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美しい花には毒がある。当然でしょ、そんなこと  作者: 悠木 源基


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第12章 調査目的  


 し、信じられない!

 なぜこんなところにディアナがいるんだ!

 

 

 ロンバード子爵家を偵察しようと、図書館の前で辻馬車を捕まえた。

 本当は何を指し置いても真っ先にディアナを探したかった。しかし、絶対に断りたい婚約話を潰すために、私にはどうしてもしなければならないことがあった。

 目的地近くの目立たない場所に馬車を停め、御者に彼の一日分の稼ぎに相当するであろう金額を支払った。その同額を後で渡すからここで待っていて欲しいと告げると、御者は大喜びで頷いた。

 

 最初は農園の柵から少しだけ様子を見ようと思っていた。

 ところが柵はいたるところ壊れていて、勝手に入れ状態だった。

 もっともその土地の周りはぐるっと他家の建物に囲まれていたので、そもそも柵などなくても、かなり広い面積がロンバード子爵家の土地であろうことが一目瞭然だった。

 

 没落名門子爵家だという噂は、大袈裟ではなく本当のことらしい。王都の一等地にこんなに広大な土地を所有していたとは。

 まあそのほとんどが放置された農耕地や牧草地だったが。

 温室や納屋や動物の飼育小屋など、いくつか傷んだ建物が建っていた。

 そして、木々の向こうに青い屋根が見えた。あれが子爵家の屋敷なのだろう。

 あんな奥では屋敷の中を窺い知ることはできないが、少しだけでも入ってみるか。

 もし誰かに見つかったら、この家の息子の上司とでも言おう。

 この屋敷の長男とは学園時代の同級生だったが、今の自分はかなり年上の人間に変装しているから。

 

 そして畑と畑の間の畦道を歩いて行くと、こぢんまりとした野菜畑で草むしりをしてる女性の後ろ姿が見えた。

 そっと近付いてみると、まだ若いメイドのようだった。

 

「こちらはロンバード子爵様のお屋敷で間違いありませんか?」

 

「はい」

 

 私が声をかけると、その少女が返事をしながら振り向いた。

 私は瞠目して心臓が止まるかと思った。目の前で蹲っていたのは、メイド服のディアナだったからだ。

 

「どちら様ですか?」

 

 ディアナにそう尋ねられて、動揺した私はすぐには返答ができなかった。

 しかし彼女が不審な目で見てきたので、ようやく自分が変装していることを思い出した。

 彼女の状況がよくわからないうちは、自分の正体を曝さない方がいいだろう。瞬時にそう判断した私は、我が家の領地にいる執事の名前を名乗った。

 

 オスカー=ハーモンド。

 私の乳兄弟だ。まだ二十代半ばで頭が良くて仕事のできる男だ。そして人が良くて気さくなやつだ。

 そう。見かけも中身も今自分が変装している人物像とはまるで違うが。

 なぜなら、たしかにオスカーの名前は借りた。しかし、変装をする際に私がイメージとした人物は、王都の侯爵家の屋敷をまとめている、クールな執事の方だったからだ。

 その彼の名前はカイル=ワーナード。年は二十代後半で、頭脳明晰でいつも泰然自若としている人物だ。 

 

 私は、ジルスチュワー侯爵家の執事だと名乗り、出来うる限り誠実にディアナに接した。

 彼女がこのロンバード子爵家の人間のことを良く思っていないことは知っている。だから、誠意を持って話をすれば協力してくれるのではないか、と思ったのだ。 

 まあ自分のことをネタに、少しばかり脅しもしたので罪悪感で胸がかなり痛んだが。

 

「ジルスチュワー侯爵夫人と、レイクレス伯爵家のご令嬢のキンバリー様は、女郎蜘蛛のような方達でしてね、彼女達に一度でも接触したら二度と逃げられなくなるんですよ。

 例えばマクロミル伯爵様とか、こちらのロンバード子爵様のように」

 

 私の幼なじみで親友である第三王子のクロフォード、父、そして強力な協力者である執事のカイル=ワーナード。

 彼らにもまだ話していない、そんな極秘情報まで提供して、私は彼女の協力を求めた。

 

 マクロミル伯爵は、第三王子クロフォードの長兄で元王太子だ。

 真実の愛を貫いて婚約破棄をした後に王族から抜けて、伯爵家の婿養子になった残念王子と呼ばれている人物だ。

 しかし元々彼は才気煥発で、かなり優秀な人物だったのだ。恋をしたからといって、そう簡単に脳内お花畑になったとは、とても考えにくい。

 何かの罠に掛かったのではないかと、私は以前からそう思っていた。

 そして最近になって情報部から上がってきた報告書の中に、かなり気になる事項があったのだ。

 

 その報告書によると、気付かないうちに近頃、この国の中では違法魔法や違法麻薬などがじわじわと広まってきているというのだ。

 急いで調査を始めてみると、その違法魔法をかけられた者達の症状が、元王太子のかつての状態によく似ていることがわかったのだ。

 しかもその犯罪に関する人間のリストの中に、王太子と交流関係のあった、マクロミル伯爵家の元嫡男や、私の母であるジルスチュワー侯爵夫人、そして従妹のレイクレス伯爵家令嬢のキンバリーの名が出てきたのだ。

 

 元王太子のことを調べ直して、彼が何者かの罠にハマったのだと証明しても、今さら彼の立場を元に戻せるわけではない。

 だからそんな過去の案件をほじくり返すことを王家は望んではいないかもしれない。

 しかし、その真実が判明すれば、少しは彼の現在の状況は良くなるはずなのだ。

 彼がマクロミル伯爵家の嫡男を追い出したのではなく、むしろその嫡男に嵌められた被害者だとわかれば。

 

 そもそもあの伯爵家の嫡男は子供の頃から良い子の振りをして、陰で女の子や年下の子を虐めるような性根の腐ったやつだった。

 それに自分の容姿にやたらと自信を持っていた。だからおそらく、キンバリーにでも手を出して、却って利用されたのだろう。

 それらの事実を公にすれば、領民の元領主への見方も変わるに違いない。母と共にあの男の動向も並行して調べておかなければ。

 

 

 

 

 読んでくださってありがとうございます。

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