22.いろいろ ※ラジアス視点
ブクマありがとうございます。
ハルカの勉強が始まってから時々夜に執務室で話をすることが習慣となっていた。
ハルカが森に走っていった日、その日の夜も執務室でハルカの言っていた“いろいろ”を含め今日あったことを聞いていた。
「―――― そんなわけで、ダントン先生は私が裏切らない限りはたぶん味方でいてくれそうです」
「そんなわけってどんなわけだ・・・」
俺は眉間に出来た皺を伸ばすように額に手を当てた。
魔導師長のダントン・ルースは柔らかな雰囲気を持つ当代きっての魔導師だ。それだけではなく建国当時からある由緒正しき公爵家の当主という顔も持つ。
さらに国王陛下の魔法の師匠ということもあり陛下からの信頼も厚く、誰もが敵に回したくない人間と思っているだろう。
そんな男に真正面から切り込んでいくとは、知らないとはいえ無謀すぎる。
「俺は確かに利用されないようになれとは言ったがそんな無茶をしろと言った覚えはないぞ・・・」
「しかしですね、先生は公爵家の当主なんですよね?しかも一見にこやかですけどそれだけじゃない腹黒さもありそうですし、何よりこの国の誰よりも国王陛下側の方でいらっしゃる。そんな方に警戒される程度には私は厄介な人物なわけです。それだったら自分から全て開けっ広げて話してしまったほうが良いのではないかと思いまして。私に近づく者も少なくなるでしょうし」
俺は正直驚いていた。
ハルカはダントンが味方につくことのメリットまでもしっかりと理解していた。ダントンが味方に付くということは、すなわちルース公爵家がハルカの後ろ盾になるということに他ならない。
もしもハルカに私的な思惑を持って近づきそれにダントンが気づけばすぐにでも陛下の耳に入ることになる。そんな危険を冒すようなバカは、それこそ本当のバカだけだろう。
「まあ結果的に心強い味方が出来たんですから良いじゃないですか」
「それはそうだが・・・いつも上手く事が運ぶとは限らないぞ。次に動く時は俺にもひとこと言っておいてくれよ」
「時と場合によりますが善処します」
素直に頷かないあたりが何とも怪しいが、これ以上しつこく言っては報告すらしなくなりそうなので諦めて話を変えることにした。
「それにしても僅か半月でずいぶんとこの国に関して詳しくなったな」
「それはもう必死に勉強していますからね。ダントン先生の手が空かない時はずっと座学ですよ。こんなに真面目に勉強するのは久しぶりです。
ちなみに最近地味に驚いたのは副隊長が侯爵家の方だったということですけど」
「なんだ。そんなことまで教わったのか。侯爵家と言っても継ぐ爵位も無い三男坊だからな。それに王立騎士団の第二部隊まではほとんどが貴族の者ばかりだ。急に畏まってくれるなよ?」
ここまで言って最近感じていた違和感に気付いた。
「もしかして最近妙に丁寧な物言いをするとは思っていたが・・・そのことを知ったせいか?」
頷くハルカを見て余計なことを教えてくれたと舌打ちしそうになった。
ハルカは初めて会った時から乱雑な話し方をしたりすることはなかったが、ここ最近妙に畏まった話し方をするような気がしていた。気のせいかとも思ったが何となく距離を感じて面白くなかったのだ。
「勘弁してくれ。頼むから今まで通りにしてくれ。なんならユーリと話す時のような感じでも良いんだぞ」
「えっ?!・・・それはちょっと、さすがにタメ口は無理ですよ」
「タメ口とは何だ?」
「ええっと、友達と話すような言葉遣いってことです」
「それなら普通はユーリにこそそのタメ口というのを使う者などいないがなぁ」
聖獣に友人のように話しかける者などこの国のどこを探してもハルカぐらいだと思うが、ハルカにはその認識が無いらしい。
いや、でも、と言うハルカに無理矢理タメ口とやらで話させてみることにした。
「そうだ、森に行ったということは今日はユーリに会ってきたのだろう?」
「そうなんで―――じゃなかった。そうそう、副隊長たちには魔力供給が出来るのにユーリたちには出来ないでしょ?だから初代国王がどうやってユーリたちに魔力の供給を行っていたかを聞きに行ったの」
「そうだったのか。それで方法はわかったのか?」
「わかったんだけど――――ってあーもう無理!副隊長無理です!私根っからの体育会系なので目上の人にタメ口とかはなんかムズムズします。無理です!変に畏まるのは止めますから敬語使わせてください」
また耳慣れない言葉が出てきた。
「・・・たいいくかいけい?」
「えーっと、上下関係がきっちりしている隊みたいなもんだと思ってください(なんか違うけど説明できない)」
「どうしても無理か・・・」
「無理です!」
その後も押し切ろうとしてみたが無理だと言われ、最終的にそれじゃあ話すのを止めるとまで言われたので諦めることにした。タメ口とやらで話すハルカはより近しい感じがして好ましかったが仕方がない。
元の話し方に戻っただけでも良しとしよう。
その後はユーリと話して分かったことや、魔力の練り方などに関して話を聞かれたが俺にもわからない。ハルカと同じ特性を持つ者がいないことを考えるとその方法を知っている者はいない可能性の方が高い気もする。
「とりあえず明日先生にも話を聞いてみます。ダメそうだったらいろいろ試して自分なりのやり方を見つけられるように頑張ります」
「俺の方でも隊長や隊員に聞いてみるよ」
「ありがとうございます」
少しでも役立つ情報が手に入れば良いのだが。
「それじゃあ今日はもう失礼しますね。おやすみなさい」
「ああ、おやすみ。良い夢を」
部屋を出ていくハルカを見送る。
いなくなった途端、ずいぶんと部屋が殺風景に感じられる。それは人が一人減ったせいなのか、それともハルカという人物がいなくなったからなのか。
ラジアスはまだその答えに気づかない。
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