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王立騎士団の花形職  作者: 眼鏡ぐま
本編

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78/107

78.出来ることからコツコツと

何度も確認しているはずなのに見落とす誤字。

報告ありがとうございます。

助かります。

 

「もちろんいるに決まっているじゃないですか」


 考えた結果、私は素直にいる、と答えた。

 レンバック王国の人々は見たことがなくても皆聖獣の存在を信じているし、姿絵だって出回っていると聞く。

 先代聖獣の活躍する建国記は絵本にもなっているくらいだ。

 貴族の中にはユーリを見たことがある人も多いし、最近ではちょくちょく姿を見せているが皆驚きはすれど隠す様子はない。

 つまりいると言ってしまっても問題無いということだ。


「ただ聖獣を従えたりは出来ませんが」

「ほう?」

「聖獣は気高く畏怖される唯一の存在です。正直私が魔力を供給しなくても何の問題も無く生きていられる。それなのにわざわざ僅かな魔力を求めてどこの馬の骨とも分からない小娘に従う理由なんてありませんよ」


(ユーリが誰かに従うなんて考えられないなぁ)


 助けてくれることはあっても、それは誰かが命令したからではないし、気が向かなければ私が森に会いに行っても出てこない時もある。

 ユーリは自由なのだ。


「たしかにね。もし聖獣を従えられるというなら今君はここにいないと思うしね。いやぁ、良かった良かった」


 私の答えに満足そうに頷くと、リンデン卿は椅子を引いて立ち上がった。

 そして昨日と同じように私の頭に右手を伸ばし―――見事その手を私に躱された。


(あっぶなかった!セーーーフッ!!)


 思い切り後ろに飛び退いた私と空を切った自身の右手を見て、リンデン卿は心底残念そうに溜息をつく。


「うーん、まだまだ野生動物のようだねえ。早く懐いてくれると良いのだけど」

「ホホホ。ご冗談を」

「まあいい。また来るよ。ああ、ご飯はしっかり食べるんだよ」


 そう言ってリンデン卿は去り際にウィンクをして部屋から出て行った。


(うげぇ・・。だから気持ち悪いんだって!)


「どうせなら、どうせならラジアス様にやってほしい~~っ!」


 きっと格好良いだろう。

 ああもう、想像しただけで素敵すぎる。

 先ほどの気持ち悪いリンデン卿からラジアスへ、私の中のウィンク画像が変更された。

 良かった。


「でも、結局何が聞きたかったんだろ」


『ユーリがここへハルカを連れ戻しに来ないか危惧していたのではないか?』

「あ、天竜起きてたの?」


 枕元にいた天竜がふわっと輝き、手乗りサイズになって私の元へ跳んできた。


『うむ。あれにとってユーリの能力は未知数なうえ、魔力持ちと主従契約を結んでいると互いに居場所が分かってしまう可能性があるからな』

「へー、そうなんだ」

『うむ。ところで体調はどうだ?』

「問題無いよ。というわけで朝ごはん食べたら今日もさっそく光珠を作っていきたいと思います!」

『くれぐれも無理はするでないぞ?逃げる際の体力も残しておかねばならぬからな』

「・・・それ、考えてなかった」

『・・・やはりまだ本調子ではないな』

「そうなのかも。・・・でも、そうだよね。チャンスは一度だと思って確実にやらなきゃね」


 連れて来られてもう二日目だと思っていたが、見方を変えればまだ二日目なのだ。

 幸い閉じ込められているとはいえ食事も出るし、お風呂も入れて上質なベッドで寝ることが出来る。

 今のところリンデン卿が私に何かをしてくる可能性は低そうなので、もう少し猶予はあるはずだ。

 時々伸ばされる気持ち悪い手を躱せれば心もまだ耐えられる。


≪家に帰るまでが遠足ですよ≫


 ふと、日本にいた時に聞いた懐かしい言葉を思い出した。

 そうだ。

 レンバック王国に帰るまでが脱出なのだ。

 光珠作りで疲れて倒れている場合ではない。余力を残しつつ光珠作りに励むとしよう。

 決意も新たに私は朝食をしっかり摂り、光珠作りを始めた。

 そして作ったそばから天竜に与えていく。

 その後いくつかの光珠を天竜に与えたところで普段と違う所に気が付いた。


「ねえ天竜。何で今日はその大きさから変わってないの?もしかして全然魔力足りてない?」


 昨日までの天竜は光珠を飲み込むたびに少しずつ大きくなっていき、最終的には馬くらいの大きさになっていた。

 しかし今日はいくら飲み込んでも大きさは手乗りサイズのままだった。


『ああ、そうではないぞ。昨日ハルカにもらった魔力がだいぶ我の身体に馴染んだのでな。身体の大きさを意識的にコントロール出来るようになったのだ。大きくなろうと思えばなれるぞ』

「そっか、なら良かった」

『ただ幼体の頃は少しの魔力で成長できるが、成体に近づくにつれ成長に使う魔力は多くなるから・・・焦ってはならんぞ?』

「大丈夫だって!もう無茶はしません。一緒に帰ろうね」


 そう言って私が笑えば天竜も笑顔を返してくれた。





 お昼を過ぎた頃、私は昼食のサンドウィッチを頬張っていた。

 今までは食事時になると、リンデン卿自ら食事をこの部屋に運んで来ていたが、今回は違った。

 茶色いローブを着た怪しさ満点の男が、お昼よりも早い時間にサンドウィッチを持って現れたのだ。

 初めて見るその男に警戒していると、男は無言でサンドウィッチの乗った皿をテーブルに置くと、代わりに朝食の乗っていたトレーを持ち、そのまま部屋を出て行こうとした。

 私は思わず話しかけた。


「あの、リンデン卿は?」

「・・・・」

「えっと、貴方は誰ですか?」

「・・・知る必要は無い」


 それだけ言うと男は今度こそ部屋から出て行った。


「・・・これ、お昼ご飯ってこと?」


 ということは、リンデン卿は今現在いないということだろうか。これが昼食だとすると午後までいない可能性も考えられる。

 もしいるなら絶対リンデン卿がこの部屋に直接来るはずだ。

 もしや今が逃げるチャンスかとも思ったが、あのいかにも貴族風なリンデン卿が一人で暮らしているとは考えづらい。

 私がいるこの部屋がどこにあるのかは分からないが、最初に会った時にリンデン卿はこの屋敷の主だと自分のことを言っていた。


(ってことはここは屋敷の一部ってこと・・・さっきの人の他にも働いている人たくさんいるのかな、いるんだろうなー)


『どうした、ハルカ?その食事はそんなに不味いのか?』


 私がうんうん唸りながら口を動かしていると天竜が不思議そうに話しかけてきた。


「いやぁ、美味しいよー。こんなとこでも出てくる食べ物はすごく美味しい」


 食べ物に罪無し。

 中に挟まっているローストビーフのようなお肉はとてつもなく柔らかいし、レタスはシャキシャキだし、たかがサンドウィッチ、されどサンドウィッチ。

 軽食が高級な食べ物になっている。

 ここにいたら確実に舌が肥えそうだ。


(でも、ケッチャさんの作ってくれた卵とベーコンのやつ食べたいな・・・)


『ハルカ?』

「天竜さ、もうこの部屋壊せそう?」

『壊すことは出来ると思うが・・・飛んで帰るのは難しいかもしれぬ。我一人なら行けるだろうが、ハルカを乗せても大丈夫な大きさを保つためにはもう少し魔力を溜めたい。レンバックまでの距離も分からぬしな』

「そっか。正直に言ってくれてありがとう」


 ついレンバックでの生活が懐かしくなり気が急いてしまったが、やはり無茶はいけないと思い直す。

 これを食べ終わったら少し仮眠をとってまた夜まで光珠作りをしよう。

 休める時にしっかり休み、体力をキープし、光珠を量産する。

 天竜の予想だと二日もあれば脱出出来るようになりそうだと言っていたし、早ければ明日にでもここから逃げることが出来るかもしれない。

 私はただ大人しく怯えて助けを待つようなか弱い女ではないのだ。

 正直なところ助けに来てもらえるなら嬉しいが、外の状況が分からない今はそれを待つより自分で出来る範囲内で努力するべきだと思う。

 この世界に来てしまった時だってそうだった。諦めたって状況は良くはならないのだ。

 出来ることからコツコツと。


(見てろ、リンデン卿!こんなところさっさと出てってやるんだから!)


読んでいただきありがとうございました!

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挿絵(By みてみん)



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