2話 猿渡久遠
「…………………………………………………………………………………………は?」
沈黙していた。
たっぷり34回も三点リーダを使って沈黙していた。
ねぇ知ってる? 三点リーダは二人一組じゃないと使えないから、ぼっちじゃ駄目なんだゾ☆
とか何とか、意味もなく豆知識を披露してしまう程度には現実逃避していた。
「さっきも聞いたのに、そんなに驚けるなんて凄いわね」
はぁ、と右手を頬に当てて左手で右肘を覆いながら溜め息。
分かりやすく、呆れられていた。
「そんな摩訶不思議空間でもないと、こんな景色の説明もできないでしょう?」
旅行で来たのならさぞ気持ちいいであろう青と白と青のオンパレード。
確かに、普通の商店街からこんな場所にワープするのは摩訶不思議なパワーでもないと難しいだろう。
つーか、普通なら無理。
「そんな摩訶不思議空間でもないと、唐揚げ定食を数秒で出せないでしょう?」
「うっそ、あれも摩訶不思議パワーの産物なの!?」
じゃあ、あの美味唐揚げも実物じゃなくて虚像なの!?
そんな馬鹿な!
「あぁ、安心して? 味は本物だから!」
「上手い事言ってやったぜ、みたいなドヤ顔やめて!」
割烹着に三角巾、その下には黒髪ショートカット。
あまり色気があるとは言いがたい格好だけど、割烹着を盛り上げる双丘は中々の物。普乳、と言った所だろうか。
そして、表情豊かな、笑顔の眩しいその顔。
こんな状況でもなければナンパしてみたい――いや、したことないけど――美人さんだ。
で、今のドヤ顔である。
少しくらいドキッとしたって、許されるハズだ。
「って、あれ」
と、ここで重大な事に気付いてしまった僕は十代。健全な男子高校生。略してDK。
「ここ、生死の境だとかなんだとか言ってましたよね」
「えぇ」
じゃあ。
「俺、今瀕死なの?」