【序章】 運命の序曲 #1
荒涼とした大地を歩んでいた、男が。
その者、深海を思わせる蒼い瞳に、異形とされる薄紫の髪を持つ。
肩口で適当に切りそろえた髪に、世間から身を隠す色である黒を基調とした上下の服。
嵐のときには自身の身を守り、暑い砂漠では陽を遮る役割を果たす漆黒のマント。
目深に被ったフードからは、時折意志を込めた瞳を覗かせる。
彼の名は、ディアス・オリヴァ・エヴァンシェル。
『風の疾風ディアス』と言えば、その界隈では知らぬものが居ないほどの人物である。
風にように翔け、疾風の如く、相手を刺す。
一流の剣の使い手ではあるが、誰もその素性は知らない。
なぜならば、素性を探ろうとした者はことごとく排除され、真相は闇に包まれてしまうからだ。
今では、誰もがそれを恐れて近づかない。
そう、彼は孤独なのだ。
いや、孤独こそが相棒なのだ。
故郷もなく、親も兄弟も家族も、友も居ない。
仲間と呼べる存在もない。
いわば、天涯孤独。
それが、『風の疾風ディアス』だ。
ディアス・オリヴァ・エヴァンシェル。
フードの下から真見える顔立ちには、若干の幼さが残るが、その瞳は狂気に満ちている。
彼が何処に行き、何を求めて旅を続けるのか。
それは、誰も知らない。
【第一章へ続く】