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美しい花には毒がある。当然でしょ、そんなこと  作者: 悠木 源基


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第19章 天使様との再会(ディアナ視点)

  

 しばらく沈黙が続いた後で、徐にルシアンさまがこう言った。

 

「やっと見つけたよ、ミミズ好きのたんぽぽ姫……」

 

 その言葉に俯いていた私は勢いよく顔を上げた。すると、ルシアン様は私の頭をポンポンと優しく触れた。

 昔慕っていた少年が、いじめっ子を追い払った後、必ずそうしてくれたように。

 

「私は十三の時に大きな精神的ダメージを受けてね、療養するために急遽領地へ行くことになったんだ。

 後になって君にきちんとお別れの挨拶ができなかったと後悔したよ。名前も聞いていなかったし。

 その後元気になって、王立学園に入学するために王都に戻ってきてからは、君のことを探し回った。だけど見つからなかった。

 たんぽぽみたいで、ミミズ好きのご令嬢なんて珍しいだろう? すぐに見つかると思っていたからがっかりしたよ。

 まさか病弱設定にされて、表社会から消されていたなんて、そんなこと考えもしなかったよ。

 

 でもここで君を見たときから、髪の色やウェーブの感じは違うけど、似ているなあって気になっていたんだ。

 そしてその後一緒に過ごすようになって、不遇な目に遭っているのに、明るくて元気で逞しいところも、あの子に良く似ているなあと思っていた。

 彼女も今はこんな風に育っているのかなぁってね」

 

「やっぱりルシアン様が『カルミアのお兄様』だったのですね。初めて図書館でお見かけしたときにはから、雰囲気が似ているなぁって私もずっと思っていたんです。

 だから『カルミアの君』って名前をつけたんです。

 黒い髪に黒い瞳、そして優しい笑顔。それからとても物知りで。

 療養されるために王都から離れていたのですね。急に会えなくなったから、私、嫌われてしまったのかなって思っていたんです。

 だから、またこうしてお逢いできるなんて思ってもいませんでした」

 

 後になって私は知ったの。

 タンポホの花言葉が『別離』だって。綿毛は自由気ままにどこかへ飛んで行ってしまうから。

 でも実際のところ私はどこへも行けず、反対に大切に思う人の方がどこかへ飛んで行ってしまった。

 それは私の側になんかいたくなかったからだと思った。そう、お母様のように。

 

 でも、心の奥底ではずっと、『カルミアのお兄様』が、いつか私の存在を見付けてくれるのではないかと期待していた。

 だってカルミアの花言葉は『大きな希望』だったから。

 

 

 花言葉を知ってから少しだけ嫌いになっていたタンポポをまた好きになった。この前お茶会が終わった後で、私はレンネさんからタンポポの花言葉をもう一つ教わったからだ。

 それは『純真の愛』……

 もしかしたら、私の思いや願いは届かないのかもしれない。ただでさえ私達は因縁があり過ぎる関係だから。

 それでも私は、自分の心に素直になって、ずっとルシアン様を思い続けていこうと今日心に決めたのだった。

  


 私の前に座っていたはずのルシアン様は、いつの間にか私の横に座って私の髪を撫でてくれていた。

 子供のときの頭ポンポンも嬉しかったけれど、撫でられるのも嬉しい。

 

「ねぇ、ディアナ嬢、さっき最初は疑っていたと言ったよね。ということは今ではもう疑っていないということかな? 

 つまり、君の母上は単なる事故だったと」

 

 ルシアン様は話を軌道修正して、そう訊いてきた。だから私はこう答えた。

 

「はっきりしたことは何もわからないのです。ただ父と友人の会話を聞いて、父は母の死までは望んでいなかったのではないか、と思うようになったのです。

 実際のところ母が亡くなった後、父は酷く落ち込んでいたのです。仕事帰りに毎日浴びるようにお酒を飲んで帰ってきて泣いていました。

 そんな父を心配して、ある日友人の方が我が家にやって来たんです。

 そして、夜中にたまたま目を覚ましてしまったときに、偶然に二人の会話を聞いてしまったのです」

 

 私はその時の二人の会話の内容をルシアン様に語った。



「おい、しっかりしろよ。まだ子供達だって小さいんだから、いつまでも酒に逃げていたら駄目だろう。

 そもそもお前は亡くなった奥さんを嫌っていただろう。それなのになぜそんな風になっているんだよ。冷たくした後悔か?」

 

「そうだよ、後悔だ。俺があいつを殺してしまったようなものなんだから。

 あの日もあいつは体調が悪いからパーティーには参加したくないも言ったんだ。

 しかし、どうしても妻を連れて行かねばならない事情があった。

 だから強引に連れて行ったんだ。まさか階段から落ちるなんて思いもしなかった」

 

「事故だったんだ。誰のせいでもないさ。

 それにお前はジルスチュワー侯爵夫人を未だに好きなんだろう? 

 なら、政略結婚だった奥方が亡くなったからって、今さらそんなにショックを受けた振りをする必要はないじゃないか。これまでずっと夫人を邪険にしていたんだから。

 ただ単に、奥方の実家からの援助を受けられなくなるから困っているだけだろう? 

 だけどまあ良かったじゃないか。彼女が亡くなったのが借金を全て支払い終えた後でさ」

 

 友達なのにキツイことを言うわ、この人。子供心に私はそう思った。父を慰めるような振りをしながら、チクチクと痛いところを突いて。

 

「俺は、妻を愛していた。邪魔に思ったことなんて一度もない。

 俺は、周りの奴らに余計なことを言われないように、綺麗になれと言い続けていただけで、嫌っていたわけじゃない」

 

 父のこの言葉に私は本当に驚いた。あのきつい言葉が母のためだったなんて思いもしなかった。もう少し言い方を選べなかったのかしら。

 父の友人も驚いた顔をして父を見ていた。その父の友人が王城で騎士をしているビクター=マッケイン伯爵だと知ったのは、ずいぶん後になってからだった。

 その時私は、もしかしたら彼は母の事故死に疑問を抱いて、父に探りを入れるために来ていたのかもしれないと思った。

 そして最終的に父は関係ないと彼は判断したのだろうと。あの後もよく父を励ましにやって来てくれたのだから。

読んで下さってありがとうございました。

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