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プロローグ

【主な登場人物】

三宮皇さんのみやこう…本作の主人公。日本で暮らす男の子。当時は七歳。

・スメラギ…コウから見たら異世界である、神皇国で暮らす男の子。癒しの神子。当時は七歳。

・ヒサメ…神皇国で暮らす女の子。人間ではなく、夜叉という妖怪。当時は十四歳。

「誰か助けて…。」


 泣きじゃくる子ども。七歳の男の子は白い着物を着て、暗い部屋の隅で膝を抱えていた。その建物は和風の豪邸で、棚やら調度品も全て昔の時代劇に登場するような見た目だ。


「スメラギ殿!」


 少女の声がする。部屋の外で少年を探す足音が響く。少年はますます怯えたように耳を塞いで、頭を振りながら呟く。


「嫌だ。来ないで。スメラギって誰?パパとママはどこ?」


 少年が震えていると、誰かが少年を発見して屈みこんだ。小さな身体に不釣り合いな太刀を佩いた少女だ。真っ白な長髪に、吊り上がった赤い目は、十四歳にしては怖い印象をもたらしていた。


「スメラギ殿、ここにいたのか。戻ろう。ここは冷える。」


 少年は少女をキッと睨みつけた。


「僕はスメラギなんて名前じゃない。三宮(さんのみや)(こう)だ。おうちに帰してよ!」


 少年は大声で泣き喚いた。少女は戸惑って辺りを見渡す。


「パパとママに会いたいよぅ…。」


 少女の表情に憂いがよぎる。大声を聞きつけた人々が部屋に入ってきた。全員着物を着ている。一番上の立場である中年の女性が安堵の表情を浮かべて言った。


「嗚呼、ご無事でしたか。心配したのですよ。駄目ではありませんか。『癒しの神子(みこ)』ともあろうお方が黙っていなくなっては。」


「僕は違うってば!」


 人々は呆れたように顔を見合わせる。


「スメラギ様、心中はお察し致しますが、いつまでもそのように駄々をこねないでくださいませ。御身の安全のためです。」


 少年は女性の手を払い除けた。


「うるさい!この人攫い!」

「まあ、スメラギ様!」


 取り押さえようとする人々を相手に少年は抗っていたが、子どもの体格では相手にならなかった。


「放して!僕はスメラギでも神子でもない!パパとママに会いに行くんだ!」


 少女が人々を制すると、少年の目の前に屈んだ。少年は改めて少女を見て、その赤い瞳に目を奪われた。


「スメラギ殿ではなく、サンノミヤコウという人物だと言ったな?」

「そうだよ。東小学校一年一組、三宮皇。」


 少女の後ろで人々がひそひそと噂しているが、少女は無視して少年を見つめている。


「ヒガシショ…?住んでいた村の名か?」

「え?小学校だよ?あまり行っていなかったけど。」

「ヒサメ様、スメラギ様は錯乱しておいでなのでしょう。お部屋にお連れした方が…。」

「嘘じゃない!きっとそのスメラギっていう人にたまたま似ているだけで…。」


 女性はやれやれというように白々しい笑みを浮かべた。子どもが突拍子もないことを言った時の表情だ。


「まあ、スメラギ様。皆の目の前で急にお倒れになったかと思うと我々を見て叫ばれて、別人だなんて無理がありますよ。ほんの数刻前までスメラギ様としてご公務に励まれておいででしたのに。」


 少年が目を見開いた。


「そんな…だって僕は本当に…。さっきまでおうちにいて、布団に入って眠っていただけなのに…。」


 少年の呼吸が荒くなる。頭に手を当てて呻いている。少女が少年の身体を抱き締めた。ゆっくりと背中を擦り、優しい声色で囁く。


「大丈夫、信じるよ、コウ。」


 少女の言葉を聞き、少年の黒くて大きな瞳が潤んだ。張り詰めていた緊張の糸が緩み、感情が溢れ出した少年は、大声で泣きだした。


「辛かったね。もう大丈夫だ、コウ。」


 背中に伝わる温もりが心地良くて、少年は少女に頭を撫でられるままにその身を委ねていた。

【コウとスメラギの日記】

神皇国にある日記より一部抜粋

11月2日 コウ

スメラギくん、もしこの日記を読んだらお返事を書いてくれませんか?ぼくはコウと言います。多分ぼくがきみになっているとき、きみがぼくになっていると思います。

11月3日 スメラギ

コウさん、初めまして!スメラギです。やっぱり、ぼくたち逆になっていたんだね。びっくりしたよ。

11月10日 コウ

どうしてこうなったのか分からないよ。スメラギくんは何か知ってる?

11月11日 スメラギ

分からない。でも、その日何があったのか伝えるために、毎日日記を書いておこうよ。

11月16日 コウ

そうだね。日本でも日記を書いておいたよ。つくえの上にあるから、読んでね。これからよろしくね。

11月17日 スメラギ

日記読んだよ。これからよろしくね、コウくん。

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