うごうごベイビー007
「なるほど、私の力を借りたくて尋ねてきたというわけなんですね。アリクイさん。いいでしょうこの皿谷 潜、アリクイさんの先輩さんの為に、私の苦手な訝屋さんの所へ出向いて差し上げようではありませんか」
少女は鼻を鳴らす。
少女はやはり河川敷に居た。ここ以外の宛は無かったが、何となくここにいる気がしていた。僕とこの少女、そして幼なじみとの思い出深いこの地に、怪異である皿谷 潜は引き寄せられるんじゃないか、そういう半場希望的推論だった。
「元気がいいなぁ、皿谷ちゃん。助かるよ。あの訝屋さんでも手詰まりだとお手上げらしいんだ。今頼れるのは皿谷ちゃんしかいない!」
「そうでしょう!そうでしょう!もっと期待してくれていいんですよ!もっと煽ててくれてもいいんですよ!なんたって私はこの街の地縛霊なんですからね!」
ガハハハと彼女は大きく笑みを見せてくれた。彼女はいつも通り、大袈裟に胸を張った。
——その軽さに、少しだけ救われる自分がいた。
太陽はもう頭上近くまで昇っていた。
三日三晩。
訝屋の言葉が、嫌に頭へ張り付いて離れない。
「皿谷ちゃん、一つ聞きたい。ユメミバコって知ってるか?」
「知らないですね、時間です利息が着きますってやつですか?」
「それはたぶんハコワレだ。……今はそういう冗談言ってる場合じゃないんだけどな」
「そうですか、じゃぁ真面目に考えましょう」
「1つ皿谷ちゃんの頭を、思考力を借りたくて。訝屋はもう真相に片足突っ込んでるみたいなんだ、でもアイツの事だから意味ありげに言葉を透かしてきた。かと言って、僕は正直まだ全然ピンと来ない。だから、いいかな」
「いいですよ、この皿谷の頭何個でもお貸ししてあげましょう!」
お前はいつから八岐皿谷になったんだ。
「ユメミバコっていう、いわく付きの呪具に先輩が触れた。そこから三日で、腹が妊娠後期みたいに膨らみ始めた。
訝屋曰く、呪いには“三日三晩”のセオリーがあるらしい。だから、もう時間が無いかもしれない。
僕らは、腹の中にユメミバコそのものがあるんだと思って、摘出の儀式をした。
でも違った。胎内にあったのは、怪異の塊なんかじゃなくて——生きた赤ちゃんだった。」
「なるほど、なるほど」
少女なりに事情を咀嚼し、魚の小骨をベェ吐き出すように引っかかる点を吐き出した。
「変じゃないですか? 呪いってもっとこう……祟るとか殺すとか、嫌なものじゃないんです? なのに〝赤ちゃん〟なんて、生まれるんでしょうね。子宝ですよ?」
少女は少しだけ黙った。
「1つだけ、ちょっとナイーブな事を聞いてしまうんですが、その先輩さんとアリクイさんって、実はそういう感じだったりするんです?そして、ちょっと前にアリクイさんから振ってたりとか、されるんじゃないでしょうか。いえいえ、深くは語って頂かなくて結構ですよ、図星だったからと言ってそんな大きな口をあんぐりと開ける必要はないんです。」
どうやったらそんな荒唐無稽な推論に飛躍するんだよ、皿谷ちゃん。
「見当違いだ。先輩は先輩。その振る舞いや勤勉さはお手本にするべきだと、尊敬はしている。それでも僕らの関係は先輩と後輩でしかない。断じて、そこに色恋は無い。誓って、キスなんかのスキンシップもした事は無い」
もっとも、そう言い切れるほど健全ではないが。
「なるほど、宛が外れましたねぇ。てっきりユメミバコってそういうものなんだと思ったんですよ。だって、“夢を見せる箱”みたいな名前じゃないですか。ユメミバコって」
「その先輩さん、子供が欲しかったんじゃないのかなって。……だとしたら、それって呪いというより、願いに近い気がするんです」




