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25.一新

太陽暦1304年12月終旬 高白麗


 陸宰相より、ことの顛末を知らされたのは3日前であった。

 そして同日、張義京の妻が我へ面会を求めてき、亡命のことを知った。張義京は、我がこの国を建国するきっかけを与えてくれた1人であった。それがこうもあっさり裏切られるとはな。

 もはや笑いが出てしまう。・・・そうも言ってられぬか。

 その後至急各省の長官と領地を任せている将、無理であるなら代理を王宮に参上するよう使いを出した。

 そして今、年始でも無いのだが大広間にはこの国で我に従う臣らが大方揃っている。

「既に聞いている者もおると思うが改めて言おう。物産省長官張義京が燕へと亡命した。奴はこの国の食料を、恵楽を自身の手中に収めるため燕に流しておった」

 大広間がわずかにザワついた。知らなかった者らであろう。知っておる者らは、表情を一切変えず聞いておる。

「我はよう分かった。やはりこの国ももとはバラバラの小国群。王国になったとはいえ一枚岩では無いのだとな。よって来年、つまり2日後から新たな政体を作ることにした。従えぬ者は去るが良い。今なら止めはせん。殺りもせん」

 今度はほとんどの臣らが狼狽えておる。しかしここまでせねば、この国は安定せん。

「今後そちらには2つのどちらかになってもらうことになる。1つは領地を持ち、兵を持ち、外敵と戦うことでこの国を守る『将』。もう1つは王宮に勤め内政・外交、国を内から支える『臣』。将の禄のしくみは領民から得た納入物の4割。残りは国に納めること。ただし不正に集めることは許さん。定期的に王宮より役人を送り調査させる。また領地の規模、田畑の耕作具合なども鑑みて納入量を決定する。臣には帝銭で禄を払う。その分しっかり働いてもらうことになる」

 先にこう定めておけば、張義京は我から離れずに済んだのであろうか。いや、そうはなるまいな。結局反発して出て行ったに違いない。

「2日後、新年の儀の際にぬしらがどうしたいか尋ねる。多少は折れて貰う必要もあるかもしれんがな。それとそちらの家族は基本的に王都に住んで貰う。意味はあえて言わん」

 既にどうするか決めた者もおるようだ。しきりに頷いておる者もおる。

「では続いて、張義京の処罰に関して」

 呂伏が目録を見ながら、話を進め始めた。

 そう、今回はこちらが本題でもある。

 本人は我らが手を打つ前に、宮内の動きを察知して亡命しておる。であるならば、今回の責、誰が負うのかということだ。

「今、対外省から燕国に張義京の引き渡しを要求しております」

 そう報告したのは『呉霖(ゴリン)』対外省長官であった。

「しかし燕がそう簡単にこちらの要求を呑むのか?」

 当然疑問の声もあがるであろう。義京の一件もそうだが、この国は燕に対する評価がそもそも低いのだ。

「しかし例の粛正以降、燕の内部はガタガタと聞きますぞ?今我らに侵攻の口実を与えるのはまずいと呑むかもしれませぬ」

 「ですが」「しかし」と議論が巻き起こる。

「それよりも・・・」

 1人の臣の言葉に全員が黙った。視線は話し始めた男に注がれている。

「張義涼殿と張姫様は如何いたしますのか」

「たしかに・・・横領だけならまだしも、敵国に物資を流していたとなれば義京だけの責任では収まりますまい。一族にもそれなりの処罰を与えるべきか?」

 みながどうすれば良いのかと迷うのも分かる。この国が建国されてから初めて起きた事案なのだ。

「主よ、少し良いか」

「宰相殿か、如何した」

陸宰相殿は、我と同じ高さに座れる数少ない人物である。この女人の言葉は我でも無視できぬ。

「張義涼の才はまこと目を瞠るものである。そのような若者を殺すというのは、この国の未来を潰すも同然。どうか我に免じて許して・・・いや刑を軽くしてやって欲しい。その代わり我は陸家宗家の領地を手放し、主に生涯忠誠を誓おう」

「宰相殿よ、それはまことのことか?」

「我の言葉に嘘偽りは1つもない」

 これは驚いた。陸家はただの臣では無い。我自らが陸家へと向かい我に仕えるようにと頭を下げたのだ。それ故、陸家の待遇は他の臣とは少し違っていた。

「では白轟に預ける。いち兵士としてやり直させよ。十分な功績を挙げたならば、我の臣として再びつかわす」

「ありがたき幸せにございます」

 宰相殿が珍しく我に頭を下げる。

「しかし張姫についてはこのままというわけにはいかん。謀反人の娘が王の妃というのは面目がたたんでな、それ故張姫とは離縁し、後宮からの退去を申しつける。あとのことは好きにさせよ。誰も手を掛けようと等思うでないぞ」

 ハハッと臣らが頭を下げた。ただ、2人頭を下げていない者らがおる。

「再びすまぬな、主よ。この件について柳泉から申したいことがあるそうだ」

「はぁ!?」

 頭を下げておらん2人とは、これまた宰相殿と、そして我が今後を期待している柳泉であったのだ。

「そうか。では柳泉、申してみよ」

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