロリコン云々は流石に気持ち悪かったかな。でも事実だし。
でも、僕は猿渡さんを好きだ。
「僕だって、いつまでここに居れるかは分からないし、アリスだって生きる方が幸せでしょ?」
「ま、まぁ、はい」
「なら、無理に引き留めない。向こうでまた会う約束をする、とかの方がよっぽど良いじゃないか」
アリスがどこに住んでいるのか、とかは分からないから、どう約束したものかと言う気もするんだけどね。
「そうですね」
ふっ、とアリスは薄く笑う。
大人びた表情で、薄く笑う。
「だから、いつか暇な時にでも遊びに来てよ」
そして、僕はアリスに自分の住んでいる町の名前を耳打ちする。
「多分、暇そうにブラブラしてるのが僕だと思うから、さ」
こくん、と頷くアリス。
「で、雨宮練は急いでいたようでしたが、どうしたんですか」
「……どうしても、やらなきゃいけないことがあってね」
「こーんなにもなにもない場所で、ですか」
他になにもなくても、あるものはある。
だから、行かなくちゃ。
「うん」
「……それじゃあ、行ってらっしゃいです」
「ありがとう――」
その前に、一度だけ。
「――スミレちゃん」
「アリスです!」
僕の顔を見て、今の僕の呼び方が冗談だと判ったアリスは。
微笑みながら、そう言った。




