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斎藤美由紀の話(美由紀視点)

 アタシの名前は斎藤美由紀、この春名古屋から上京して来たばかりさ。

 高校時代に組んでいたバンドでビッグになるために皆で東京に出て来たんだけど、いきなり解散することになった。

 ボーカルのアヤがバイト先の店長と不倫騒動を起こしてバンドどころでは無くなっちゃったから。

 「恋をしないと恋の歌は歌えない。」アヤは常々言っていたが、コンビニの店長と不倫してどんな歌を歌うつもりだったのか。演歌かな?

 腹が立つよりも呆れる感じでバンドは消滅した。他のメンバーは進学のために上京していたので、今後は大学の軽音部で活動するらしい。

 背水の陣で上京しているのはアタシだけだったので、アタシだけ崖っぷちだ。

 いきなり何もしていないうちに帰るのは、あまりにカッコ悪いので少し悪あがきすることにしたのは仕方ないと思う。

 バイトを掛け持ちしながら、練習スタジオの掲示板を確認する。メンバー募集を見てるんだけど、ピンと来るのがない。こういうのはフィーリングが大事なんだ。

 練習じたいはスタジオのドラムを使って続けている。おかげでヘルプでライブに出たりできるようにはなった。

 腕は上がってると思うんだけど、メジャーデビューは遠ざかってる気がする。

 モチベーションを維持するのってホントにタイヘン。

 ライブに出たり、見たりしてる時はいいんだけど、結局自分のバンドじゃないから虚しくなるんだよね。

 今のアタシは惰性でやっているだけで、夢を追いかけているなんてとても言えない。

気持ちが弱くなるほど、ファッションはロックっぽくなっていく・・・夢にしがみ付いてる感じ。親には見せられないね・・・

 惰性で練習しても身に付かないと思いながら、今日も練習スタジオに来ている。何か練習しなきゃいけない強迫観念に囚われて、いや負けた気がするから続けてるだけだね・・・

 「コンチハー、今日もいつもの部屋借りるね。一時間。」

 スタジオのマネージャーでオカマの安藤さんに声をかける。いつの間にか仲良くなっていた。それぐらいここに通ってるってことね。

 「美由紀ちゃん、ちょっと待って。」

 「何?」

 いつも笑顔で迎えてくれる安藤さんが、少し真面目な顔で言ってきた。仲良くしているアタシだから分かるレベルの変化だけど。

 「あなたに会いたいって人がいるんだけど、会ってくれない?」

 「アタシに会いたいって誰ですか。」

 「あなたって言うか、ドラムスの出来る性格の良いコを探してたから、あなたを紹介したの。そしたら興味があるって。芸能プロダクションの人なんだけど。」

 まだ具体的な話は何にも無いけど、なぜかアタシにはピンと来るものが有った。イヤ、ホントに・・・

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