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サポーター。無職になる

「マイン。今日でお前はクビだ」



「……え?」


 金髪の逆立った髪に、鋭い雷光のような目をした青年が突如として僕に除名宣告を下す。


「ま、待ってよ!?何で……!これまで、僕一生懸命やってきたじゃないか!?何か理由があるのか!?」


 僕はこの雷の勇者シデンのパーティを支えるサポーター。


 この世界には【冒険者】と呼ばれる職業がある。


 魔物が巣食うダンジョンを攻略したり、街を襲うモンスターを討伐したり……。


 そんな華々しい活躍をする冒険者を陰から支えるのがサポーターと呼ばれる仕事。


 モンスターの落としたドロップアイテムを拾ったり、旅の物資を調達したり……言わば雑用係みたいなもの。


 そんな僕だけれど、この前のダンジョンでも、しっかりとパーティメンバーを支えて見せた。


 索敵、荷物運搬。援護に牽制その他諸々……。


 一体なぜ突然こんなことを言い出したのかと頭を抱えたくなる。


「これを見ろ」


 するとシデンは1枚の紙を机に叩きつける。


「これは……?」


「お前が、この前のダンジョンで消費したアイテムの数だ」


 回復薬(ポーション)10個に魔力回復薬(エーテル)12個。矢が63本に臭い玉3個と聖水15個に各属性の魔石が諸々……。


「そ、それは!あのダンジョンの難易度からして必要な経費だよ!分かるだろ!?それに僕らにあのダンジョンはまだ早いって前もって伝えていたのに、突入を強行したのはシデンじゃないか!!」


 この間踏破した死霊の祠。あそこのモンスター達は軒並みレベルが高く、それでいて深いダンジョンだった。


 一応、酒場で聞いた情報でモンスターの強さや底が知れないダンジョンであることを伝えていたけれど、それでも強行したのは彼だ。


 みんなボロボロに傷つきながら、それでようやく踏破できた。ぶっちゃけ、運が良かったとしか思えない。


 だけど、そんな僕の思いは空振りの様だった。


「いや、違うぞマイン。これはお前が無能だからだ」


「そ、そんな……」


「うふふ。シデンの言う通りよマイン」


 すると、リーダーであるシデンの肩を持つように魔術師のミーアと戦士のレックスがマインを見下すように笑う。



「お前はたかだかサポーターだろう?そもそもお前のようなグズが俺たち冒険者に口出しするのが間違ってるんだ」


「そーそー。立場を弁えなさいって話よねー」



 このパーティの主力。勇者シデンを支える二柱。


 【豪傑】のレックス。そして【大賢者】ミーアの異名を持つ2人に対しても、僕は怯むことなく言い返す。


「でも、僕はパーティのためを思って言ってるんだよ。だから」



「はぁ?」



 すると、突然僕は誰かに突き飛ばされて地を転がる。



「うわっ!?」



「おいおい……まさかお前、サポーターと冒険者が同じ立場にいると思ってんの?馬鹿なの?」


 見上げるとそこにはアーチャーの【千里眼】ブラッドが醜く舌を垂らしながら僕を睨みつけている。


「その通りだ」


 ドスッ


「がっ!?」


 さらに、転がる僕に追い討ちをかけるようにハイエルフの【大精霊】サミュエルが僕の頭を踏みつけて地面に擦り付けた。


「お前がいると、効率が落ちるのだ。出費はかさむし経験値は差し引かれる。足手まといなのだよ」


「で、でも……僕だって戦闘に参加してるじゃないか……」


「はぁ!?あれで参加してるつもりだったの!?端っこの方で逃げ回ってるだけじゃない!猿でもできるっての!!」


 僕を馬鹿にするようにミーアは告げる。


 違う。あれは牽制だ。


 いくら力のあるチームだからって数で囲まれれば負ける。そうならない為にモンスターの注意を逸らして戦いやすいように立ち回ってるんだ。


 そんな僕の地道な努力もミーアには虚しい言い訳のように聞こえているんだろう。


「ね、ねぇ……考え直してよシデン。僕達ずっと一緒にやってきたじゃないか……!」


 そうだ。勇者の称号を与えられたシデン。


 そんな彼がまだ駆け出しの冒険者見習いだった頃から僕らはずっと共にやって来た仲間で、そして親友だった。


 きっと、考え直してくれる。心のどこかでそんな淡い期待をしていた。


 だが、シデンから帰って来た言葉は非情の一言だった。




「……消えろ。俺たちのパーティにお前なんかいらねぇ。2度と俺たちの前に姿を現すな」




「そんな……シデン!待ってくれ、シデン!!」



 すがるように僕はシデンに詰め寄ろうとする。


「うるせぇ!とっととここから出ていけグズ!」


 けれど、それを邪魔するレックスの剛腕。僕の弱っちい身体なんて容易く取り押さえられて地に組み伏せられた。


「素直に出ていかんのなら多少痛い目を見てもらわねばならんな」


「おっと。ちゃんとアイテムは置いていけよ、役立たず。それは俺たちが集めたアイテムなんだからな!」


「けっ。ろくなもんがねぇな、何だこの石っころ」


 僕をボコボコにしながらアイテムを物色しながら下卑た笑みを浮かべる仲間たち。


 それはかつて、僕とシデンを襲った盗賊団の顔よりも醜いように見えた。

 


「嘘だ……嘘だと言ってくれよ!シデン…シデーーーン!!」



 身動きが取れない中でも、僕は必死にシデンに向けて手を伸ばす。


 そんな僕の必死の想いを、シデンは足蹴にするとそのままミーアと共に彼の部屋へと姿を消していった。


 浴びせられるのは不協和音のように響く仲間達が僕を虐げる笑い声。


 サポーター一筋7年。


 この僕マインは今日この日。職と仲間……そして、7年にも渡る親友を同時に失った。

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