32話 「もう間違いたくねぇんだよ」
毎回、サブタイトルはその回で初登場のキャラの名前orその回に出てくる言葉となっています。
今までは、セリフから抜き出した言葉でも括弧をつけていませんでした。
ですが、今回からは括弧が付きます。
勿論、気まぐれなんかではありません。
「オマエは、クオンの何を知ってるんだ?」
僕が【うずまき】を出て、荒谷が追ってきた。で、荒谷が開口一番に言ったのがこんな台詞だ。
僕が、猿渡さんの何を知っているか、だって?
そりゃあ――
「――あれ?」
猿渡さんは【うずまき】の店長で、今の僕の衣服の本来の持ち主で、僕よりも前から荒谷やアリスちゃんや現さんの知り合いで。
で?
僕は、何を知っているんだ?
何も知らない。
猿渡さんだって、ここに居るんだから、本当は生死の境をさまようような状態のハズだ。
それなのに、僕はその理由を知らない。
確かに軽々しく聞けることじゃない――アリスちゃんは僕に軽々しく聞いてきたっけ――けれども、だからって、それでも、聞くチャンスはあったじゃないか。
それなのに、僕は知らないんだ。
「……その様子だと、本当に何も知らないみてぇだな」
「本当に、って?」
「『実は色々知ってるけど、荒谷に教えたくないから知らないフリしよー♪』とか言い出すかと思ってな」
「……もしもなにか知ってたら、そう言う反応を示すんだろうけどね」
「だろうな」
瞬時。
「がっ!?」
荒谷の右手が、僕の腹を的確に抉るように殴る。
「俺ですら、クオンを深く知っているワケじゃねぇんだ」
一応手加減をしていてくれたのか、咳き込むだけでどうにか助かる。
「それなのに、クオンを俺より知らない奴が想いを告げるのか?」
でも、目尻に涙は浮かぶ。
「軽い一目惚れで、深く考えたりもしないで想いを告げるのか?」
その涙をぬぐいもしないで、僕は荒谷に視線を向ける。
「その後の、クオンや周りへの影響も考えず想いを告げるのか?」
そんな荒谷の、怒りの表情を。
「色恋沙汰が周囲を壊すことも知らないで、想いを告げるのか?」
そんな荒谷の、幾分か悲しみが混じった表情を。
「……『音楽性の違い』って言葉で解散するバンドで、実際に音楽性の違いで解散するのが何割だと思う?」
「へ?」
いきなり、何の話だ?
「金やら恋愛やら、音楽性と関係がないことで解散してるモンなんだよ『音楽性の違い』っつーのはな」
「だから、な――」
「俺が【うずまき】にいる理由、クオンから聞いてただろ? 覚えていない、とかほざいたらまた殴るぞ」
荒谷雅也が【うずまき】にいる理由。
売れないバンドマン。
人生で躓いて、首を吊って。
失敗した。
だから、ここにいる。
「だから、もう間違いたくねぇんだよ」




