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美しい花には毒がある。当然でしょ、そんなこと  作者: 悠木 源基


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第21章 新たな決意

 

 今日の会合……? 談合? 話し合い? 情報交換? デート? 

 とりあえず二人でゆっくり話せたことはとても有意義だった。

 なぜ彼女がメイドの振りをしていたのかを含め、彼女の置かれた立場やロンバード子爵家の内情を把握できたからだ。

 その中でも最も大きな収穫は、母と従妹が纏っていたあの怪しい匂いを、ロンバード子爵夫人が亡くなった際にも纏っていたということだ。

 人工の香りが嫌いで自ら身に付けるはずがないにも関わらず。

 

 そしてもう一つはビクター=マッケイン伯爵が、ディアナ嬢の母親の事故当時のことを知っている、という情報を得たことだった。

 彼は第三騎士団長を務める優秀な方だ。

 クロフォードの方から協力を求めれば、おそらく手を貸してもらえるだろう。

 こちらの動きを伯父や母親に察知される前に証拠を押さえなければならない。

 

 それにしてもあれ程の方が手を引いたということは、もしかしたらロンバード子爵は本当に夫人の事故死には関係がしていない可能性が高いのではないか。

 友人だからといって犯罪を見逃すとは思えないから。まあ、物事は冷静に客観的に判断しなければならないが、ディアナ嬢のためにも関与していなければいいとつい考えてしまう。

 

 先日の家族のやり取りを見ていると、ディアナ嬢は家族に呆れて、すでに彼らを見放している感はあったが、憎んでいるようには思えなかったからだ。

 ただ兄に対してだけは、もう他人だと見なしていることを伺えたが。

 なぜなら彼女は自分の兄とキンバリーのことには関与しないと言ったからだ。 

 二人が両思いで本気なら、その邪魔はできませんからと。

 

「その結果が最悪の事態になるのがわかっていてもかい?」

 

 キンバリーの身内の私が言うのもなんだが、彼女はあまり褒められた女性ではない。それをディアナも、兄のフィリップも知らないだろうと思ったのだ。

 しかし、彼女らしくない冷めた目をして、ディアナはこう呟いたのだ。

 

「未来なんて誰にもわかりませんよね?

 それに無理に二人を別れさせても、きっと周りからは悲劇のカップルともてはやされて、自分達もそう思い込み、また他人に迷惑をかけるに決まっています。

 だから放置しておく方が一番だと思うのです」

  

「たしかにそうかもしれないね。だけど、ずいぶんと君は達観しているね。とてもまだ十五歳とは思えないよ」

 

 私がそう言うと、ディアナは少し青い顔をして焦ったように、

 

「また生意気なことを言ってしまいました。申し訳ありません」

 

 と謝ってきた。別に謝罪されることでもないし、彼女に悪い印象を持った訳でもない。

 まあ、兄に対して投げやりになる気持ちもなんとなく理解できたし。

 幼いころに出逢ったタンポポ頭の女の子がディアナだったということは、妹がいじめられていても、兄と姉は彼女を助けてやらなかったということなのだから。

 

 しかし、ディアナがどう思うとやはりあの二人は引き離すべきだったと、その後悔やむことになるとは、そのとき私は思いもしなかった。

 

 ✽

 

 

 ディアナの作ってくれた美味しいランチと、淹れたてのカモミールティーを飲んだ後、私達は今後何をすべきかを話し合った。

 

「君の母上の遺品というか、身の回りもので何か残っている物はあるかい?」

 

「はい。残っているというより、母の部屋は生前のままです。

 以前兄が早く片付けた方がいいと言ったことがあるのですが、普段兄には甘い父がそれを耳にしたときは、急に人が変わったように怒り出したのです。

 しかも、お前はなんて薄情な冷たい人間なのだと、兄を殴り付けて。それ以後母の部屋のことは誰も口にしなくなりました」

 

「そのエピソードを聞くと、父上は母上をかなり愛していたように思えるけれどね」

 

 私がそう言うと、ディアナはなんとも言えない顔をした。

 

「でも兄は、その部屋にはきっと人には知られたくない危ないものが隠されているんだろうと言っていました。

 兄も母の死に父が関与していたと疑っていたみたいです。

 自分の母親が父親に殺されたかもしれないと感じながらも、母の死を悲しむでもない兄の方に私は怒りを覚えると同時に、何か恐ろしさを感じました。

 まあそれはともかく、父は母の部屋に鍵をかけてしまったので、今も生前のままなのです」

 

「そうか、それは都合がいい。申し訳ないが、ご家族が留守のうちに捜査員が、その母上の部屋に忍び込むことを許可してもらえないだろうか。

 鍵をこじ開けずに中に侵入して調査し、誰にも気付かれないようにすると約束するから」

 

 私がこう言うと、そんなことができるのですかとディアナは目を丸くした。

 しかしすぐに冷静になってこう言った。

 

「私もぜひとも調べて頂きたいと思うのですが、すぐには無理だと思います。姉が屋敷にいるので」

 

 君の姉上は毎日のように習い事に行っていたのではないかと訊ねると、ディアナは首を横に振った。

 なんと、彼女は水曜日のダンスレッスン以外はみんな辞めてしまったのだという。

 その理由はディアナが付き添いを辞めてしまったからだという。

 

 付き添いがいなくなった途端シャーロットの出来が悪くなったら、これまでの彼女の評判が付き添いのメイドのおかげだったと思われてしまうから、というのがその理由らしい。

 まあ、実際その通りなのだろうが。

 今後はなんと、私の母の紹介で、マナー教師と淑女教師が屋敷に来るのだそうだ。そう、明日から。

 

 つまりは、家に誰もいなくなるのは来週の水曜日まで、あと一週間近く待たないといけないということだ。

 さすがにそれまでは待てない。なんとか手を打たなければと私が思ったとき、ディアナがこう言った。

 

「私が先に少し調べておきます」

 

「鍵がかかっているのだろう?」

 

「はい。でも、私は母の部屋のベランダへ出る掃き出し窓のスペアキーを持っていますから。母が亡くなる以前からそれを預かっていたのです。

 そもそも部屋というものは、閉めっぱなしだと埃が溜まり蜘蛛の巣も張り、色々と傷んでしまうのですよ。

 部屋には換気口があって密閉されているわけじゃないのですから。

 私が時々窓を開けて掃除しているからこそ、現状維持ができているのです。そのことに全く気付いていないのですから、本当に駄目な人ですよ、あそこの当主様は」

 

「君が出入りして掃除していることに父上は未だに気付いていないということか。 

 それなら君に頼んでも大丈夫かな。危険なことはさせたくないのだが」

  

「大丈夫ですよ。いくら忍び込んだことがバレたとしても、さすがに父も自分の娘を殺したりはしないでしょうし。

 でももし怪しいと思える物が見つかった場合は、どうやってそれをルシアン様にお渡ししたらよいのでしょうか?」

 

「ロンバード子爵家の周りには、気付かれないように見張りの騎士を配置しておくよ。

 何か合図を決めて、それを送ってくれたらすぐに受け取りに行くようにしよう。そのために合言葉も決めておこう」

 

 私がそう言うと、彼女はわかりましたと頷いたのだった。

 その後彼女と合図と合言葉を決め、来週の水曜日にまた逢おうと告げて別れたのだった。

 ディアナのことが心配で堪らないが、今はお互いが自分のすべきことをしなくてはならないと無理矢理自分に納得させたのだった。


読んで下さってありがとうございました。

更新遅くなりました。

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