47-SS
番外編(SS):雨音くんと藤華の物語
なぜ、こうなったのかしら?
こうなったというのは……とんでもなくイケメンな外国人の新入社員、雨音 悠一くんと私、櫻木 藤華は六月の最初の日曜日に。会社とはまったく関係のない、都心の一等地の駅近くの広場で待ち合わせをしていた。
なんのための待ち合わせなのかと言うと……。
雨音くんは就職に合わせ、日本に帰国したが、それ以前はイギリスで暮らしていた。彼の父親は外資系のシステム会社勤務で、イギリスに赴任しており、母親は客室乗務員。日本には母親名義のマンション(……噂では超高層のタワマン)があり、そこで半一人暮らしをしているのだという。
つまり母親は仕事の関係で日本に滞在する時は、そのマンションで過ごしているが、イギリスの旦那さんと暮らす一軒家に滞在することも多い。よって日本のマンションでは、雨音くんは半一人暮らしというわけだ。
その現状はそれとして。
そんな雨音くんと会社の隣の公園で、ランチタイムで出会って以降。
何かと行動が重なった。
給湯室でバッタリ会ったり、コンビニで顔を合わせたり。エレベーターで一緒になったり、帰り道で遭遇したり。
そうなると自然と会話も増え、そして――。
朝、いつもより少し早く駅に着き、足早に会社へ向かい歩いていると、雨音くんに声をかけられた。白シャツに濃紺のスーツ。ネクタイは深みのあるワイン色。これが真紅ならド派手だけど、黒みがかったワイン色だから、実にシックな装いに見える。
偶然だけど、私は白のカットソーに紺色のロングのフレアスカート、ルビーのピアスをつけていた。なんだかカラーコーデをあわせたみたいだ。
その雨音くんと並んで歩き出すと、彼はこんなことを話しだした。
「立ち食いそばを初めて体験しました。営業部の先輩と一緒に、外出した帰りに。イギリスではパブで立ち飲みはありますけど、そばを立って食べることに驚きました」
そんな話を雨音くんにふられた私は、こう返事をしていた。
「ああ、でも、それ言うなら、立ち食い寿司もあるんですよ」
「え、お寿司って、日本では高級食なんじゃないのですか? それを立って食べるのですか?」
「江戸時代に庶民の間でスタートしたお寿司は、さっと食べることが基本だったそうですよ。一貫の大きさもとても大きくて。手早く立ったまま食べて、終了!が当たり前だったと」
これを聞いた雨音くんは、あのサファイアのような瞳を大きく見開き、驚いた顔をした。
「現代の日本にも、そのスタイルの立ち食い寿司があるのですか?」
「ええ。あります。一貫のサイズは普通ですが、立って食べるので、値段もリーズナブル。一度だけ、私も出先で上司と食べたことがありますよ」
すると雨音くんの頬がぴくっと反応した。
「……白崎課長ですか。三十二歳で独身ですよね。いつも海外ブランドのスーツを着て、お酒好きで……仕事はできるようですけど、少し派手で。……よく白崎課長とお昼食べたりするのですか?」
「基本、私、内勤が多いですから。外出は稀ですよ。あの日はたまたまです。あと白崎課長は見た目と社内の噂より、真面目ですよ」
雨音くんはなんだか少し、ひきつった笑いを浮かべ、サラサラのアイスブルーの髪をかきあげる。
「へ、へぇ……。そうですか。……。……櫻木先輩、僕、立ち食い寿司を食べたいです」
「! もしかして私が行ったお店の情報を知りたいのかしら?」
「はい。その情報、メッセージアプリで教えてもらえますか?」
そこでメッセージアプリの連絡先を交換し、会社に着いた。
昼休み、スマホを見ると。
『櫻木先輩、僕のこと、その立ち食い寿司に連れて行ってください。土地勘がないので、場所が分からないですし、立ち食い寿司なんて初めてなので、不安です』
そんなメッセージが雨音くんから届いていたのだ。

























































