表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

第二話 女騎士に出会う

第二話 女騎士に出会う


「これが俺の居住区か?」


 思わず声が漏れた。


 目の前にあるのは、もはや城というより廃墟だった。


 城壁は崩れ、窓は割れ、壁には巨大な爪痕。部屋からは灰色の曇り空が見えている。いや、見えすぎている。天井が半分ない。


「激戦区……確かにその通りなんだろうな」


 土埃。黒煙。遠くから響く爆発音。


 静かに暮らしたい俺とは致命的に相性が悪かった。


「……帰りたい」


 だが帰ったところで、魔王城には期待と勘違いが満ちている。たぶんここより面倒だ。


「レオニス様」


 後ろから声がした。


 振り返ると、魔族兵が青ざめた顔で立っている。


「本来であれば歓迎式典を行う予定でしたが……」


「いらない」


「助かります」


 本音が漏れてるぞ。


「現在の被害状況ですが、東側城壁が昨日崩壊しました」


「うん」


「食糧庫が一つ燃えました」


「うん」


「西地区で人族軍との小規模衝突が続いております」


「うん」


「さらに――」


「もういい」


 頭が痛い。


 平穏とは真逆。完全に戦場のど真ん中だった。


 その時だった。


「敵襲!!」


 城内に怒号が響く。


「人族の騎馬隊を確認!!」


「居城へ接近中!!」


 崩れた城壁の向こうで土埃が舞い上がる。


 その中を数十騎の騎馬隊が駆けてきた。


 先頭を走る一騎。


 銀色の鎧。長い金髪。


 泥と血で汚れながらも、その姿勢は崩れていない。


 女騎士だった。


 まあ、先頭にいる辺り隊長なんだろう。


 転生してから初めて見る人族。


 百年間、魔王城の奥で生きていた俺には、人との接点なんて一切なかった。


 だから少しだけ不思議な感覚だった。


 そして同時に、妙に会ってみたいとも思った。


 だって元々、人間だから。


 女騎士は損傷の激しい城壁の上に立つ俺を睨みつける。


 その目には敵意と覚悟があった。


 魔族領最前線。


 きっと互いに、嫌というほど殺し合ってきたのだろう。


「迎撃準備!!」


「弓兵前へ!!」


「レオニス様、お下がりください!!」


 騒がしい。


 だが女騎士は、俺から視線を逸らさなかった。


 ……まあ。


 俺をこの場の領主だと認識したのだろう。


 自分でも思う。


 皆ぼろぼろな武装なのに、俺だけ真新しい服だ。


 綺麗な黒衣に装飾付きの外套。傷一つない長靴。


 どう見ても偉い奴だった。


 女騎士が長槍を向ける。


「……新たな魔族の長か」


 声は疲れていた。


 騎馬隊も限界なのだろう。鎧は傷だらけで、馬も息が荒い。


 それでもここまで突っ込んできた辺り、相当追い詰められている。


 俺の感想は一つだった。


(大変そうだな……)


 女騎士は鋭く叫ぶ。


「我が名はエルミナ・クロイツ!! 王国騎士団第三騎士隊隊長!!」


 数十騎の騎士達が槍を掲げた。


 統率は取れている。ぼろぼろでも精鋭なのだろう。


「新たなる魔族の長よ!! 名を名乗れ!!」


 周囲の兵士達がざわつく。


 魔王一族へ名乗りを求めるなど、本来なら無礼極まりない。


 だが俺は普通に答えた。


「レオニス」


「……それだけか?」


「名字まで必要?」


 エルミナの眉がぴくりと動く。


 仕方なく続けた。


「レオニス・ヴァルガルド」


 その瞬間。


 エルミナの目が見開かれた。


「ヴァルガルド……魔王一族か!!」


 空気が変わる。


 騎馬隊が一斉に兜の面を下ろした。


 完全に突撃態勢だった。


「全軍――!!」


 騎馬が地面を蹴る。


 数十騎が一斉に俺へ向かって加速した。


 ……うわ、本当に来た。


 だが俺は、迫ってくる騎士達を見ながら別のことを考えていた。


 食事も取れてない。


 疲労困憊。


 死にそうな顔で突撃。


 ……ブラック企業時代の営業部みたいだな。


 そして気付けば叫んでいた。


「歓迎しよう!!」


 ――轟音。


 空気が震えた。


 崩れた城壁が揺れ、黒煙が吹き飛ぶ。


 ……あ。


 久しぶりに大声を出したせいで、つい魔力が漏れた。


 魔族兵達は尻もちをつき、騎士団はまとめて落馬している。


「な、なんだこの魔力……!!」


「化け物か!!」


 エルミナですら長槍を突き刺しながら耐えていた。


 ……なんだろう。


 魔力って不便な気もする。


 普通に会話したいだけなんだけど。


 俺はため息を吐きながら、半壊した城門へ向かう。


 そして自然と身体が動いた。


 社畜時代の癖だ。


「遠路ご苦労さまです。どうぞ中へ」


 完全に営業モードだった。


 騎士団は何故か震えていたが、逆らう気はないようだった。


 わかる。


 その気持ちはよくわかる。


 社畜だったから。


 理不尽に強い相手には逆らえない空気ってあるんだよな。


 城内はさらに酷かった。


 廊下は崩れ、壁には穴、天井は所々抜け落ちている。


「話せそうな場所……たぶん広間だな」


 なんとなくで決めた。


 だが広間も酷かった。


 長机は真っ二つ。椅子は粉砕。床には瓦礫。


 俺はしばらく考え、片手を上げる。


 すると瓦礫がふわりと浮き上がった。


 砕けた石材を座りやすい形に並べ、円状に配置する。


 即席の話し合いスペース完成である。


「適当に座って」


 エルミナ達は絶句していた。


 ……またやったか?


 でも椅子ないし。


 やがて全員が恐る恐る腰掛ける。


「レオニス様……本当に会談を?」


「敵ですよ……?」


「でも腹減ってる時に戦争しても効率悪いだろ」


 また全員が黙った。


 なんでだ。


 普通の話じゃないか?


 俺は空間魔法を発動する。


 広間の中央に黒い裂け目が現れ、そこから大量の食料が落ちてきた。


 干し肉、果物、焼き菓子、スープ、酒、巨大なパン。


 魔王本拠地の備蓄庫から適当に取り寄せた。


「皆の食の好みわからないしな。バイキング形式にした」


 当然のように言ったが、周囲は当然じゃなかったらしい。


「ま、魔王城の備蓄を……」


「勝手に……?」


 騎士団も魔族兵達も固まっていた。


 なので俺が見本を見せることにする。


 社畜時代のイベント営業を思い出した。


 試食コーナーで最初に食う係だ。


 俺はパンを取り、スープをよそい、普通に食べる。


「うん、美味い」


 その瞬間、広間のあちこちで腹の音が鳴った。


 やがて一人の若い騎士が限界を迎える。


 恐る恐るパンを齧り――。


「……うま」


 次の瞬間。


 騎士達が一斉に食料へ群がった。


「肉だぁぁ!!」


「スープ!! 温かい!!」


 魔族兵達も負けじと食い始める。


 さっきまで殺し合おうとしていたのに、今は酒の取り合いをしていた。


 ……なんだ。


 飯食ってる時は普通じゃないか。


 食事が進むにつれ、空気も少し緩んでいく。


 だから俺は切り出した。


「俺、争い嫌いなんだよな」


 その瞬間。


「はぁ!?」


 魔族側と騎士団側、両方から怒声が飛んだ。


「攻め込んできたのは魔族だろ!!」


「先に侵略したのは人族だ!!」


「村を焼いたのは誰だ!!」


 一気に怒号が飛び交う。


 さっきまで飯食ってたのに急に険悪である。


「やめろ」


 低い声が漏れた。


 また少し魔力が漏れたらしい。


 瓦礫が浮いていた。


 ……あ、しまった。


 慌てて下ろす。


「言いたいことあるのは分かる」


 長年戦ってきたなら、恨みもあるだろう。


 家族を失った奴もいる。


 仲間を殺された奴もいる。


 簡単に水に流せる訳がない。


 でも。


「飯食ってる時くらい、少し休めばいいだろ」


 広間が静かになる。


 誰も言い返さなかった。


 エルミナだけが俺を見ている。


「……お前は本当に魔王一族なのか?」


「俺も最近そこ悩んでる」


 素直に答えると、魔族兵達が頭を抱えた。


 安心してほしい。


 俺も同じ気持ちだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ