23.調査開始
投稿少し遅れました
太陽暦1304年12月上旬 柳泉
物産省棟へと入ると、数人の役人が待っていた。どうやら既に話は済んでいるようだ。
「柳泉殿、秋副長官殿がお待ちです。こちらに」
3人いるうちの1人が前に出て頭を下げて、俺を案内し始める。
案内されるのはどうやら副長官室らしい。しばらく歩くと目の前に一際立派な扉が現れた。
「柳泉です。陸宰相の代理で参りました」
「おぉ、お入りください」
中に入ると正面の机に秋幕林殿が、机の前に義涼殿が立っていた。ちなみに幕林殿は御年53歳。本来ならまだまだ新米の、しかもよそ者の俺に敬語など必要ないのだが、俺は宰相殿の代理という立場でここに来ている。宰相という立場は各省のトップでもある。代理とはいえ、俺の立場はそのトップに近しい扱いになりこうやって敬語で話されるのだ。対してこちらは年上だといってあまりへりくだってはいけない。
相手に舐められると足下を見られるから。しかしだからといって40も離れた幕林殿にため口や、宰相殿のような口調はかなり厳しい。
さんざん妥協して貰った結果、こんな感じで許して貰えたという経緯がある。
話を戻そう。
「久しいですね。幕林副長官殿」
「えぇまことその通りです。それにしても柳泉殿は随分と変わられましたな。以前より堂々とされているようだ」
「まぁあの方の下でしごかれていますから」
カッカッカと笑われる幕林殿。年の割には少し老けたように見える。原因はアゴにたくわえられた立派な白髭と深い皺のせいだろう。
「挨拶はこの辺にしておきましょうかの。先ほど義涼から聞きました。柳泉殿の主導で調査されるのですな」
「はい。今回宰相殿は来られません。俺1人で頼りないと思いますが」
「いやいや、頼りないとはそんなまさかですな。柳泉殿の提案した兵農分離策は軍部で随分と評判がよろしいようですぞ。あれだけの成果を出された御方を頼りないとは、そんな馬鹿げたこと誰が言いましょうや」
またカッカッカと笑われる。それにしても物産省の内部調査だというのに、あまり俺を煙たがっていないようだ。
「ところで父は?」
「長官殿は未だ恵楽の地にて復興に努めておられる。今回の内部調査も儂に任せると文を預かりました」
幕林殿は机の引き出しから1枚の手紙を取り出す。中を見せて貰ったが、確かに義京殿の字で幕林殿に一任すると書いてあった。
ちなみに俺は各省長官の字は見れば分かるように特訓されている。執務室には全ての報告書が集まるのだが、重要な案件は長官自ら書き送る仕組みになっている。それ故に、全員の筆跡を覚える必要があるのだそうだ。ようは偽造防止の原点だと思った。あまりにも原始的すぎる。
「あまり話しすぎると、調査が始められません。ではまずは今年1年間の食料収支関連書類をここに集めてください。不自然な点を全て洗い出して、一つ一つ潰していきましょう」
「柳泉殿・・・一体いくらあると思っているんですか」
義涼殿は既に顔が引き攣っている。まだ始まっていないのに。
「張長官からの支出報告に不審な点は無かった。申告された数値は大方妥当なところだと宰相殿も仰っている。であるならば、それ以前の問題だろう。収入分から差し引かれている可能性がある。その帳尻あわせをした結果、先月の食料収支報告で食料の収支の差があまりないのだと考えている」
「フム・・・」
幕林殿は腕を組んで考え込んでいる。まぁ考えるよりも手を動かした方がいいこともあるだろう。少なくとも俺はその手の人間だ。
近くに控えていた役人に声をかけて、対象の書類を全てここに運んでくるように頼んだ。
「それで1つ確認したいのは、各領地の食料納入は全てこの物産省に運ばれるのでしたよね?そこで各領主からの報告と、実際の量を照らし合わせて問題が無ければ王家に納入するという流れで合っていますか?」
「えぇそれで合っています。時期がやってくると、物産省の役人総出で行うのです。それには儂や長官殿も参加し、他の者と共に作業を行います」
「つまり調べるのはそこでしょうね。調べるべきは各領地の報告と物産省で作成された書類のズレ。そのズレの分が今回の調査の結果として宰相殿に報告されることになるでしょう。まぁこれもあくまで推測。あまり推測で話すと宰相殿に怒られますので、事実だけを黙々と確認することにしましょうか」
ちょうど副長官室に大量の書類を持った役人たちが現れた。このときの俺は知らなかった。この国に一体いくらの領地持ちの臣がいるのかを。
ゲンナリした顔をしているのはどうやら俺だけでは無かったようだ。




