ー熟成の章 2- 責任というもの
なんか信長の採用基準がわかったようなわからないような気分だ。ひとつ言えることは、裏切らないやつが一番ってことか。まあ、俺も訓練はきついがただメシは喰わせてもらえるし、お給金も出るしで、裏切る予定はいまのところない。
まあ、織田家以上の待遇で迎えてくれるってところがあるなら、わからんでもない。俺は立身出世がしたいからな!
「彦助はすぐ考えていることが顔にでるんだぶひい。お前、今からそんなんだと、将来が心配でならないんだぶひい」
「俺の心を許可なく勝手に読むんじゃねえよ。立身出世は男の夢だろうが。俺がどこの大名に仕えようが勝手じゃねえか」
「あ、あの、前にも言いました、けど。彦助殿。他の大名家に行っても出世どころか、無給です、よ?」
ああ、そういえば、ひでよしは今川家の家臣に仕えたことがあるって言ってたっけ。
「でも、それは、お前が足軽として仕えたからだろ?俺は武将として採用されたいんだよ」
「彦助殿には、コネがあるん、ですか?飯村の出身なのに、コネとか持ってなさそうなん、ですが」
ああ、言われてみればそうだった。くっそ。何か抜け道がないのかよ。
「ん?彦助は出世したいんッスか?」
利家が言う。そういえば、利家。なんで、お前、ついてきてんだよ。
「お前たちは見てて飽きないから、もう少し、一緒にいようと思ったんッス。そんなことより、彦助は出世がしたいんッスか?」
「ああ、そうだ。1国1城の主になりたいんだよ」
「ううん。彦助、無理をするのはやめたほうが身のためッスよ。偉くなるってことは、それだけ責任が増すっていうことッス」
「責任が増すのは当たり前と言えば、当たり前じゃないのか?それが出世するってことなんだしよ」
利家がううんと唸っている。そんなに大変なことなのかな?
「平和時に身分が高いっていうのは、悠々自適な生活ができるから、問題は無いッス。でも、今は、世の中が乱れてるッス」
ふむふむと俺は利家の話を聞く。
「何言う、俺も50人長なんすけど、これは言ったことはなかったッスよね」
「そうなの?ただの信長の尻友達で、付き人だと思ってた」
「本当にこいつは失礼なやつッスね。確かに、俺は信長さまとは恋人の仲ッスけど、それだけじゃなくて、言っちゃ悪いが槍さばきには自信があるッス。それに、前田家の息子として産まれて、兵の動かし方も覚えたッスよ」
「意外とできるやつなんだな、利家って。歴史の教科書だと一文字も名前が出てこないのにな」
「歴史の教科書?そりゃ、まだ無名だから、そんな書籍には名は載ってないのは仕方ないッス。でも、行く行くは、歴史に名を残してやるッス」
まあ、確かに、高校で習ったときは日本史の教科書にはまともに名前が書かれてなかったが、加賀100万石の大名だと言うことくらいは、俺だって知っている。ただし、信長の恋人ってのは知らなかったけどな。
「話を戻すッス。責任が重くなるっていうのは、仕事のことだけじゃないッスよ。兵たちの面倒を見なきゃならなくなるッス」
「そりゃそうだ。そら、偉くなるもんな。それで兵を率いて、合戦に出るんだ。俺だって、指揮の仕方を学べば、それくらいできるに決まってるだろ」
「それはできるッスよ。学びさえすればッス。でもッスよ?彦助は兵たちに命令する立場になったときに、お前は部下に死ねっていう命令は、できるッスか?」
え?それってどういうことだよ。
「当然、戦をすれば、勝つこともあるし、負けることもあるッス。勝つときはいいんッスよ。負けたときは逃げなきゃならないッス」
「じゃあ、逃げるときに、自分が逃げるために部下を残していくってことかよ!」
「そうッス。兵を置いて逃げるッス。戦は将が倒されたら終わりッスからね。だから、部下には死んでも戦えと命令するッス。彦助、お前にはそれができる覚悟があるッスか?同じ釜のメシを喰ってきた仲間を見捨てることはできるッスか?」
俺は急に怖気が自分の身に襲い掛かってくるのを感じる。
「もし、彦助殿が出世して、私の上司になったときは、私を置いていって、いいん、ですよ?」
ひでよしが言う。
「何、言ってやがる、ひでよし。俺がそんなことをするわけがないだろ!」
「それができないのなら、彦助、お前は武将には向いてないッス。たとえ、親友である、ひでよしを戦場に置いていってでも、自分は生き残る選択をできないといけないッス」
俺が、ひでよしを見捨てる。この時代に飛ばされて、ひでよしに出会わなければ、3日と経たずに俺はのたれ死にしていただろう。それなのに、俺は大恩ある、ひでよしを見捨てる選択を迫られるってことなのか。
「彦助。もし、夢を諦められないようなら、覚悟はしておくッス。お前の夢のために大勢の兵が死ぬッス。お前は皆の死を背負って生きていくことになるッス」
俺は、俺は。
「彦助殿。もし私が彦助殿の上官となった場合、同じような境遇になれば、私は彦助殿を置いて、戦場から逃げます。彦助殿は私のために命をかけてくれ、ますか?」
何を言っていいのかわからない。俺は、そうなったとき、どうするのだろうか。




