第12話「山を鎮めるしかっ!」
コンちゃんやミコちゃんに応援されて、わたし行きます!
パン工房で店長さんに告白…
…って思ったら、なんだかそんな雰囲気じゃなくなりました。
「あそこが溶岩で燃えちゃったら大変な事になるし」
店長さんの言葉にミコちゃん大泣き…どうなっちゃうの?
「コンちゃんもミコちゃんも、先輩を敬うべきですっ!」
今日は一緒にお風呂。
本当は店長さんと一緒に入れればいいけど……恥ずかしいかも。
湯船に浸かっているコンちゃんが、
「ポン、おぬし今、店長と入りたいとか思ったであろう」
うわ、コンちゃん鋭いです。
「ポンちゃんおませさん」
ミコちゃんはさっきからわたしの背中をこすってます。
「コンちゃんもミコちゃんもモウっ!」
わたし怒って言うけど、笑われてばっかり。
コンちゃん湯船の縁につかまって、
「ポン、おぬしはまずその胸をなんとかせい」
コンちゃんの手が伸びてきて、わたしの胸を触ります。
「やめて、コンちゃんのエッチ!」
「触診というのじゃ、たわけが!」
「わたし、捨ててある雑誌で勉強してるんです、そーゆーのはモグリの医者って言いますっ」
「わらわはキツネゆえ、モグラではない」
まだコンちゃん揉んでます。
えい、払っちゃえ。
あ、逃げられました。
「ポンちゃんは控えめですね」
今度は背中をこすっていたミコちゃんの手が胸を揉みます。
背後から回された両手が、しっかりゆっくり揉み揉み。
「ミコちゃんやめて~」
「揉んでもらったら、大きくなるって知らないんですか?」
「好きな男の人に揉んでもらったら大きくなるって知ってるよ」
「それなら、店長さんに揉んでもらえばいいのに……」
「そ、それが出来たら苦労しません」
「え? 苦労するところですか?」
「だ、だってこんなおっぱいで、店長さん喜ばないかも……」
二人が納得したようにうなずきます。
なんだかすごく、悔しいです。
コンちゃんのおっぱいは大きなメロンパンクラス。
そしてミコちゃんもこんもり・ぷっくりです。
それに比べてわたしはどら焼き級。
なんだかもう、二人とは一緒にお風呂したくない気分。
でもでも、ガスが勿体無いから、女の子は一緒に入らないとダメなんだって。
わたし、ずっとコンちゃん達の胸に圧倒されて暮らすんだ。
先輩なのに屈辱です。
「うーん、でも」
ミコちゃんの声。
そしてミコちゃん、まだわたしの胸を揉んでいます。
でも、なんだか落ち込んじゃって何も感じません。
「うーん……」
ミコちゃん唸ってばっかり。
見ればすごく神妙な顔です。
「ミコちゃん、どうかしましたか?」
「いや……ポンちゃんの胸なんですが……」
「?」
ミコちゃんのゆっくりとした指の動き。
なんだか、何かを確かめている感じ。
まさに「触診」ってやつでしょうか!
ミコちゃんさっきから黙ってしまってます。
も、もしかしたら、わたしの胸、病気とか!
「ミコちゃん、どうしたんですっ!」
「……」
「なにか言ってくださいっ!」
「……」
「わ、わたしの胸、病気とかっ!」
「あ、そんな事じゃないんです……」
「なんで黙ってるんです~!」
「いや、その、こんな胸もいいな~って……」
「うう……そんなフォロー要りません」
「本当ですよポンちゃん」
「わたしの胸、どうせちっちゃいもん」
「店長さん、こーゆー胸が好きかもしれませんよ」
「!!」
「この間だってキス、てれくさかっただけかも」
ポンちゃん復活っ!
この間キスしてくれなかったのも、きっとそうです!
胸だって、若いからこんななんです!
「……」
湯船の縁につかまっているコンちゃんの大きな胸。
あれは大人の胸なんです。
なんたって平家の落ち武者時代の骨董品!
「……」
こんもり・ぷっくりなミコちゃんの胸。
あれも大人の胸なんです。
話によればコンちゃんよりも年代物!
「わたし、なんだか自信とりもどしました」
そう、どら焼き級でも、店長さんが好きだったらいいんです。
夜、わたし、店長さんに勝負をかけます。
「うむ、ポン、健闘するのじゃ」
「ポンちゃん頑張って~」
コンちゃんミコちゃんも応援してます。
店長さんはまだパン工房。
明日の仕込みももう終った頃ですよ。
「早く行かぬか」
「朝になりますよ」
外野がうるさいです。
一度にらんでから、パン工房に突入。
あれれ、工房は真っ暗です。
「店長さん?」
「あ、ポンちゃん、どうかしたの?」
声はします。
店長さんいるみたいだけど、なんで真っ暗なんでしょう?
「どうしたんです……真っ暗です」
「あ、ああ、もう仕込みは終ったからね」
「どこです?」
「あー、窓の所」
見れば店長さん窓辺に立って外を見ています。
わたしも横で外を見ます。
外は真っ暗……って思ったらぼんやり赤い光。
「店長さんあれは?」
「あれ、あれは溶岩」
「ああ、噴火して流れているのですね」
「そうそう、わからなかった?」
溶岩は川のあった所を流れています。
「昼間見たら黒い固まりなだけで」
「ああ、だね、夜はあんなふうに見えるんだ」
「そうなんだ……」
赤いのがもやもやと揺れているのがわかります。
なんだかロマンチックな雰囲気になりました。
これはチャンスです。
えいっ! 腕を組んじゃえ!
「わ、びっくりした!」
「店長さん、好き!」
えへへ、言っちゃえ。
今日は行けるところまで行っちゃうんです。
「そう……」
「……」
店長さんの事だから……てっきり怒るかと思ったら全然。
わたしの頭を撫でてくれながら、じっと外を見たまんま。
「店長さん、どうしたんです?」
「うん……いや、ちょっとね」
「?」
「あの赤いの、昼はわからないよね」
「はい、夜はあんなに綺麗です」
「うん、だね、あれ、ずっと続いてるよね」
「流れたところは赤いです」
「あっちまで、ずっと続いているよね」
店長さんが窓に顔を近づけます。
わたしも一緒になって、溶岩の流れている先を見ながら、
「店長さん、わかりません」
「あ、ああ……」
店長さんわたしをじっと見つめて、
「あの溶岩がさ……ずっと流れると困るなって……」
「え……」
「ほら、流れる先は街だろう」
「街……」
わたしの中で七つの傷の男の伝説がよみがえります。
街はこわいから、わたしはどうでもいいんだけど……
「ポンちゃん、お客さんは街から来てるんだ」
「そうなんですか……」
「あそこが溶岩で燃えちゃったら大変な事になるし」
「うう……噴火を止めるしかないですね」
「うん、だね」
「そんなの嫌です!」
「!!」
ミコちゃんの声。
店長さんと一緒に振り向いたら、ミコちゃんの髪がうねってます。
泣き虫のミコちゃんが怒ると、ちょっとこわいかも。
「噴火を止めるって事は、私をまた社に帰すって事です!」
ミコちゃんから青白いオーラ発生。
真っ暗な部屋がぼんやりと明るくなります。
「わわわ、あいつ怒ってる」
コンちゃんもわたし達のところに来ました。
「私を山に帰すと言うなら、みんなを殺して私も死にます!」
ミコちゃんが手を振ると、オーラが伸びてきました。
「ふぎゃっ!」
コンちゃんが悲鳴を上げます。
オーラはわたしや店長さんにも巻きつきました。
でも、わたしと店長さん、へっちゃら。
「な、なんで効かないの!」
「ミコちゃん、わたしには山でも効きませんでしたよ」
「あ、ああ……そうだった」
「俺も効かないみたいだけど」
わたしと店長さん、オーラに触ろうとしても触れません。
「でも、コンちゃんには効いてるみたい」
さっきからコンちゃんのたうちまわってます。
「ミコちゃんやめて、コンちゃん死んじゃいます」
「あ、はい……」
とりあえずオーラ終了。
でも、コンちゃんはこんがり狐色に焼けました。
「もう、ミコちゃんオーラなんか出すんだから」
「だ、だって私を山に帰そうとするから」
「ミコちゃん山の神なんですよね」
「辞めます」
そんな、わたしに辞めるって言われても、
「ポンちゃんが山の神になったらいいじゃないですか」
「わ、わたしは店長さんのお嫁さんになるからダメ」
「ほら、自分が神になって、あんな寂しい所に行くのが嫌なだけなんです」
「そ、それはちょっとあるかも」
「わーん、みんなで私をいじめるんだ!」
神さまなのに、すぐにいじけるんだから。
「でも、ミコちゃん山に帰ってくれないかな?」
店長さんが静かに言います。
「わーん!」
ミコちゃん駆け出します。
パン工房を出て行っちゃいました。
足音はそのまま二階の部屋に行きましたよ。
出て行くわけじゃ、ないんですね……
「ポン、店長」
「!!」
すすだらけのコンちゃんが、体を起こしながら言います。
「おぬしら、本気で帰れと言うとるのか?」
「……」
「どうなのじゃ、ポン、泣いているあいつを帰せるか?」
「う……」
「店長もどうなのじゃ?」
わたしとコンちゃんで、じっと店長さんを見ます。
嫌そうな顔をして店長さんが、
「そ、そりゃ、泣いてる女の子を追い出すなんて出来れば」
店長さん愛想笑いを浮かべて、
「それにミコちゃんが来てから売上もいいし」
「店長は何をのんきな事を言っておるのじゃ、山が火を噴いておるというのに」
「あの噴火も、あの程度なら……」
「もっとひどくなるかもしれんじゃろうが」
「そうかなぁ」
「ポン、一緒にあの人柱をやっつけるぞ」
「え、わたしもやるの?」
「当たり前じゃ、ポンが連れてきたんじゃろうが」
「そ、それはそうだけど、そんなに嫌わなくても」
「わらわが嫌っておるだけとでも、思っておるのか!」
「だ、だってミコちゃんに封印されたんだよね?」
「そんな昔の事、もう根に持っておらぬ」
でも、すごく根に持っているようにしか見えません。
「ともかくもう寝なよ、ミコちゃんの事は明日にでも考えよう」
「起きろっ!」
まだ真っ暗なのに、いきなり起こされました。
噴火がひどくなりました。
ミコちゃんは押し入れに篭ってます。
ああっ! 溶岩が迫ってくる~!




