行方不明と箱 その2
助けが来たという状況については三人とも理解できたらしい。
あとは出るだけ。
一番外側の壁のそれぞれの辺の中央は怪しかった。トレーニングボックスだったらそんな所から入るのに。
「この辺、向こうより道が狭くない?」
と、コハクさんが言ったのが気になった。
「ってことは」
ビーズを巨大化させ操り、机を押すくらいの強さで当てると、目の前の壁が若干、凹んだ。
ここら辺の壁は動かせそうだ。何かそのためのものがありそう――と、探ると。
「あ、あそこ!」
頭上に、模様に見せかけた微妙な黒いスイッチらしきものを見付けた。
そこへツツラさんがメガホンを操り向かわせ、縮小させた小穴の方の一端で押し上げた。すると「カチッ」と音が。
壁が動いた。そして開いた所に、ペットボックスのように、扉模様の姿が。
「よし」
ツツラさんがそう言ってから率先。手で触れる。僕らの目の前からツツラさんが消えた。出られたんだ、きっとそうだ。
そんな訳で、いつもの箱と同じ手順を踏む。
やっぱり出ることができた。
そこはなぜか外。
ケメスさんの家から見て右手にある家との垣根の向こうだった。
そして傍に、なぜか、黒い布で雁字搦めになった男の姿があった。彼は暴れもしない。彼の視線は、まるで何にも正確に注がれてはいない。焦点が合っていない?
「誰だ、誰かそこにいるな! ティジーじゃない! 誰だ!」
――やっぱりだ、見えてない。ティジーというのは、まあ、近所の人の名前?
そう言った彼は、拘束パーカーに包まれ、無力化済みの姿でさえある。
正直驚きだけど、まずは念のためにベレスと目を合わせた。それからマジな顔をベレスだけに見せるように気を付けてから無言を決め込んだ。で、足元を見てみた。床は明るいベージュの木の板。隣家の庭の彩りのその上にいて隣人とケメスさんの気配に集中したかったけど、靴の底が妙にザラついていた。――そこには幾つかのビーズが散らばっていた、青や黄色、赤、白のものも。
「やれやれ、捕まえることはできたようだな。誰の手柄かな」とはティグニスさんが。
「うちのチームですね」
僕はティグニスさんにそう言って、それ以上は言わないことにした。
するとティグニスさんが「ふむ」と前置きして――
「ケメスさん、なんでこんなことをしたんだ」
「あいつらが、アルヴィーをいじめたから」
「アルヴィー?」と僕が訊くとコハクさんが――
「被害者がいじめていた子の名前がアルヴィー。もしかして……息子さんの想い人ですか? ジェヴィリンくんから言われて?」
と。その問いを受け、ケメスさんの首が縦に動いた。
そこで、ティグニスさんの声が。
「動機について調べて知りましたが、数名で彼女をいじめて、いなくなれば、慰める自分がコーディくんの気を引けるだとかで――」
「なるほど、じゃあ」僕は理解を示すためという意味も含めて。「それを知って、アルヴィーのことが好きなジェヴィリンくんが相談して――」
「だからってこんなやり方、誰も望んでない」リミィさんがそう言った。
「…………すみません」
ケメスさんは終始暴れもしない。捕まることに抵抗感はないみたいだ。
ふむ……というタイミングで、なぜか、箱から、シウさん、ジリアン、レケ、ケナ、あと僕が名前を忘れた警察官、その計五人が箱の中から出て来た。仕様としてはペットボックスから出るのと同じように、小さかったのが大きくなった様子で順番に――
「あれ?」と僕が言うと、シウさんが。
「こっちの家に逃げようとされたから捕まえようとしたけど一瞬で」
「俺もだ」とはレケが。
なるほど……強制力はとんでもないのか……。だからこその、入れ込まれてしまうことを見込んでの依頼だったのか。
まあいい。さて。
解放された子たちは、
「ごめんなさい」
と。なんでされたかの自覚はしたらしい。
ジェヴィリンくんの父親ケメスさんは、手を汚した。これは本来よくない。……もしかしたら、彼女らの親は、話しても解ってくれなかった? だとしてもよくはない。
とはいえ、される側の気持ちが解ったのならと、僕は彼女らの方を見て、安心の溜め息を吐いた。
そこで、ティグニスさんが言った。
「一応は解決ですね。あとはあの子たちが、ほかの子ともちゃんと向き合うこと」
「ですね」
僕がそう言ってからは、僕らの仕事は終わりだ。ただ、あのビーズ。あれは、そういう事だ。
合同チームとしては、そのまま全員で帰ることになった。帰りには、色んな任務の話を聞けた。
こうやって助けられる、穏やかでいられる事件が多い方がいい――そんなことも話した。
……あとから、直接問い合わせて、あの署の人から電話で聞いたが――いじめた側がキッチリと指導を受け、『今後そんなことはさせない』と、あの子らの通う学校の校長が約束させたらしいと知った。ジェヴィリンくんの父親も、『あれも強引過ぎてよくないから、誰かに相談するように』と指導を受けたとか。それへの監査みたいなことを、関わった警察はやったらしい。
これで何とかなるだろう……そうだといい。
それにしても。
小学生の息子を持つ親が犯人だったとはなぁ……。
今回の件が心のどこかに、変に残ったりしなきゃいいけど。
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「ジェヴィリン」
「……何?」
小学校への通学路。
ボクは、アルヴィーの隣を歩きながら、言葉を待った。何の話をするの? そう思って――
そうしたら、アルヴィーは、小さな声で……でも、少し前よりは張った声で、話し始めた。
「あの人たちが、アタシに、もう何もしなくなったの。ジェヴィリンのお父さんがあんなコトをしたから、みんな、ジェヴィリンやジェヴィリンのお父さんを怖がってるかも……とは思うけど。でもね、アタシ……あんなコトをもうしないなら……アタシには、それが……ジェヴィリンとジェヴィリンのお父さんのことが、ちょっとダメだけど、嬉しくて」
「それなら、よかった……って、そんなコト言っちゃダメかもしれないけど」
そう言ってから、ボクは言葉を探した。だって、うまく言いたかったから。今度こそ。
「ボクは、アルヴィーが元気なら、そのためなら……いやあんなコトはしないけど、でも、守るよ。ごめんね、ボクなんかがこんなコト言っても――」
「ううん」
アルヴィーは首を横に振って、ボクを見た。
「だって、アタシが好きなの、コーディくんじゃなかったし」
「そ、そうなんだ」
「コーディくんから話し掛けられて、それからあんな事になっただけで――」
「ふ、ふうん……」
いつか言おうと思う。正式に。気持ちをちゃんと。今はまだ、ドキドキしちゃうのも、何だか好き。もう少しはこのままでもいいかなって思うんだ。




