76.普段通り
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第二部隊の面々はアルベルグへ行くための準備を終えていた。
その身に纏うのは王立騎士団第二部隊の正装である濃紺の隊服である。
その隊服の上から右腕に白い腕章を巻き、同じように自分の馬の尾に白い紐を結び付ける。
この白の腕章は“攻撃の意思なし”を相手方に示すためのものだ。
最終的な協議の結果、ラジアスがユーリと共に先発してアルベルグへ赴くことになった。
第一部隊は国王がこのまま残るため共に国に残り、第二部隊の約半数がアランと共にアルベルグへ発つこととなった。
これに伴い、ここまで伏せられていた詳しい情報がアランから第二部隊の者たちにも説明された。
「―――というわけだ。さっき俺が声を掛けた者は各々白い腕章と馬の尾にも忘れず紐を結べ。いいか。苛立つ気持ちはわかるがこれはあくまでも捜査だ。一人一人の行動がどう繋がるかよく考えて行動しろ」
「「はっ!」」
皆驚きとやるせなさはあったものの、国、そして民を守る騎士として騒ぐ者はいなかった。
胸にあるのは「必ずハルカを見つけ出す」という思いだけだ。
むしろ第二部隊の中で一番ピリピリしているのはラジアスであった。
そんなラジアスに隊長であるアランが後ろからラジアスの頭を叩いて声を掛ける。
「っ!・・・何をするんですか、隊長」
叩かれた頭をさすりながらラジアスはアランを睨んだ。
「お前そんな顔をして戦争にでも行く気か?」
「・・・そんなつもりはありません」
「まあ、どっちみち俺の張り手一つ気付かないようじゃ話にならないぞ。焦る気持ちは分かるが少し気を張り過ぎだ」
ラジアスはアランの言葉にバツが悪そうな顔をした。
たしかに普段なら今の攻撃くらいは見ていなくとも避けられるのがラジアスだ。
「そう思いつめた顔をするな。お前のそのお綺麗な顔と穏やかな雰囲気で相手を懐柔するくらいのつもりで行ってこい」
「こんな時に薄ら寒いことを言うのは止めてもらえますか」
ラジアスは冷淡な視線をアランに向ける。
それに対してアランはニカっと笑いラジアスの背中をバシッと叩いた。
「おーおー!やっといつもの調子に戻って来たな。それくらいの気持ちで行けってことだ。なに、ハルカならきっと大丈夫だ。あいつはいつだってその時出来る最善を尽くそうとしている。それはラジアス、側で見てきたお前が一番知っているだろう?」
「・・・はい。隊長の言う通りです。ハルカは絶対に諦めるようなやつじゃない。俺も今自分に出来る最善を尽くします」
(そうだ。ハルカは辛くとも必ず上を向くようなやつだ。だからこそ俺は・・・)
先ほどまでの闇をはらんだようなラジアスの瞳に変わり、その瞳に熱が灯る。
そんな二人のやりとりを少し離れたところから見ていた隊員たちがわらわらと近寄ってきた。
「やっといつもの副隊長に戻りましたね!」
「副隊長の周りの空気が怖すぎて俺たちじゃ声掛けられませんでした。やっぱり隊長はすごいですね」
「お前たち俺の偉大さが分かっただろう」
「・・・そんなにか?」
ラジアスが聞けば周りは皆うんうんと頷きあう。
「そんなにです」
「空気だけで人を殺せそうなくらいに。野生動物なら確実に逃げます」
「自覚が無いところが余計に怖かったです」
口々に言われる言葉に気まずさを覚えながらもラジアスは皆と向き合う。
「悪かったな。だがもう大丈夫だ。隊長とお前たちがアルベルグに着く頃には何かしらの突破口を見つけておけるように尽力する」
「頼みますよ!」
「なんなら隊長たちが着く前に解決してしまっても良いんですよ」
「聖獣様が一緒に行くなら百人力ですし」
「そうですよ。手柄を独り占めしても誰も文句は言いません」
皆がラジアスを囲む。
そこには先ほどまでの緊迫した雰囲気は無かった。
だがそれは決して今回の件を暢気に捉えているわけではない。
そんな隊員たちの姿を見てアランは思う。
(そうだ、これで良い。「普段通り」それでこそ本来の力が発揮出来る)
普段のアランは隊長としての仕事(主に書類仕事)をラジアスに丸投げすることが多い。
鍛錬ばかりに精を出し、いつもラジアスに小言を言われ、時には打ち合いで副隊長のラジアスに後れを取ることだってある。
しかしひとたび第二部隊として隊を動かすことになった時、一番隊をまとめられるのはやはりこのアランなのだ。
一人一人を理解する力。
何事をも動じず受け入れることの出来る器の広さ。
突発的なことに器用に対処できる適応力。
どんな時でも普段通りを貫ける精神の強さ。
それらに優れた男であるからこそアランは隊長なのである。
ヴァウォ―――ン グルルル ヴァウォ――――ン
和やかな空気の中、突如獣の遠吠えが聞こえた。
「あれは・・・聖獣様か?」
「そうだ。聖獣様の声だ」
「ラジアス」
「はい、ユーリが呼んでいるようです。書状の用意が出来たのでしょう」
ラジアスはユーリの声がする方を向いていた顔を一旦戻し、アランや隊員たちの方に向き直った。
「では、先に行きます」
「おう!油断は禁物だが、焦りも禁物だ。いつも通り冷静なお前でいろ。もし俺たちよりも先にハルカに会ったらよろしくな!」
アランのその言葉にラジアスは一瞬表情を緩めると「そうなるように頑張りますよ」と一言言って王城へと向かい走っていった。
王城の前には国王とダントン、騎士団第一部隊、そしてユーリが待っていた。
「待たせたな、ガンテルグ。これが書状だ。頼んだぞ」
そう言って手渡されたのは書状入りの木筒だ。
木筒には国名と国章が刻印されており、一目でレンバック王国からの正式な書状だということが分かるようになっている。
「はい、お任せを」
「・・・」
国王がラジアスをじっと見る。
「・・あの、何か?」
「いや。先ほどまで人を射殺さんばかりの眼差しをしていたから少し心配していたんだが・・・大丈夫そうだな」
つい先ほど隊の皆に同じことを言われたばかりだったラジアスは思わず苦笑した。
「無用な心配をおかけして申し訳ありません。今しがた隊の皆にも同じようなことを言われたばかりです」
「冷静さを取り戻しているならそれで良い。あれでいてユーリも殺気立っているからな。暴走しないように気をつけてくれよ」
『・・・聞こえているぞ』
国王は少し遠くにいたユーリのことを言ったが、その言葉はしっかりと聞こえていたようだ。
ラジアスはしっかりと頷くと「では、行きます」と一礼してユーリの元へ向かう。
「よろしく頼む」
『ふん。さっさと乗れ』
ラジアスをその背に乗せるとユーリは森に向かって走り出した。
いつも読んでいただきありがとうございます(・∀・)
今回は何というか、アランの回でした。
たまには隊長としての存在感を出しとかないと、と言うことでなかなかラジアスが活躍できません(笑)
そしてそのまま次はハルカサイドに戻る予定です。




