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転生少年機人剣闘活劇 コロシアム  作者: 戸塚 両一点
第八章 「一つの艦が出航し、水平線に消えるまで」
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第八十七話 エース部隊

 ハートマンは息苦しい艦内を嫌って、押し出されるようにして、疎らに対機装巨人用の機関魔砲が並んでいる甲板へ出た。


 すると、ドアを開けると同時に、海風が彼の頬を撫で、波の音が鼓膜を潤した。


 彼は、海が嫌いではなかった。その理由は彼自身にもよく分かっていない。海沿いの生まれだというのならまだ理解ができるのだが、彼の家の領地は湖もないほど山奥であった。


 もちろん、彼は、そこから転じて海への憧れが生まれたのかも知れないということも理屈としては分かっていた。とはいえ、こうして海軍に入らなかったところを見るとその線も薄いと彼は思うのだった。


 しかし、それでも海の青は彼の心をつかんで離そうとはしなかった。しばらく彼は機関魔砲の後ろで壁のようにそびえ立っているコンテナに寄りかかってジッとそれを眺めていた。


 ざっと十分ほどそうしていただろうか、そろそろ彼の心が満たされて、艦内の待機所に戻ろうかと思ったとき、彼は騒々しい声に晒された。


「……だからぁ、本当だって! 俺勲章持ちだぜ? 嘘吐くと思うか? この辺りの海にゃあ歌の上手い人魚がいるんだってば――オイ、聞いてんのかお前ら!?」


 取り巻きを後ろに従えて、大袈裟な身振り手振りを交えながら話すその大声の主を、ハートマンは嫌と言うほど知っていた。そしてどれだけ嫌と言っても気づいたら彼の周りにいるのがこの男であった。


「……マルセリア! 貴様何をほっつき歩いている!」


 ハートマンの怒鳴り声はその男、マルセリアにとっては敵襲の警報に等しかった。


 彼は天敵の姿を見つけるや否や、小さく悪態をついて、そそくさと逃げ出そうとしたが、そこはコンテナばかりで狭い甲板のこと、取り巻きが邪魔だったこともあり彼は逃げ切れなかった。


「しょ、少尉殿! そういえば少佐殿がお呼びだそうですが!?」


 逃げ切れず首根っこを掴まれた彼は、小耳に挟んだ情報で何とか窮地を脱そうと試みた――もちろん、それは成功しない。何故ならそれの情報源であった水兵はとっくにその役目を果たしたからだ。


「悪いが、それはもう済ませたところだ――全く、貴様は何をしている? 観光にでも来たつもりか?」


「あー……いえ、これはアレです。自分の隊の者と一緒に艦内がどうなっているのか一応……」


「この艦の者もなしにか? ……貴様らな、機装巨人要員はコンテナの待機所に控えていろという指示だっただろうが!」


 ハートマンは怒りに任せて手すりを殴りつけていた。その機装巨人の操縦桿に鍛え上げられた豪腕は、まるで針金のようにそれを外側へねじ曲げてしまった。


 それを見て恐ろしくなったのか、それまでどこか茶化すような格好をしていた取り巻きも水を打ったように静かになって、ばつが悪そうにハートマンから目をそらした。


 しかし、その威力を見てもなお、目線を真っ直ぐ自分の上官に向ける者がいた。


 ハンス・ヨアヒム・マルセリア、その人である。彼は憤りを言葉に染み込ませて言った。


「お言葉ですがね少尉殿、我々を取り囲む環境を見て下さい――海ですよ? そして我々は陸の人間だ。操る機装巨人にしたって、艦載機仕様のものは積んですらいないんです。なら待ってたって、どうしようもないでしょう」


 マルセリアという人間にはこういうところがあった。上官といえども、自分の考えとそぐわないのであれば、後先考えずにとにかく突っかかってしまうのだ。


 しかし、マルセリアが情の人ならば、ハートマンは理の人である。即座に言って返した。


「本国からの指令だってある。機体だって整備・点検中なのだ。操縦士の居場所がそうあれこれ変わっては困るのだよ」


「へぇ、整備! 点検! 一体何をどうやるって言うんです? この艦は機装巨人母艦でもないんでしょう? ルメンシスでも設備で困らされたっていうのに、コンテナだらけのここで、どうやるんです?」


「どこかに旧式にしてやられて被弾した奴がいたものだからな、本来なら必要のない整備のせいで、てんやわんやの大騒ぎのようだ」


 そうハートマンが皮肉を言うと、マルセリアは憤りを言葉だけでなく顔にも出さざるを得なくなった。


 ルメンシスで教官機と交戦した際、彼のシリーズ109は正面装甲に直撃弾をモロにもらった――逆に言えば、あの109は彼の機体だった。


 もちろん、それは貫通しなかったし、シリーズ109は魔導溶接による組み立て法とモノコック構造を採用していて、内部に危険な留め金がなく、そのためそれが飛び散ることもなかったのでパイロット共々大したダメージにはならなかった。


 しかしモノコック構造といえども被弾の衝撃が装甲を介して内部の機器に来るということに関しては従来機と変わりなく、つまり点検が必要となった――ハートマンはそのことを言ったのだ。


 マルセリアはここでいくつかの言い訳ができたはずだった。


 一つ目は、近距離の不期遭遇による戦いであったから、お互い避ける余裕がなかったこと。


 二つ目は、作戦の中で被弾したのは自分だけではなく、味方機のいずれもがどこかのタイミングで被弾していること。


 三つ目は――彼自身が、格闘戦を得意としており、かつ好んでいること。


 だが、彼はこれらを口にしなかった。


 何故なら、『ハートマンならば、確実に自分よりも上手くこなしていただろう』、と彼が心のどこかで考えていたからだ。


 それだけの腕前をハートマンが持っていることを、彼は知っている。


「ふん、今回お前が得るべき教訓は、『無駄なプライドは捨てろ』というところだな――生活でも、戦闘でも」


 マルセリアのその長い沈黙を敗北宣言と受け取って、ハートマンは艦内へ戻っていく。士官の彼には待機所ではなく船室が独自に設けられているのだ。


 するとマルセリアは、その背中へ吐き捨てるように言葉を投げつけた。


「『黒騎隊』に配属されたら、自由になれると聞いたんですがねぇ……!」


 ハートマンは丁度ドアを開けたところだった。だから彼はそのまま勢いで入って、マルセリアのその言葉を負け惜しみに変えた。


(……『黒騎隊』は陸軍の選りすぐり、しかも皇帝陛下直属の軍団だ。ならば、戦闘はもちろん規律の面でも、いやそこでこそ陸軍兵士全ての模範にならなければならないだろうに……あのようなただの戦闘狂が蔓延るようではまだまだだ)


 しかし、そうはしつつも心の中で返答を考えている辺り、ハートマンにはどこかクソ真面目の気があるようだった。

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