77.拉致2日目
ブクマ&評価&感想などありがとうございます。
いつもと違うふかふかなベッドの上で目を覚ます。
一瞬ここがどこだか分からなくなったが、自分が寝そべる上等なベッドの感覚に自分の状況を思い出した。
窓が無いこの部屋に朝日が入ることは無いが、時計を見ると5時半を指していた。
時計を見た時は一瞬朝か夜かどちらだろうと思ったが、お腹の空き具合からみておそらく朝だろう。
寝てから3時間ちょっとしか経っていないのにいつもと同じ時間に目が覚めるとは、私の体内時計もなかなか優秀である。
光の差し込まない部屋なのに、すぐに時計を確認出来るくらい明るいのは天井からぶら下がっているシャンデリアのような照明器具があるからだろう。
昨日は何も思わなかったが、あれは一晩中点きっぱなしだったのだろうか。
というか、どうやって消せば良かったのだろう。
(電気代無駄じゃない?・・・いやそもそもあれ電気じゃないのか)
そんなどうでも良いことを考えながら少しずつ頭を覚醒させていく。
昨日は張り切って光珠作りをしたせいで倒れこむように寝てしまったようで、私は掛布団の上に寝ていた。
しかし足元を見ると少しだけ布団がめくり上げられ脚に掛けられていた。
この部屋には私と天竜しかいなかったはずなので、おそらく天竜が小さい手か口を使って掛けてくれたのだろう。
(なんて良い子なんだ!)
頑張ってやってくれたのだろうその姿を想像して顔がにやける。
可愛さしかない。
そんな天竜はしっかり毛玉の姿に戻って私の枕元で寝ていた。
寝ている天竜を起こすのも可哀想なので朝の日課のストレッチをすることにした。
睡眠時間が短い割にしっかり体力は回復出来ていそうなのですぐにでも光珠作りを行いたかったが、天竜が起きていないとこの部屋に誰かが近づいてきても気づくことは難しい。
天竜の存在も光珠作りもばれるわけにはいかないので今は止めておく。
普段ならストレッチに加えランニングもするところだが外に出られない今は仕方がない。
(いつでも逃げられるように、体動けるようにしておかないとね)
誘拐はされてしまったが、天竜が一緒だし逃げる方法もあると言ってくれたからかそこまで気落ちせずに済んでいる。
助けなど来ないと言われたが、こんな私でも一応レンバック王国では重要人物なはずだし、そんな人物がいなくなったとなれば捜索はしてくれているだろう。
ただ、国境を越えてしまったとなるとどこまで動けるかは分からない。
手掛かりもどれだけ残してきたか分からない。
少なくとも何かしらの証拠が無ければいきなり国を超えての捜索は難しいだろうと想像出来る。
それならば自分たちで道を切り開くしかない。
もし失敗したとしても、本来の姿に近づいた天竜が現れれば必ず人々の話題に上がるはずだ。
たとえ天竜の存在を隠そうとしても、あれだけ大きな存在が空を舞えば必ず人々の目に留まり、完全に隠蔽することは難しいだろう。
最悪天竜だけでも逃げてくれれば必ずラジアスやユーリに私のことを伝えてくれるだろう。
(よーし!やってやるぞー!)
人間何かしら目標があると頑張れるものである。
ストレッチを終えた私がその勢いのまま床で腕立て伏せをしていると、いきなりガチャッと入り口の扉が開いた。
食事の乗ったトレーを手に部屋に入ってきたリンデン卿と腕立て伏せをしていた私の目が合う。
「・・・君は、そんなところで何をしているのかね」
「・・・腕立て伏せですけど」
「腕立て伏せ・・・」
いや、だってね。
ベッドの上はふかふかすぎるし、私は壁立て伏せより普通の腕立て伏せ派なんです。
まあ、リンデン卿が驚いているのはそういうことではないのだろう。
おそらくリンデン卿の知っている女性というのは筋トレなどしないのではないだろうか。
そして床に這いつくばるなんてことは絶対にしないだろう。
珍しいものが好きと言って憚らないリンデン卿だが、こういう珍しさは予想外であったらしい。
顔に出ないようにしているようだが口の端が引き攣っていた。
「・・・彼女は異世界の人間だ。私の常識で考えること自体間違っているんだ。うん、そうだ」
何やらブツブツ言っているが私の知ったことではない。
珍しさの方向性が違うという理由で解き放ってくれて構わないのだが。
自分の中で気持ちに折り合いがついたのか、リンデン卿は何事もなかったかのように食事をテーブルに置き話しかけてきた。
「おはよう。よく眠れたかい?・・・あまり床でああいったことをするのは感心しないな」
「おはようございます。リンデン卿が入室前にノックをしてくださるのならあのような姿をお見せしたりはしませんよ」
私はにっこり笑って答える。
これに対して何も返答が無いところを見ると、今後もノック無しに扉を開けるということなのだろう。
あまりしつこく言ってもいきなり開けられて疚しいことでもあるのかと勘繰られるのも面倒なので追及はしない。
まあノックなんてなくとも天竜がいれば開けられる前に分かるので問題ない。
「食事は・・・一人で摂らなければいけないのだったかな?」
「ええ」
昨日私が付いた嘘をしっかりと覚えているらしく、わざとらしく確認してきたが、私も当然のように返すだけだ。
「仕方ないねぇ。では食事の前に少し私の話に付き合っておくれ」
私は何も了承の意を示していないのだがリンデン卿は勝手に椅子に座り話し始める。
「君は花形職って聞いたことあるかい?」
「・・・大体が近衛兵の事ですよね?レンバック王国で言うと騎士団の第一部隊ですか」
「そう。たしかに今まではそうだったらしい。この国でも花形といえば近衛の第一騎士団のことを言う。でも今レンバック王国では違うらしいのだけれど知らないかい?」
「存じ上げませんね」
「現在の花形職と言えば君の事らしい。魔力供給係」
そう言ってリンデン卿は私を指差した。
人を指差すのは止めてほしい。はたき落としたくなる。
「はい?私ですか?自分にそんな役職名が付いていることすら初耳なのですが」
「おや、ではこれは噂話かな?」
「そもそも花形職とは人気のある、もしくは憧れの職業ってことですよね?」
「そうだね。流民で魔力供給という特別な力があって、国王や聖獣の覚えもめでたい男装の麗人と城下町では噂になっているらしいのだけれど」
ちょっと待ってほしい。
そもそも私の魔力の特性は初代国王以来という話だったし、仮に魔力供給係と言う仕事があって、それに憧れられたとしても、供給と言う特性が無いかぎり私以外に誰も就くことが出来ないのなら花形職と言ってしまうのはどうなんだ。
それはちょっとおかしくないか、と考えているとリンデン卿はそんな私に構わず話を続ける。
「君は本当に面白い。珍しい容姿だけでなく魔力も特殊だなんてね。それを餌に聖獣を従えることが出来るというのはすごいことじゃないか」
「はい?」
なんだろう。
これはカマを掛けられているのだろうか。それとも本気でそう思っているのか。
「・・・えーっと、聖獣を従えることなんて出来ませんけど」
「おや?そうなのかい?」
リンデン卿はわざとらしく肩をすくめて聞き返してくる。
「聖獣はこの国でも知られているんですね」
「眉唾物だけれどね。昔から隣国レンバック王国との歴史の話には必ず登場するが、この国に今住まう者は誰一人として見たことは無い。見たことの無いものを信じろと言うのは難しい話だし、今では空想上の生き物だとさえ言われているよ。でも、君の話し振りだと存在するみたいだねえ」
さて、どうしたものか。
ここは直ぐに「もちろんいますよー」と答えるべきか否か。
みなさん天竜の姿を想像したりされていますか?
私の文章力が低いせいでなかなかイメージが沸かないかと思います。
そこで!
私のイメージする天竜を描いてみました。
お目汚しかとは思いますがもし良ければ活動報告をご覧ください。




