12.献策
太陽暦1304年7月上中旬 高白麗
自室の戸の前には時間通り2人が待っておった。
「すまぬな。待たせたであろう」
「いえ、待っておりませぬ。たった今ここに来たので、むしろ父上をお待たせしてしまったと思ったくらいです」
雄全へ視線を移すと申し訳なさそうに頭を下げた。朱光の言っていることは我を気遣ってのことでは無いらしい。
「そうであったか。では今回のことは気にせずにいよう。中に入ろうか」
「はい!」
2人を伴って自室へと戻る。我がいつもの場所に腰を下ろすと2人もその場に座った。
「それで今日は何を学んだ」
「戦場における策にございます」
朱光がやけに嬉しそうに話すのは、自身の考えた策を雄全に褒めてもらったからだと察しがついた。
「そうか、して何を想定したのだ」
「燕国の恵楽御城侵攻にございます」
朱光のいった言葉が突き刺さるように感じた。朱光に悪気などあるわけが無い。むしろ知らぬ事なのだ。しかし思わぬところで出た燕の名。我の表情が一瞬歪んだのか
「主様、ご気分が優れぬようなら後ほどお伺いしますが」
雄全の気遣いを聞いた朱光も不安そうな顔をした。そんな顔をするな、我も悲しくなるであろう。
「大丈夫だ、朱光よ話を続けよ」
「・・・はい。では状況を説明いたします。雄全、地図を」
「はっ」
雄全が丸めて持っていたのは地図だったらしい。広げるのを見ると、今我の中で悩みの種になっている恵楽御城が中心に書かれていた。そして周囲を取り囲むように耕された田畑。
地図上に並べられていく駒は、そこに配置された兵達であろう。
「ふむ、この配置にこの兵数。1年前の秋の侵攻であるな」
「その通りにございます」
雄全が頷き、朱光もそれに頷いた。
「して朱光は如何してこの地を守る」
「はい。私は後詰めの城へ引いて敵を我らが領内へと引き込む策を考えました。城を獲られる代わりに敵を長く長く伸ばし、恵楽の南にある港に送り込んだ兵で退路を断つ。海を使わぬ奴らであれば、海から兵が来ることは想定していないはず。上手く切り崩すことが出来ると雄全へ言いました」
「なるほどな。雄全、この策、如何評価する。遠慮はいらんから正直に申せ」
「はっ。儂は良い策に思います。ただし時期を誤れば大変なことになりましょう。今回の侵攻作戦の時期は稲を刈り終わった後になっておりますから問題はありませぬ」
「そういうことだ。その策、先ほどの軍議にて提案しておれば大変なことになっていたぞ」
我の軍議という言葉が2人は疑問に思ったようだ。
「軍議とは穏やかではありませぬな。一体どこが?」
「そやつらだ。再び恵楽の地に攻めてきおった」
我が指さしたところを見て2人が青ざめる。
「まだ前回の侵攻から1ヶ月も経っておりませぬが」
「そこは我も疑問だった。なんの確証も無いが、何者かが裏で支援していると思っている」
「それで父上、何故私の策では駄目なのでしょうか」
先の軍議の話。雄全の言った時期のことであろう。
「軍議には陸宰相殿も来ておった。宰相殿は我が領地を荒らされることは無いよう死ぬ気で土地を守れと白轟に念押ししたのだ。朱光の策では、田畑は焼け落ちる」
「な、なるほど・・・」
今度は無念そうに呟いた。
「主様、少し儂からもよろしいでしょうか?」
今度は雄全が申し訳なさそうに我へ発言することを求めてくる。
「あぁかまわん。話せ、一体何だ」
「実は・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・それが上手くいくのか?」
「わかりませぬ。しかし、この14年という年月が上手く作用するようにも思えます。李将軍ならやり遂げてくれるやもしれませぬ」
雄全から話されたことは、非常に驚かされた。その策はまさに無謀と言える。だが、はまれば我を長年苦しめてきた呪縛から解放してくれるやもしれん。
「馬琴に伝えておく。奴には先導を任せると言ったが、一足先に恵楽御城に戻らせよう。それとこの話は我らと馬琴だけの秘密とする。燕を支援している者は案外近くにおるやもしれぬでな」
朱光は驚いてはいるが、雄全に驚きは無かった。薄々察していたのかもしれない。
良くも悪くも燕に入れるのは、我が海興国を通るしか無いのだから。




