15-7 Crime(米軍)――立川
『戦う理由は見つかったか?』
『――はい』
『宜しい。良く戻って来た』
真っ昼間、私は立ち尽くす。
天際より日光が燦々と降り注ぐ立川基地『神聖同盟』日本支部。重厚な扉を潜った先、私は直立不動のまま隊長に、皆に帰隊の報告をした。
窓から日の差し込む明るい執務室を恐る恐る見渡せば――、皆一様に何かを悟ったような楚々とした表情をしている。きっと事情を全部知っているのだろうが、誰一人眉を顰めていない。
『――ご迷惑をおかけしました』
『気にするなウラベ。人に迷いは付きものだ。……それにたった1日だ。私だったら1週間は戻ってこないだろう』
『おいおい、そんなに時間が掛かるのかよ、バーナード?』
バーナードの意外なフォローにマイクが片眉を釣り上げた。
『人間、不条理や不合理にぶち当たったら、自分の感情や頭の整理に存外時間が掛かるものだ。実際私も同盟に入る前は色々あったからな』
言葉の重みは過去の傷跡――。
皆が察するように微かな苦笑いを浮かべている。
『まぁ、私だったら1週間どころか二度と戻ってこねぇな。腹が立ったらもう義理もないぜ』
『クラウディアならビーフステーキをご馳走すれば、すぐに戻ってくるでしょう?』
『なッ――! デービッド! そりゃどういう意味だ!?』
『言い過ぎよデービッド。私だったらホールケーキ2つで良いわ』
『やれやれ――、「食い物で吊られ易いのが弱点」とレフチェンコに報告すれば良かったかな?』
『まったく……、全員冗談はそこまでにしておけ』
――何も変わらない、日常。
現実は残酷さを裏地にしている。
差別、占領、暴力、怪異。
それでも、皆、気丈に明るく現実を生きている。
私もここにいるのだ。
ただ、気に掛かるあの事。
『あの男は――』
その問いに、クラウディアが椅子に踏ん反り返りながら、歪んだ笑みを浮かべた。
『安心しな。右膝の骨折だったが死んでねぇ。バーナードが包帯と枝で固定した後に、きっちり介助してやったぜ』
『……女性を暴行後逃走した犯人は、運悪く転んで右足下部を派手に骨折。その勢いで地面にあった大きな岩に激しくぶつかり、さらに顔面骨骨折。脚より顔の方が原因で長期入院は確定だそうだ。MPの取り調べも病院で行うことになった』
淡々と補足説明するバーナードを見つめながら、デービッドが分かりやすく口角を大きく下げた。
『全然介助してないじゃないですか、クラウディア』
「『いいんだよ! あんな女の敵はあれくらいしても! お陰で清々したけどな!』」
――ふ、ふふ、ははは。
腹の底から笑いがこみ上げてきた。
満面の笑みで語る彼女の武勇に、疑義を挟む余地はない。因果応報、男の自業自得に溜飲が下がった。
やはり皆、志は同じだったのだ。
私ばかりが悩み、現実を受け入れられなかっただけ。皆、現実が過酷でも、人の道を外れずに必死に生きていたのだ。クラウディアの笑顔とデービッドの呆れ顔を見て、私は一人得心した。
『ウラベ、何ニヤニヤしてんだよ? 何かおかしいか?』
『――いえ、笑ってませんよ。クラウディアが元気で嬉しかっただけです』
『はは――、ウラベも言うじゃないですか。煩悶してた側に言われたら世話ありませんね』
デービッドのささやかな受け流しに、クラウディアが恥ずかしそうに頭を掻いた。
『まぁ、その……、なんだ。何があったかは聞かねぇけど……、良く戻って来たな。ウラベも元気ならそれ以上言うことはねぇな』
『ふふっ――、お帰り、ウラベ』
キャサリンの幼げな微笑みに、いつもの仏頂面で返すのは余りに失礼だ。今までにないくらい満面の笑みで。
「『――ただいま』」
僅かばかりの放浪を誰も咎めもしない。
あの神社へ足を運んだのは偶然か必然か――、今となっては重要じゃない。たとえ誰かに操られていたとしても、私は後悔していない。
ヒノエ――守るべき者が増えたから。
日本支部――守るべき場所も増えたから。
現実は残酷でも、変えるには力が足りなくても、守りたい者を守ることに何の躊躇いがあろうか。
また、ここから歩き出すんだ。
邪眼とともに、見通せぬ未来を見据えて――。




