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ディバイン・インキュベーター1946~東京天魔揺籃記~  作者: 月見里清流
第四章 呪われた力の行く末
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15-7 Crime(米軍)――立川

挿絵(By みてみん)


『戦う理由は見つかったか?』

『――はい』

『宜しい。良く戻って来た』


 真っ昼間、私は立ち尽くす。

 天際(てんさい)より日光が燦々と降り注ぐ立川基地『神聖同盟』日本支部。重厚な扉を潜った先、私は直立不動のまま隊長に、皆に帰隊の報告をした。

 窓から日の差し込む明るい執務室を恐る恐る見渡せば――、皆一様に何かを悟ったような楚々とした表情(かお)をしている。きっと事情を全部知っているのだろうが、誰一人眉を顰めていない。

『――ご迷惑をおかけしました』

『気にするなウラベ。人に迷いは付きものだ。……それにたった1日だ。私だったら1週間は戻ってこないだろう』

『おいおい、そんなに時間が掛かるのかよ、バーナード?』

 バーナードの意外なフォローにマイクが片眉を釣り上げた。

『人間、不条理や不合理にぶち当たったら、自分の感情や頭の整理に存外時間が掛かるものだ。実際私も同盟に入る前は()()()()()からな』

 言葉の重みは過去の傷跡――。

 皆が察するように微かな苦笑いを浮かべている。

『まぁ、私だったら1週間どころか二度と戻ってこねぇな。腹が立ったらもう義理もないぜ』

『クラウディアならビーフステーキをご馳走すれば、すぐに戻ってくるでしょう?』

『なッ――! デービッド! そりゃどういう意味だ!?』

『言い過ぎよデービッド。私だったらホールケーキ2つで良いわ』

『やれやれ――、「食い物で吊られ易いのが弱点」とレフチェンコに報告すれば良かったかな?』

『まったく……、全員冗談はそこまでにしておけ』

 ――何も変わらない、日常。

 現実は残酷さを裏地にしている。

 差別、占領、暴力、怪異。

 それでも、皆、気丈に明るく現実(いま)を生きている。

 私も()()にいるのだ。

 ただ、気に掛かる()()()

『あの男は――』

 その問いに、クラウディアが椅子に踏ん反り返りながら、歪んだ笑みを浮かべた。

『安心しな。右膝の骨折だったが死んでねぇ。バーナードが包帯と枝で固定した後に、きっちり()()してやったぜ』

『……女性を暴行後逃走した犯人は、運悪く転んで右足下部を()()()()()。その勢いで地面にあった大きな岩(クラウディアの拳)に激しくぶつかり、さらに顔面骨骨折。脚より顔の方が原因で長期入院は確定だそうだ。MP(憲兵)の取り調べも病院で行うことになった』

 淡々と補足説明するバーナードを見つめながら、デービッドが分かりやすく口角を大きく下げた。

『全然()()してないじゃないですか、クラウディア』

「『いいんだよ! あんな()()()はあれくらいしても! お陰で清々したけどな!』」


 ――ふ、ふふ、ははは。

 腹の底から笑いがこみ上げてきた。

 満面の笑みで語る彼女の武勇に、疑義を挟む余地はない。因果応報、男の自業自得に溜飲が下がった。

 やはり皆、志は同じだったのだ。

 私ばかりが悩み、現実を受け入れられなかっただけ。皆、現実(占領下の日本)が過酷でも、人の道を外れずに必死に生きていたのだ。クラウディアの笑顔とデービッドの呆れ顔を見て、私は一人得心した。

『ウラベ、何ニヤニヤしてんだよ? 何かおかしいか?』

『――いえ、笑ってませんよ。クラウディアが元気で嬉しかっただけです』

『はは――、ウラベも言うじゃないですか。煩悶してた側に言われたら世話ありませんね』

 デービッドのささやかな受け流しに、クラウディアが恥ずかしそうに頭を掻いた。

『まぁ、その……、なんだ。何があったかは聞かねぇけど……、良く戻って来たな。ウラベも元気ならそれ以上言うことはねぇな』

『ふふっ――、お帰り、ウラベ』

 キャサリンの幼げな微笑みに、いつもの仏頂面で返すのは余りに失礼だ。今までにないくらい満面の笑みで。


「『――ただいま』」


 僅かばかりの放浪を誰も咎めもしない。

 あの神社へ足を運んだのは偶然か必然か――、今となっては重要じゃない。たとえ誰かに操られていたとしても、私は後悔していない。


 ヒノエ――守るべき者が増えたから。

 日本支部――守るべき場所も増えたから。

 現実は残酷でも、変えるには力が足りなくても、守りたい者を守ることに何の躊躇(ためら)いがあろうか。

 また、ここから歩き出すんだ。

 邪眼とともに、見通せぬ未来を見据えて――。

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