084 行方不明と箱
新しい任務に就いた。今回は対人任務だ。
ディヴィエナ州の西部。
空港で、お出迎えの警察官から声を掛けられるまでの間に、ジリアンが「あ、この近く――」と話し始めた。僕はその声に耳を澄ませた。
「リンクゲートを設置する予定があった所の近くだよ、この辺」
「え、そうなの?」一番に反応したのはケナ。「なんでスピルウッド州のあの……あそこだけになったんだっけ」
「そりゃ一か所だけでいいだろうから」とレケが言うと、
「あ。そっか」とケナ。
「シミーズ市のティングスヘイス区のやつは成功したけど、危険視されて壊されたリンクゲートが、確か……セントリバー州にあるんだよね?」
ジリアンがそう言って、それに対して、
「ええ、合ってますよ」
とベレスが答え合わせをした。
「へえ、それは初耳」僕は本当にそうだった。
「ティングスヘイス区の、あの崖のは、二回目のやつなんだよね」とはジリアン。「そこで地球と繋がった」
「予定があったってのは……」と僕が聞くと。
「二回目で成功したからね、ここでは取り止めたの」
「ふうん」
ジリアンに言われて、なるほどねぇ――なんて思いながら、誰かが来たのが視界の端に映った。そっちを見る。男性と女性。制服姿。男性の方が口を動かした。
「ジオガードの『月下の水』のチームですか?」
「はい」と僕が言うと。
「ティグニス・ロニエです」と男性。
「クルメラ・ヨピテといいます」と女性。
「では案内します」
そう言ったティグニスさんが、狙撃手袋そのものを操り、巨大化させた。彼は、手で輪を作るのと同じようなジェスチャーをその巨大手袋にさせると、その輪をゲート化。その繋がった先へと「どうぞ」と促された。
サードゴタイン市リワーティー区のとある住宅街の端。そばには工場もある。田んぼや川が近い。
こんな所で事件が――と思いながら、任務の内容を思い出した。
『箱に人を閉じ込めているらしき誘拐犯を特定したが、捕まえる過程で閉じ込められたらまずいので、人員を確保するためと万一のために、二チームの協力をお願いします。(合同任務:残り一チーム)』
内容が書かれた書類は、今はベレスのMサイズ容量拡大バッグの中。確かそんな任務だったな――と思いながら、その現場へと閑静な所を歩いていく。そこで気になった。
「どうして確定できたんですか? その、犯人だ――って」
「カメラに映ってました」クルメラさんの返事。「最後は共通して同じ男と一緒にいた」
「どんな風に映ってたの?」とはケナが。
「学校帰りの小学生と、近所の男の人、という感じで。普通に話している感じでしたけど、でもそこが、被害者の警戒心を緩めたんでしょうね」同じくクルメラさんが言った。
「箱に入る瞬間もですか? カメラに?」と僕が訊くと。
「いえ、それは、隠れて目撃した者の証言で知りました。怪しいと思って追跡した人の証言に、男が少女を箱に入れたというのがありまして」
ティグニスさんがそう言って、現代的な一軒家のインターホンを鳴らした。そこへ入った。
「お疲れ様です、わざわざ」
お越しくださって、という事だろう。そして多分、そう言った女性は、恐らく警察の者でもない。
そこでティグニスさんの声が。
「このお宅にはご協力いただいてます。現場はこの近くなんで。先に来ていたチームとは、ここで打ち合わせを」
そこへ、先に来ていたという面々が現れた。……どこかで。というか――
「あ! リミィさん!」
「ユズト。久しぶり」
チーム『星見る仙女』。試験の時にいたツツラ・プエンタガイスさん、コハク・ヘイマーバイスさん、シウ・ボジウロさん、それにリミィ・アーガーさん。……へえ、この四人が今回、合同任務で協力する人たちだったんだなぁ。
ツツラさんは試験の時にも貫禄があるなと思った、五十代くらいの女性で、髪は黒に近い赤紫。ガタイがいい。
コハクさんはジリアンより少し年上かなぁという感じ――で、長い黒髪。
シウさんは、茶髪で……三十歳くらいかな。背はそんなに高くない。
リミィさんは金髪……コハクさんと同じくらいの年齢だろう、世話になってきたけど、そういえばあまり歳を意識したことはなかったな。
――横にデカいのはツツラさんだけで、みんなスタイルいいな。まあ僕は……
と、コハルさんを思い浮かべたその時、ツツラさんから声が。
「もしもの事を考えて、突撃する者を全方向に配置する。念のため待機する者も全方向に配置する。オーケー?」
「オーケー」返事をレケが率先。
問題の家を双眼鏡で見させられた。普通の、屋根の赤い一軒家。
チーム『星見る仙女』とチーム『月下の水』、警察の二人とで、自己紹介を改めてしたら、そのあとで会議。一階と二階を全方向からということで――
「ケナ、クルメラ、ジリアン、シウは一階。とりあえず、こっちにいて」
ツツラさんが言うと、一旦その四人が部屋の隅――廊下がすぐの所へ。ツツラさんは続ける。
「ティグニス、ベレス、リミィの三人は二階」
彼らも部屋の隅へ、ただしキッチンのそば。ツツラさんはキッチンの方を指差すと――
「あなた達は二階から一階へ行く。各方向から順に制圧、一階へ追い込む」
と。次に、ツツラさんの手が反対の隅の方へ向くと――
「男、ケメスが外に逃げたら――それが一階と二階のどちらからであっても、あなた達が対処」
「了解」と、言われた方の隅の皆が口々に。
部屋の中央にはツツラさんとコハクさんと僕とレケ。ツツラさんはレケに目を向けると、
「レケは上から全方位を。屋根の上からね」その目が今度は僕に。「私とコハクとユズトは一階から中へ」
「はい」
ツツラさんは、キッチン近くじゃない方の隅にまた視線をやると。
「シウは中の様子を耳で確認。私が報告を受けてから合図を出す。じゃあ行くわよ」
そして問題のあの家に、言った通りの位置で待機したら、シウさんが――
「二階から男の声」
と。そう言ったのを、ツツラさんも被っていた犬の耳の付いたようなニット帽から垂れ下がるイヤホンから耳にした。コハクさんも聞いた。この合図はもう片方の班にも。直後、この――狼耳ニット帽は、無へと消えた。
だからこそ、二階と一階の突撃班が、ゲートを繋ぎ、中へと。
僕とツツラさんとコハクさんは一階からとにかく見て回った。
どうやら犯人の男――ケメスさんというのは、まだ二階にいる。
階段を上がった。
なぜか静かだ。
ツツラさんとコハクさんが右の部屋から奥へ向かった。僕はすぐ左の部屋へ。
そこは書斎のような所。
棚の裏、机の下も確認したが、ケメスさんはいない。だから通路に戻った。
さっきから音が無さすぎる。おかしい。ティグニスさんもリミィさんもどこにいるのか、ベレスもだ。争う音もない。コハクさん、ツツラさんとも戦闘が行なわれていない……?
廊下を歩いた先でT字になった通路を左に曲がって、誰かが通っていそうな半開きの扉を見付けた。そこの前へ。入るのは慎重に。
入ってから見た奥の壁に、縦に大きな――指先から肘くらいまでの長さのある、幅はそこまでない穴ができているのが目に入った。コハクさんの巨大化させた櫛による穴っぽい。ケメスさんがいたのか。
二階奥を折り返すように右側へ向かう扉があったので、そこへと、警戒しながら進む。と、横に人の姿が。
――!
ゾッとした瞬間ビーズを呼び出し巨大化させ放った。だがなぜか、僕は見知らぬ空間に移動していた――!
――どこだ、ここ。よく解らない場所に……強制的に瞬間移動させられた?
天井があって空も見えない。地面はコンクリートよりも硬そう。隔絶されている? 白い空間。まるでトレーニングボックスの中? 仕様としてはそういうのに近そうだ。床には魔法のゲームとかにありがちな陣が。だからここに……。
しかも、今、僕の目の前には五人の姿がある。ティグニスさん、ツツラさん、コハクさん、ベレス、リミィさん。全員が一つの魔法陣の中にいる。強制移動させる地点としては固定位置なのか……?
そんな状況で、ツツラさんから声が。
「念じた相手を仮想空間に入れ込む礎術のようね。ペットボックスのような」
「厄介だ」ティグニスさんの声。「出る方法が解らない」
「とりあえず探索を」
ベレスが最後にそう言った。
互いにあまり離れないようにして歩き回った。
そのおかげで大体の構造が解った。ロの字に通路があり、要所要所に扉があって中庭みたいな場所に出られる。そしてその中央に――
「何だ?」
人に似た形の何かがある。人の背丈ほどのシロヨツミミイタチの人形――のような怪物。布製の。それが襲い掛かって来そうで、来ない。
たまに追い駆け回してくる。攻撃はしてこない。
ロの字の通路にも見掛けた。中庭だけにいるのでもないらしいけど、どういう意味が?
たまに、人形は、井戸端会議のようなものを、この空間の中央付近でしている――まあ、声を出してはいないけど。……何なんだ?
人形が人形を攻撃することの方があった。された人形が苦しみ泣く動作をしたことも。そして仲直りをしたような動作まで。
「なんであんなのが」
と僕が言うと、ティグニスさんが――
「説教のつもりなのかも」
「説教?」つい僕が。「ええと……ケメスさんが教え説くために入れておいたってことですか?」
「かも」とはティグニスさんが。「この状況を用意しておいてから、あの子たちを入れた」
「そうか、だから」ツツラさんが納得した。「いや、これ、いじめが関わってそうなのよ、だからだったのね」
いじめと聞いて最低な気分になった。なんでそんなことをしようとしたのか。それを聞きたくなった。
「そもそもの原因は?」
その返事はコハクさんが。
「いわゆる、気を引きたい女子の、邪魔者排除ね、被害者の少女たちはみんなそれに関わってた。ひとりはそのリーダー」
「いやもう……ホント嫌だそういうの」つい溜め息を吐いてしまう。「魅力で勝負すればいいだろと」
「ホント」とはコハクさんが。「まあとにかく、今は――ここを出ることね」
「ですね」
出ようとして、怪しい所を探る。
そんな時だ、中庭エリアの角に小さくある家から、人が出て来た。
「あの子たちだ!」
とは、ティグニスさんが。彼は何やら人数を確認した。三人。それで全部なのか安心したっぽい顔をした。




