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19話 現実

「……あらわみのる

 ボソッ、と。

 あまりよろしくない滑舌で、僕の後ろ髪を引く(物理)男性はそう言った。

「【うずまき】、の、客、だ」

 そして。

「だから、お願い、だから、早く、【うずまき】、に……」

 と言い残し、ガクッと倒れた。

「えぇー……」

 初めて、目の前で人の気絶を見たような気がする。

 こんな事になると、逃げ出すのも寝覚めが悪そうだし。

「まぁ、海だし、引っ張るだけでどうにかなるだろうなぁ」

 なんて呟きながら、ボートの縁に手を置き、引き。

「……」

 直前の発言を、取り消したくなった。


 しばらく、いや、かなりして。

「あら実、何日ぶりかしらねー?」

「一週間、くらい、です、かね……」

「いつもの事だし、何か食べたいんでしょう? チキンサンドならすぐ用意できるけど、どうする?」

「下さい!」

 どうにか【うずまき】に到達していた僕は、濡れた服を店先で絞っていた。

 それでも、猿渡さんと現さん(一応敬称)の話は聞こえてくる。

「はい、おまたせ」

「いただきます!」

 そして、現さんが猿渡さん作のチキンサンドにがっつく音も。

「幾ら死なないからって、絶食ダイエットなんて良くないのよ?」

「そうは、言って、も、この、体、動き、辛くて」

「大体、ここでダイエットしても現実の体にはなんら影響しないし」

「えっ」

 なるほど。どうやら、次はそう言う人の登場らしい。

「でも、空腹、は、最高、の、スパイス、と、言います、し」

「限度、って言葉があるでしょう?」

「それほど、まで、に、【うずまき】、の、食事、は、美味しい、ですし」

「それでも」

「……」

 そこまで食に対する執念を持った人が【うずまき】に来るんだ?

 食べ歩きは体が資本。

 体調管理には気を使いそうだから、三十路過ぎに見える現さんが死にかけるにはまだ早いんじゃ?

 まさか、事件!?

「それにしても、現実で餓死しかけた人がよく絶食ダイエットなんてできるわね?」

「? 不思議、ですか?」

「普通なら『現実では食えないから、ここで位は食べまくってやる!』とかになるんじゃない?」

「ここ、に、普通、が、通じる、んですか?」

「それもそうね」

「納得しちゃうんだ!?」

 あまりの驚きに、ついついガバッと振り返りながら叫んでしまう。

「あ、今なら風呂も空いてるだろうから、体冷やさない内に入ってね?」

「さっき、は、ありがとう、ございました」

 が、まるで気にしていないかのような二人。

 猿渡さんが僕をここからどかす為に風呂事情を教えた、とかじゃないと信じよううんそうだそんなんじゃない。

「分かりましたー」

「……、」

 猿渡さんの親切(断定)を受け、僕は絞っていた服を持ちながら風呂場へ向かった。

 僕の去り際に、現さんが僕を見ていた意味にも気付かずに。

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