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ー裸族の章 2- 銭湯に行こう その2

 俺たちはやっとのこさ、銭湯へたどりつく。そこには、何件かほかにも銭湯が並んでおり、信長のとこの訓練終わりの兵たちでごった返していた。


「おいおい、銭湯だらけじゃねえか、どこに入るんだ?」


「ここの【おおいお湯】屋なんだぶひい」


 なんかどっかで聞いたことあるぞ。人間のネーミングセンスは450年前でも、あまりかわらないのか?と疑問に思う。


「ここの銭湯はお湯がたっぷりなので、掛け湯し放題なのデス」


「え、掛け湯しほうだいって、浸かることはできないのか?」


「浸かり湯なんて、どこの大名なんだぶひい。お湯の掛け湯だけでもありがたれだぶひい」


「うへえ。冬とかつらそうだなあ」


「お金がないひとは、真冬の井戸水で水垢離みずこりなのデス。それに比べたら、信長さまの兵士は幸せものなのデス」


「真冬に水とか、なんの拷問だよ。ああ、ほんと、俺ってラッキーなんだなあ」


 あれっと俺はつい疑問に思う。


「なあ、合戦のときの鎧とか槍とかどうするわけ?俺、なにも持ってないんだけど」


「それは安心するのぶひい。信長さまが貸与してくれるだぶひい」


「信長は至れり尽くせりだなあ。支度金で買わされるのかと思ったぜ」


「武具はほしければ、信長さまから払い下げされることもあるんだぶひい。槍や刀はともかくとして、鎧は自分にあったものを欲しがるやつもいるんだぶひい」


「自分の防具を買って、体型や動きやすいように調整するひとが多いのデス。彦助ひこすけもお金が貯まったら払い下げ品も検討するのデス」


「お前ら2人も払い下げ品を使ってるのか?」


 2人は困り顔をする。


「なかなか出費がかさんでお金がたまらないもんだぶひい」


「右に同じなのデス。信長さま、お給金を増やしてほしいのデス」


「ふうん。意外と生きていくには金がかかるわけか、俺はしっかり貯金しないとな」


「貯まるといいんだぶひい」


「うまくいけばいいデスネ」


 田中と弥助やすけはニヤニヤしている。なんだ、そんなにこの世は貯金が難しいほど金がかかるのか?



 俺たちは【おおいお湯】の暖簾をくぐり、番台に5文(=500円)を渡す。積まれた籠を取り、俺たちはその中に着物と手荷物を入れ、すっぽんぽんになる。田中は風呂場に置かれた短い竹の竿と手ぬぐいと、なにかが入った袋を皆に配り始める。


「なあ、手ぬぐいはわかるんだけど、この竹の竿とこの袋はなんに使うんだ?」


「ああ、彦助ひこすけは町の銭湯は初めてだったんだぶひか。竹の竿は身体をこするものだぶひい。その袋の中は米ぬかが入っているんだぶひい。身体にぬると肌がぴかぴかになるんだぶひい」


 そういうと田中は風呂桶に張っているお湯を手桶で掬い、その中に米ぬかが入った袋を軽くつけ、それで身体をかるくなぞっていく。なぞられた部分がうっすらと灰色になり、その部分を竹竿の先端や、腹を使って手馴れた感じでこすっていく。


 俺も真似して、たどたどしい手つきで米ぬか入りの袋を身体に塗り付け、竹竿でこする。米ぬかのぬるっとした感覚に違和感を覚えつつも、竹竿でこすると気持ちいい。掛け湯しかできないが風呂は風呂だ。心が洗われるようだ。


「オウ、ひでよしさん。身長とは似合わずに立派なものを持っているのデス」


「ど、どこをみているん、ですか。弥助やすけ殿」


 ひでよしは大事な部分を手ぬぐいで隠し、顔を真っ赤にする。ハッハッハと弥助やすけが笑う。お前ら、さっき、相撲で散々、見せ合ってなかったっけ。


「おまえら、仲いいな、まるでホモに見える」


「オウ。ホモとはなんですかホモとは。弥助やすけはバイなのです」


「余計にタチが悪いわ!」


「ホモの攻め下手と掛けまして、ブサイクな嬢との夜伽とときマアス」


「その心はぶひい?」


「タチが悪いのデエス」


 ひでよしもツボにはいったのか、3人で大笑いしている。こいつら、下品だ、下品すぎる。


「あれ、その馬鹿っぽい笑い声は、あんたら、ここの湯に来てたんだね」


 衝立ついたての仕切りの向こうから聞こえてくる、この声は椿じゃねえか。あいつもここ【おおいお湯】にきてたのかよ。


「そうだぶひい。奇遇なんだぶひい。牛の乳目当てにお前ら、きたんだぶひい?」


「ああ、同僚たちと来てるのよ。5文でお湯がたっぷりつかえて、しかも冷えた牛の乳が飲めるって言われてさ」


「あの冷えた牛の乳は格別だぶひい。それだけでも、ここに来る価値はあるんだぶひい」


 こいつ、田中、衝立ついたて一枚向こうには、裸の貴婦人たちがいると言うのに、なぜ普通に会話ができるのだ。こいつの社交能力の高さにやきもちをやかざるおえない。


「そ、そんなにここの牛の乳は、おいしいん、ですか?」


 ひでよしが話にかじりつく。


「ハイ、そうなのです。弥助やすけも最初は半信半疑だったのですが、田中サンに誘われて、ここに初めてきたときはびっくりしたのデス」


「へえ、そんなにおいしいのかい。それは風呂上りが楽しみだねえ」


「は、はい。わたしも楽しみ、です!」


 しまった。社交能力がないのは俺ひとりだった。くっ、こいつらの女性慣れしている謎が知りたいぜ。


「あれえ、椿。だれと話してるの?」


「あたしにも紹介しなさいよ、つばきい」


 なんだ、いきなり女性の声が増えたぞ。俺はどぎまぎする心臓の鼓動が皆に聞かれてしまうのではないかと内心びくびくしながら、身体を洗うのであった。

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