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美しい花には毒がある。当然でしょ、そんなこと  作者: 悠木 源基


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第75章 父親達の反省会(ロンバード子爵視点)


 愛する妻が生きていた。

 この世のあらゆるものに感謝した。

 本当は失われたこの八年分を今すぐ取り戻したい衝動に駆られた。

 しかし、私は過去の清算をしなければいけない。それをせずに新しい家族は構築できない。


 もっとも、当然ながら八年前の家族にはもう戻れない。

 私の力不足でシャーロットは怠け者で平気で人を利用するような娘になってしまい、今は修道院で鍛え直してもらっている。


 息子のフィリップは友人達の助力のおかげで、道を踏み違えずに済み、過去を反省して前向きに頑張っている。後継者としてももう問題はないだろう。

 後は良き妻を得るだけだが、私に似ているので女性には苦労しているようだ。

 今手伝いにきてくれているスレッタ嬢に気があるのはバレバレだが、彼女には恋人がいるので無理だ。

 彼女のような素晴らしい女性が娘になってくれたら、これほど嬉しいことはなかったのだが、こればかりは仕方がない。

 

 そのスレッタ嬢と彼女の恋人である、侯爵家の執事であるカイル卿。彼らの結婚披露宴を我が家でやると聞いた時、最初その意味がわからなかった。

 なぜ、うちでやるのか? フィリップが可哀想じゃないかと。

 しかし、むしろフィリップのためにもやるのだと妻は言った。思いが大きくなり過ぎる前に諦めさせた方がいいと。

 拗らせると後が大変だから。それは貴方が一番知っているでしょう?と言われてしまった。

 マデリーンや職場の部下の女性のことを言っているのだとわかった。


 それに


「ディアナがね、二人には幸せな結婚をして欲しいと心から願っているのよ。大切なお友達だから」


 そう言われたら反対できなかった。

 本来あの愛らしくて聡明な娘は、多くの友人に囲まれて楽しい日々を送っていたことだろう。

 それなのに、私はあの子を閉じ込めてしまった。いや、外へはむしろ他のご令嬢より自由に動き回れただろうが、それは偽りの姿としてだ。

 友人を作れたとしても、身分を誤魔化したままでは後ろめたさがあって、心から信じられる交友関係は築けなかっただろう。

 そんな彼女に寄り添い、秘密を知りつつ真の友人関係になってくれた、そんな彼らの幸せを願うのは当然だ。

 私も改めて感謝の気持ちで一杯になった。


 新郎新婦はすでに母親を亡くしていると聞いた。それなら自分達が彼らの親代わりを務めよう、そんな気持ちにもなった。

 だからこそ、私は彼らの父親との交渉役を買って出て、ルシアン卿と共にジルスチュアート侯爵家へ向かったのだ。正直これは大変勇気のいることだった。


 例の裁判があるため、普段は領地にいる彼らが王都の屋敷に滞在していた。

 ルシアン卿の父親のジルスチュアート侯爵と、カイル卿の父親で家令のワーナード男爵、スレッタ嬢の父親で侯爵家の護衛隊長のモラネス男爵。

 彼ら三人に頭を下げられ、私は正直戸惑った。私達の関係は複雑だった。

 元侯爵夫人によって妻を害され、家族を崩壊させられたわけだから、彼らは加害者側で私は被害者側だ。

 しかし、真の加害者は元侯爵とレイクス伯爵家で、巻き込まれた彼らも被害者だと言えるだろう。


 いつまでも気まずい時間を費やすのは無駄だと感じた私は、妻の言葉を借りてこう言った。


「罪は犯した者自身が背負うべきものです。

 いくら憎しみが消えないからと、その恨みをその本人以外へと向ければ、不幸の連鎖が永久に止まらないでしょう。それはまったく不合理で無駄の極みだ」


 と。

 すると彼らも頷き、これからは前向きに共に進んで行こうと誓い合ったのだが…...

 


「男親はこういう時になにもできなくて。

 子供達任せになっていましたが、もっと後押ししてやるべきでした。今それを悔やんでいます」


「娘心を分かってやれなくて、可哀想なことをしてしまいました。

 妻にあれほど娘の幸せを一番に考えて欲しいと頼まれていたのに、国や侯爵家に尽くすことがあの子の一番の幸せなんだと、勝手に思い込んでいました。

 本当にどうしようもない父親です」


「いや、そもそも私が不甲斐なかったせいだ。君達に負担をかけ過ぎて、家族と過ごす時間を奪ってしまったのだから。本当にすまなかった」


「いえ、私が一番悪いのです。二人に守られていることが当たり前に感じていて、二人の幸せを考えてやる余裕がなかったのですから。

 お二人にも申し訳なく思っています。すみませんでした」


「何を言うのですか。ルシアン様にはそんな事を考えている余裕ないほど多忙だったことくらい、百も承知です。

 人の何倍も責務を負っていたのですから」


「そうだ、お前はよく頑張ってきた。悪いのは自分の父親と妻を制御できなかったこの私だ」


 この反省会に自分も加わりたい気分になった。しかし、そうなると話が全く進まなくなる!ので、再び私は口を開いた。

 

「ワーナード男爵、モラネス男爵。結婚式の日取りと披露宴の場所の件ですが、この予定でよろしいでしょうか?

 その頃には大方の裁判も終わって、どうにか落ち着く頃だとは思うのですが」


 四人ははっとして私を見た。そして、三人の父親達は「よろしくお願いします」と頭を下げたのだった。




 そしてその翌日、私にとってはもっとも体験したくない日を迎えた。

 父親なら誰もが耳にしたくない台詞を聞かされるアレ(・・)だ。


「娘さんと結婚させて下さい」


 正直なところ嫌だと言いたいが、もしそれを言ったら、それこそ最愛の娘に嫌われて一生口をきいてもらえなくなるかもしれない。最悪家出されるかもしれない。

 どの父親も悩むところだろう。だからよほど問題のある相手でもない限り、嫌でも許さなければならない。

 そして残念ながら、私も反対する理由がない人物だから困っていたのだ。

 確かに因縁のある相手だが、それは本人のせいではない。それ故にそのことを理由にはできない。

 事実彼を嫌悪しているわけではない。なにせ本人は最高に素晴らしい男なのだから。


 そもそも彼が間に入ってくれていなかったら、私と息子は未だに娘とはまともな会話一つできずにいただろう。

 いや、家を出て行かれていたはずだ。半年前まではずっとそれを実行する気でいたというのだから。

 その話を聞かされた時は、ショックで目の前が真っ暗になったくらいだ。


 彼が誤解を解いてくれたからこそ、娘は私達に笑顔を見せてくれるようになったのだ。

 その上娘を何よりも大切に思ってくれている。そう。反対などできるわけがないのだ。

 頭では分かっていたのだ。ただ妻が戻り、ようやく家族とし再生しようとしていたのに、娘と別れなければならないのが辛かったのだ。


 ところがだ。

 婚約だけ認めてもらえれば、結婚は三年後で構わないと彼は言ってくれた。

 ディアナにはこれから学園に入学して、同年代の友人との楽しい思い出をたくさん作ってもらい。

 そして家族と幸せな時間を過ごして欲しいのだと。

 その提案に、私はありがたくて胸が一杯になった。

 このときに私は気付いたのだ。娘を一人失うのではなく、頼り甲斐のある素晴らしい息子をもう一人得られるのだと。


「娘をよろしく頼む」


 それ以上余計なことを言わず、私は二人の婚約を認めたのだった。



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