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サポーター。世界の違いを知る

 戦闘試験の手続きを済ませた僕は、1人会場の外で呆けていた。


 ユーリさんが相手にするのは間違いなく【ダイヤモンド・デュラハン】。受付のギルド関係者も唖然としていた。


 当然だ。だって学力試験を1位で突破した僕らならもっと割のいい相手を選ぶことだってできた。


 確かに【ダイヤモンド・デュラハン】を倒せば探索試験はほぼ確実に勝てるであろう地点からのスタートになる。


 だが、それを加味しても挑もうなんて考える冒険者なんて居ない。恐らく最下位の人が仕方なく戦うか、圧倒的な不利を覆すために無謀な賭けに出るかしかない。


 それでも、ユーリさんは自らそこに飛び込んで行った。きっと他の人から見たらその姿は無謀か、はたまた自信過剰とも思われるだろう。


「聞いたか?」


「あぁ。学力試験1位の奴、まさかダイヤモンド・デュラハンと戦うなんてな」


「調子に乗ってんだよ。若い女だったし」


「勿体ねぇな。結構美人だったが、殺されて終わりだろ」


 他の冒険者パーティの噂話が嫌でも耳につく。


 何をやってるんだ僕は。


 そんな噂話に心を揺れさせる己の心を恥じた。


 ユーリさんを信じると決めて送り出した。なのにこれじゃまるでユーリさんを信じられていないじゃないか。


 サポーターとして、あるまじきことだと思う。


 いや、そもそも意地になってでも止めるべきだったんじゃないかと後悔の念が押し寄せてくる。そんな自分にまた、僕は嫌気がさした。


「ほっほっほ。随分と疲れた顔をしておるの、マイン」


 そんな僕に投げかけられる声があった。


 重い顔を持ち上げると、そこには豊かな髭を蓄えた1人の老人。傍らにはエルフの中でもより一層美人な付き人をつれた彼は……。


「シルヴェスターさん……?」


 【永遠の勇者】シルヴェスター。1000年以上生きる生ける伝説を前に僕はたまらず立ち上がって頭を下げる。


「よいよい、そう固くなるな。わしとお前さんの仲じゃろうて」


「い、いえそんな。僕なんかが恐れ多い……」


 何度かシデンパーティの時にお世話になったことがある。彼の魔法は世界最強とも名高い力を誇る。シデン共々、何度助けてもらったことか。


「聞いたぞ。お主の雇い主があのダイヤモンド・デュラハンと戦うとな」


 シルヴェスターさんの言葉に先程の動揺が消え、肩を落とす。


「お主の事じゃ。何かの思惑があってのことじゃと思うが……随分と浮かない顔をしているな」


「思惑なんてありませんよ。僕は未熟者です。ユーリさんを信じるって決めたのに、本当にそれでよかったのか」


 こういう時、僕は痛感させられる。僕は勇者と呼ばれる人々とは違う世界の人間なのだということを。


 危険な賭けだとか、一か八かの戦いだとか。僕はそういうのが嫌いだ。大切な誰かが傷つく姿なんて見たくないから磐石の布陣でことにあたりたい。


 でも、世界の勇者と呼ばれる人たちはきっとそうじゃない。


 自分が死ぬかもしれない逆境を、その実力と積み上げてきた経験で押し返してしまうんだろう。


 それ故に勇者は称えられ、賞賛される。僕みたいな凡人が踏み入れない領域。届かない世界。


 ユーリさんはそんな世界で戦う僕とは違う次元に生きる人なんだ。


 本来……僕なんかが一緒に戦うなんて恐れ多い。目の前のシルヴェスターさんもまた同じ。常人のそれを超えた所にいる人だ。


「当然じゃろうて」


 そんな僕の言葉を聞いてシルヴェスターさんは笑う。


「信じることと、心配することはまた別じゃよ。むしろあのダイヤモンド・デュラハンに仲間を送り出して心配せん奴の方が人の心がないじゃろう」


「シルヴェスターさん……」


「じゃから、お主はちゃんと見届けるのじゃ。こんな所で腐っておらずに。それがきっとあの娘を支えることになるのじゃからな」


「……はい」


 そうだ。何をやっている。確かに一緒に戦えないし、僕が直接ユーリさんを助けることはできない。


 でも、僕はサポーターだ。僕を必要としてくれたユーリさんを支えるのが仕事。


 不安に駆られて大切なことを見失いかけていた僕は立ち上がる。

 

「ありがとうございます、シルヴェスターさん。せめて今の僕にできることをやってきます」


「ほっほっほ。頑張ってくるといい。わしは応援しとるぞ」


 シルヴェスターさんに深々と頭を下げて、僕は試験が行われるであろう闘技場に向けて走り出した。

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