↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
美しい花には毒がある。当然でしょ、そんなこと  作者: 悠木 源基


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/78

第52章 いくつもの誤算


 元々、我が家の領地の管理をしてくれていたのは家令のワーナード男爵だった。

 祖父は国の重鎮として城勤めをしていたために祖母と王都暮らしをしていた。

 そのタウンハウスを任されていたのが、ワーナード男爵の嫡男、つまりカイルの父親だった。

 しかし、領主家族が領地を知らないのは問題なので、父と叔母は領地と王都を行き来しながら育ったのだ。

 

 しかし祖父が外遊に出てしばらく帰国できなくなくなったことで、父は結婚と同時に社交をするために王都に滞在するようになった。

 そして父がまだ若くて後継としての経験が不足しているということで、ワーナード卿が嫡男と入れ替わって王都に出てきたのだ。

 

 しかし、これは祖父にとっては誤算だったろう。なぜなら優秀かつ厳格な家令を祖父は苦手としていたからだ。

 それ故に二年に及ぶ外遊を終えて王都に戻ってきた祖父は、息子である父に領地経営を本格的に学ぶために領地へ行くように命じた。

 そうすれば家令も一緒に領地へ戻るだろう。ただし、息子の妻であるマデリーンは華やかな場所を好んでいるから、きっと王都に残るに違いないと。

 

 ところが、またもや祖父の目論見は外れた。

 ロンバード子爵がぱったりと社交界に現れなくなり、彼との接点が持てなくなったことで、母マデリーンは塞ぎ込むようになっていたのだ。

 まあ、周りにはその原因などはわからなかったので、気分転換になればと、領地行きを進め、彼女もそれに応じてしまったからだ。

 

 父は母を愛してはいなかったかもしれないが、妻として大切にしようとしていたし、良い夫婦になろうと努力していたと思う。

 しかし、夫婦は片方の努力だけでは上手くいかないのだ。

 母の父に対する思いは皆無だった。自分の運命の人はニコラス=ロンバード子爵と信じ切っていた。いや、恐ろしいことに今も狂信的に信じている。

 そしてそれが多くの人々を不幸に陥れた。そして母自身も。

 その後母が王都のタウンハウスに戻りさえしなければ、祖父の悍ましい罠に嵌まらなかっただろうに。

 

 これは想像でしかないが、祖父は母にこんなことを囁いたに違いない。

 

「君が私の言うことを聞くのなら、ロンバード子爵がもっと社交界に参加するように促してもいいよ」

 

 とでも。

 祖父はロンバード子爵夫妻の仲介者だったし、上層部との強い繋がりを持っていたから、実際にその力を使ったのだろう。

 ロンバード子爵はその後時折パーティーに参加するようになったのだから。

 だから私もディアナ嬢と出逢ったわけだが。

 そして私は十三の時に母親と祖父の関係を知り、そのショックで自室に引きこもった。

 執事のワーナード男爵(カイルの父親)と当時王立学園の学生だったカイルにはとても心配をかけてしまった。

 とじこもった理由を私は一切何も話さなかったからだ。

 そんな私を心配して、彼らは領地から家令の前ワーナード男爵を連れてきてくれた。

 亀の甲より年の功とはよく言ったもので、まるで魔法を掛けられたかのように、私はいつの間にか彼に自分の見たことの全てを話してしまった。

 

 そして私が領地へ行った後、祖父は爵位を父に譲り、母との関係も終わりにしたらしい。

 あの時母は私に見られたことに気付いていなかったようだが、祖父の方は気付いていたようで、いくら厚顔無恥の祖父でもさすがに居た堪れなくなったようだ。まして家令のワーナード卿に全てを知られてしまっては。

 

 

 祖父からは解放されたもの、母はその後もロンバード子爵との仲を相変わらず進展させることができなかった。

 兄であるレイクレス伯爵に頼んで魅了系の違法薬物を手に入れて、それを使って彼の妻を亡き者にしたにも関わらずだ。

 痺れを切らした母は、その不満を解消するために、彼に似た容姿の若い男性と屋敷の外で遊び回っていたようだ。

 

 しかしそんな中、私が王都に戻って来て学園に入学した際に、母はその式典で真実の愛の相手と瓜二つの生徒を見つけてしまった。

 もちろんそれはフィリップ=ロンバード子爵令息だった。

 

 幼い頃の彼のことは知っていただろうが、あまりにも父親にそっくりに成長したその姿を見て、母は絶句したらしい。

 そしてなんと彼女は、彼と自分の姪であるキンバリーを結婚させよう思い立った。そして彼の妹であるシャルロットと私まで。

 それは自分がニコラス=ロンバード子爵と昔のように親密な関係に戻りたい、ただその欲望のためだけだった。

 しかも、キンバリーがそんな母の計画にはすぐに乗ってしまったのだ。

 彼女は容姿だけでなく性格も資質も叔母である私の母と酷似していたたが、好みの男性のタイプも同じだったようだ。

 



 ロンバード子爵家の内情ばかり暴露させたのでは片手落ちだ。

 そう思ったから、私は我がジルスチュワート侯爵家とレイクレス伯爵家の闇を全て明らかにした。

 ロンバード子爵家の親子は驚嘆した。そして哀れみの目で私を見た。他人にそんな目で見つめられたら普通屈辱的だろうが、彼らにそうみられることは(やぶさ)かではなったから傷付くこともない。

 何せ正しく同病相憐れむ仲だったからだ。

 いや、加害者側の私からすれば、怒りではなく同情されるなんて申し訳ない、の一言なのだが。

 

 私達が無言で心通わせて見つめ合っていると、そこにクロフォード殿下がヌゥーッと顔を突っ込んできて、私達を左右に見やってからニヤッ!と笑ってこう言った。

 

「仲間外れにしないで、俺も交ぜてくれ」

 

「なにを言っているのですか! 仲間って何ですか!」

 

 私が殿下のふざけた台詞に驚いて声を上げると、ロンバード子爵親子もムッとした顔をしていた。

 マッケイン伯爵はやれやれと呆れた顔で彼の顔を見ていた。

 しかし、殿下は気にすることもなくこう言った。

 

「俺だってレイクレス伯爵家や違法薬の被害者だぞ。

 本来なら王太子のスペアなんて不安定な立場ではなくて、侯爵家の当主になっていたのだからな。

 愛するメラニーにも要らぬ苦労をさせることもなかったわけだし」

 

「あっ!」

 

 そうだったな。と今さらだが私はそのことを思い出した。

 正面を見ると、ロンバード子爵もその意味に気付いたようだ。さすが頭の回転が早い人だ。フィリップが気付かないのはまあ当然かもしれないが。

 

「まさか、マクロミル伯爵(元第一王子アルスト)が突然婚約を破棄なさったのは、魅了効果のある薬を使われたからだったのですか?」

 

 子爵の問に殿下は頷いた。

 

「俺達は愚かだった。兄が魅了系の薬物のせいでおかしくなっていたことに気付けなかったのだ。

 いや、違う。俺が認めたくなかったのだ。

 長兄は真面目で優しくて優秀で、俺達兄弟の憧れで理想だったから。

 兄の親友のカイル卿からは、これはただ恋に夢中になって我を忘れている、というのとは違うのではないか。

 怪しい術か薬でも使われたのではないかと指摘されていたのだ。

 しかし俺はその話に耳を傾けなかった。だから家族の誰にもその話をしなかった。

 どうせ誰も信じないと思った。我が国では麻薬や違法薬物を撲滅したと自負していたからだ。

 王都で麻薬患者が出たという話も聞かなかったから油断していたのだ。

 魅了魔法の方も使える者は絶滅したというのがすでに定説になっていたし。

 まさか魅了魔法もどきの違法薬物が出回っていたなんて、私達家族は誰も想像もしなかったのだ。

 

 だから単に婚約者のいる兄に擦り寄って誘惑したマクロミル伯爵令嬢を許せなくて、彼女に厳しく注意したのだ。

 するとそれに対して兄アルストが腹を立てて、マクロミル伯爵令嬢を擁護して、俺達家族と対立したのだ。

 真面目な人間ほど、何かに夢中になると我を忘れるというが、兄もそうなのだと思っていた。

 それでもやがて熱が下がれば冷静になって、自分の立場を思い出すだろうと思っていた。

 

 それなのに王立学園の卒業式で、兄はあの婚約破棄騒動を起こしたのだ。その時のショックは計り知れないほど大きかったよ。

 真実の愛を見つけたからと兄が満面の笑みで言った時に、ようやく俺は悟ったのだ。兄は正常じゃないって。

 でも公の場でやらかしてしまったのだから、すぐに処分しなければ王家の威信に関わる。

 まだ証拠が何一つないのに、違法薬物のせいじゃないかという疑問を口にすることはできなかった。いや、その時点でも俺はまだ半信半疑だったのだ。そして、そんな不確実なことで社会を混乱させるわけにはいかないと考えてしまった……

 カイル卿だけでなくルシアンにも、まず急いで薬物の検査をしろと言われたのに」

 

 その行動が遅かったせいで王家は、この国の輝かしい未来を作るはずだった優秀な未来の国王を失ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。