24.罪と罰
太陽暦1304年12月終旬 張姫
柳泉に父の無実を証明して欲しいとお願いしてから2週間が経ちました。
未だ事実は分かっていないそうです。ですが、後宮に戻ることを許されていなかった柳泉が近頃よく私の元を訪ねてくるようになりました。もちろん陸宰相様に許可を頂いてのことです。
しかしあまり感心できませんね。言っても私は白麗様に嫁いだ身。こうも毎日会いに来られると、変に勘ぐる方が出て来てもおかしくないのです。
ですから今日ははっきりと言わせて頂きましょう。
そう決心してからいくらか時間が経ちました。
「張姫様、柳泉殿が来られましたよ」
美麗様がいつものように私を呼びに来てくださいました。
いつも決まった時間に来られるので、こちらも用意は完璧です。
「今参ります。いつもの部屋へ通してください」
「・・・分かりました」
美麗様が遠ざかっていきます。それにしても今の間は一体?
少し気にはなりますが、柳泉を待たせるわけにもいかないので月姫様のお兄様から頂いた羽織を着ていつもの部屋へと向かいました。
「お待ちしておりました。どうぞ中へ」
部屋の前で蓮招様が待っていて、扉を開けてくれました。
「ありがとうございます」
頭をペコッと下げて顔を上げると、蓮招様はとても悲しそうなお顔をされています。
・・・なんでしょう。今日はとっても柳泉に会うのが嫌になってきました。美麗様も蓮招様もいつもとは違う。モヤモヤとした不快で不安な感情。
そんな気持ちをどうにか抑えて中へと入る。部屋には柳泉に朱妃様、月姫様、そして陸宰相様がいらっしゃいます。いつもなら柳泉と美麗様だけなのにです。
「張姫、そこへ座りなさい」
「はい」
ヒドく冷めた朱妃様の声に心臓がキュッと締め付けられます。今日は・・・もう何も聞きたくない。
でもここに来たからにはもう逃げられない。思えばここ数日、柳泉の顔色も良くなかった気が・・・。
「今回の物産省内部の調査結果が出ましたので、お伝えいたします」
柳泉は私を気遣うようにチラチラッと何度も視線をこちらに向けます。
あぁこれは・・・。私はこの場所にもう居場所がないのだと分かってしまいました。きっとこれから柳泉が言うのはそういうことだろう。
「陸宰相殿の言われたとおり、食料納入時に横領が行われていました。実行者は張義京物産省長官殿と一部の役人。運び込まれた食料を少しずつ抜き取り、物産省作成の書類の数値を書き換えていたことが判明しました。すでに犯行を行った役人は捕縛し、その証拠も押さえています。張長官殿は現在恵楽郡におるため、人をやって捕縛する手はずになっています。問題は張義涼殿と張姫様のお扱いについてです」
宮中で一時期囁かれた噂。父は悪質な噂だと憤っていたけど、あれは事実だったのね。
柳泉に変わって陸宰相様が続きをお話になられました。
「さらに面倒なことに、張義京は横領した食料を燕に流しておった。それに関与した者もすでにこちらで抑えておる。ある商団に帝銭を握らせて、海上輸送をしておったらしい。燕の山道をわざわざ切り開いてな。おそらくこの道を知っておったのはほんの一部であろうよ」
頭が痛いを通り越して、もはや気分が悪い・・・。このまま意識を飛ばしてしまえばどれだけ楽でしょうか。
続けて陸宰相様は、
「張義涼においてはわらわの判断で謹慎を申しつけておる。このこと既に主にも報告済み。そのうち三ノ妃にも沙汰が言い渡されるであろう。少なくとも、このままではいられまい。覚悟を決めておくことだ」
「宰相殿、そんな言い方しなくても」
柳泉はこう言ってくれていますが、私だって分かっています。
「柳泉いいのです。父が燕打倒の声を上げ始めてから少しおかしくなったのは私も気がついていました。おそらく兄も。それでも私達はそんな父を止めることが出来なかった・・・私達があの時に止めていれば・・・。だから私達にどんな処罰が言い渡されても全て受け入れます」
「殊勝な心がけよな。そういうわけだ。柳泉、ぬしも覚悟を決めるのだな。結果はどうであれ、その事実を突き止めたのはぬし自身なのだ。それにぬしこそ薄々勘づいておったのであろう?」
柳泉は何も言いません。私があの時あんなことを言ったから。
それ以後、柳泉は一言も発さずに帰って行きました。私も何も言えずに。
「張姫・・・」
「朱妃様、いつかはこうなると思っていた自分もいました。これまでお世話になりました。これまで良くして貰った恩は決して忘れません。月姫様も星蘭ちゃんによろしくお伝えください」
張姫様は何か言いたげに私を見ています。月姫様は・・・泣いておられました。
私が後宮に来て、まだそこまでの日が経っていないのにここまで思って頂けるなんて・・・あぁなんて幸せなのでしょうか。
「では部屋の片付けにいきます。失礼します」
「・・・私も手伝いますね」
部屋を出たところで、蓮招様も一緒にと着いてきてくれました。
あぁ・・・やはり我慢できませんでしたね・・・。
私はその場で泣き崩れてしまいました。
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太陽暦1304年12月終旬、張義京の自宅より義京の妻が王宮に参上した。高白麗と面談した際に、自宅にあったという手紙を妻は献上した。内容は、燕国に亡命するということ。それは家族に対する謝罪の手紙だった。燕国内通の動機は、高白麗が西進に消極的だったこと。恵楽郡が最前線で無くなれば、王家直轄領ではなく臣に譲渡されると思ってのことだったと。義京は恵楽という土地を手にしたかった。だが白麗についていてもその望みを叶えることは出来ない。だから恵楽の領主になることを条件に、食料を燕国に流していたのだ。
この出来事は、海興国に大きな衝撃を与えた。そしてこれをきっかけに14年ぶりに王宮内部が大きく再編されていくのだった。




